情報通信の世界は変化が激しい。特に最近はその変化の激しさに拍車がかかっているようだ。それは単なる通信サービスからわれわれのビジネスや社会生活に実装されるといわれるようにデジタルサービスが単なるコミュニケーションツール以上の技術になったからだと考えられる。NTTグループのIOWN構想を中心とした新たなグループ戦略は、それを体現しているものであるといえるであろう。
NTTのIOWN構想は、2019年に発表されたNTTグループの次世代ネットワーク構想だ。そしてそれを元に各社の長期戦略、グループの再編等が行われている。このような長期的視野に立った構想とそれに基づく戦略が出されるのはいつ以来だろうか。
IOWN構想について詳しくは、上記のNTTが公開しているIOWN構想に関するページをご覧いただければと思う。
さて、本書、「NTT 2030年世界戦略ー「IOWN」で挑むゲームチェンジー」は、このIOWN構想を実現していくNTTグループの現状とそれを取り巻く国内外の情報通信産業あるいは情報通信政策の動向や課題を取りまとめたものだ。
日本の情報通信に関する歴史的な証人と言ってもいい、元日経論説委員の関口氏が編者となり、MM総研の研究員の皆さんが執筆している。
構成は以下の通り。
- 第1部 再び「世界ナンバーワン」目指す
- 第1章 「ahamo」の衝撃
- 第2章 ナンバーワンを目指すシナリオ
- 第3章 グローバル戦略目指す新布陣
- 第4章 宇宙にデータセンターを
- 第2部 進むグループ再結集
- 第1章 「ドコモ・コム・コム連合」の誕生
- 第2章 世界の研究所を再編
- 第3章 NEC、富士通と世界市場を攻略
- 第4章 次世代モビリティで三菱商事、トヨタと提携
- 第3部 新事業でチャレンジ精神鍛える
- 第1章 ローカル5Gに活路見出す
- 第2章 再生可能エネルギーでカーボンニュートラル実現
- 第3章 ドローン市場でトップを目指す
- 第4章 グループ挙げ農業DXの仕掛け人目指す
- 第5章 スポーツを地域活性化の起爆剤に
- 第6章 姿現した眠れる不動産大手
- 第4部 デジタル技術で経営改革
- 第1章 リモート型社会の働き方目指す
- 第2章 新たな人事制度でグローバル化に対応
- 第3章 セキュリティを新たな企業戦略の要に
- 第5部 NTTの未来占う情報通信政策
- 第1章 今問われるNTT分割民営化の是非
- 第2章 デジタル庁発足に伴うNTTの憂い
- 第3章 5G成功を左右する電波行政
- 第4章 GAFA先行許した情報通信政策
- 第5章 デジタル化で変化する代理店施策
- 第6部 2030年のグローバル情報通信市場
- 第1章 日本市場に攻勢かける米IT大手
- 第2章 世界規模で広がる「GAFA包囲網」
- 第3章 情報通信市場を揺るがす米中対立」
- 第4章 6G・IOWNで実現する新サービス
- 第5章 2030年NTTグループの未来像
- おわりに
- 巻末資料1~7
- 参考文献一覧*1
以上、6部構成27章からなり、NTTグループ、日本の情報通信産業の今とこれからをIOWN構想をキーに説明している。
NTTグループの中でも特に、ドコモ・コム・コム(DCC)といわれる中核企業が、法人ビジネスを統括し、DXを進め、その先のIOWN構想のビジネス化に向けて中心になっていく。DCCの動向がこれからの日本のデジタル経済の再生のポイントになろう。その他、グローバル市場、地域市場、不動産市場、その他サービス市場でNTTグループがこれまでにない活躍の場を求めている様が描かれている。各業界でゲームチェンジの仕掛け人になろうとしているのが、今のNTTだ。
そのグループ会社にはそれぞれに目指すべき目標があり、それを実現するための課題がある。それらにも触れつつ、この巨大グループ企業の動向を追っているのはなかなか読みごたえがある。そして400頁近い本書でもその詳細をくまなく追えているわけではない。読者はさらに詳細な情報を個社のHPなどで確認していくと、さらに理解が深まると思われる。
本書では、今回の取り組みのターゲットの一つがGAFAとの競争に勝つためであるという視点で書かれているが、おそらく真正面から対決したのでは勝ち目はどうであろうか。ないとは言わないがかなり難しいと言わざるを得ない。
その市場競争で勝つための考えが、こちらの澤田社長自ら書かれているパラコンシステントワールドの考え方だ。
この考え方を取り入れれば、NTTグループ、ひいては日本のデジタル産業は戦わずしてビジネスとして成功することになる*2。そのための基本的な思想であるが、その答えが書いてあるわけではない。なぜそうなるのかは、パラコンシステント・ワールドをお読みいただき、考えていただきたい。
一部、用語の使い方が甘い部分が見かけられるが、それがどこにあるか読んでいて見つけられればかなりの情報通信通だといえようか。