ICT産業において2006年はどのような年であったであろうか。
思いつくままに振り返ってみよう。
○ 規制・政策:通信・放送懇談会
竹中前大臣、松原座長の下、実施された大臣の懇談会。通信・放送の融合の問題や著作権、NHK、NTTの問題など、短期間に検討されたにもかかわらず多くの問題点が議論された。
最終報告書の内容にはいろいろ議論のあるところであろうが、この懇談会を積極的に評価しようとすれば、問題提起の報告書としてであろう。
国内におけるこの手の議論は、NTTの経営形態論をしていれば、すべて解決するという感じで、マスコミ(つまり世論から)から捉えられることが多かった。この報告書もNTTの問題は結果的にマスコミの注目を浴び、政府、自民党において2010年問題として将来の政策課題として先送りされた。
おそらく2010年における議論では、NTTグループ、特に持株会社と地域会社をいかに統合させるかという点を中心に、それを所与とした上で、IP技術を中心にした産業構造の中で競争を機能させるための制度のあり方の検討が必要とされるであろう。
Web2.0が明らかにしたように、IP技術を前提にした産業におけるNTTの存在は電話時代と異なる。それはアクセス技術や伝送技術、コンテンツ産業の成長を考えてみれば、独占力の源泉とされた、固定網のアクセス回線のほとんどを提供するということが今後の独占力の源泉としてどれだけ大きな意味があるのか・・・相対的にその競争政策上の位置づけは徐々に小さくなっていることが容易に理解できるのではないか。
一方で競合他社はNTTグループを封じ込めるためにいつまでも巨人NTTとして規制を訴えるであろう。今まではその主張を取り入れた非対称規制が導入されてきた。2010年もそのようになれば、実はそのような競合他社に配慮した政策をすることがNTTグループの制度上の独占力を温存することになっているという悪循環になっているのである。
放送産業も含めたICT産業において競争政策を貫徹しようとするならば、ブロードバンドのアクセス市場ばかりでなく、あらゆるレイヤでネットワークの標準化とそれに伴ったオープン化を徹底的に進めることが必要なのだ(問題はユニバーサル・サービスなどの社会政策をどのように担保するかという点)。
その上でNTTグループに対する非対称規制はアクセスの部分を除き解除すべきだろう。またアクセス部分における規制も将来原価などという恣意的なものではなく、商売の基本で仕入れコストに対して適正利潤を認めるものにすべきだろう。電話の時代と異なり、NTTのアクセス回線の独占力については、これからはそれほど大きくなくなるであろうと考えられるからである。
○ NTTグループ:NGNのフィールドトライアル開始、組織の見直しの実施
NTTは、苦しんでいた。電話の次が見えなかったからだ。INS、VI&P、マルチメディア、等々今までいろいろな構想が発表されてきたが、これまではあくまでも構想であり、将来にどうありたいかというNTTの希望のようなものであった。
今回は、中期戦略として電話の次を明確に示したという点で今まで異なる。その中期戦略の中心に位置するのが光ファイバとNGNであろう。
NGNが従来の電話網と異なり、レイヤ型のサービス構造になる以上、グループ内のフォーメーションもそれにあわせて組みなおすのは当然だ。
その点を無視して、単純に電話時代の発想で、NTTの組織の見直しを再編当時の考えに逆行するといって批判するのは的外れもいいところだ。ただし、競争下にある企業の戦略として、競合相手の自由を奪うためにあらゆる手段を使うという点では、そういう批判は当然だろうとは思う。この手の行動の代表的なものがレントシーキング活動だろう。
設備競争にならずサービス競争中心になっている光ファイバ市場もADSL、光ファイバ市場がレントシーキング活動の場となっているためであるといえるのではないか。競争を促進するためにNTTを規制することが一方で競合他社のレントを作り出すことになっているのではないか?
過去の技術とそれに伴う経済性を引きずり、かつ技術革新の激しい産業でいかに競争を促進させていくが、ICT産業における競争政策は今後も難しい局面が続く。
話をNTTに戻すと、NGNの成功の鍵はネットワークのオープン化をどこまで進められるかにかかっている。今までの電話の延長線上の相互接続的発想の枠内に止まるのか、あるいはWeb2.0企業がおこなうAPIを開放して、誰にでも自由に使いことを許すような枠組みで提供できるのか・・・どこまでWeb2.0的にできるのかが鍵を握るであろう。
そうにならない場合、NGN網はインターネットのような普遍的なものにはならずNTTという一企業の提供するネットワークにとどまる可能性が高い(・・・この辺りの表現は分りつらいですね^^)。その時、NGNはICT時代を担うためのインフラになりうるのだろうか・・・失敗する可能性も否定できない。
KDDIは2006年を通して、もっとも順調にビジネスを展開した企業といえるのではなかろうか。
KDDIは元をたどれば、国際電信電話(KDD)、第二電電(DDI)、日本高速通信(TWJ)、セルラーグループ等携帯電話会社が合併して今日に至っている。
KDD、DDI、日本高速通信・・・言葉は悪いがKDDは旧独占事業者、DDIはベンチャー、日本高速通信は官僚の天下り先というイメージがあった。各社の人に僕があった限りでは、そのイメージ通りだと感じたものだ。
だからこういう人種の違う会社が合併して成功するのだろうかと思われたが、今年を見る限り、もっとも組織的にもうまくいっているのではないかと思われる企業になった。特にマーケティング戦略のうまさは他の通信事業者を大きく離しているといえるのではなかろうか。
なぜここまでうまく変われたのか・・・これはあくまでも推測に過ぎないが、そこにはトヨタ自動車という存在があるのではないかと思う。自動車産業では世界一であるトヨタも、通信の世界では苦い思いをしている。日本高速通信のときだ。その失敗から学んだことをKDDIへ資本参加することにおいて、生かしたのではなかろうか。トヨタ自動車が蓄積してきたノウハウ・・・さらにうまくいかせるとき、KDDIの強さはさらに大きくなる。
2006年、KDDIは何をしてくれるのだろうか?
自動車産業と同様、ICT産業も世界に誇れる産業に育て上げるキーストーンになれるのか・・・そういう視点から来年は注目しよう。
○ ソフトバンクグループ:Vodafone買収、総合企業への脱皮
周りをハラハラさせられながらも、着実に自分の夢を実現させている・・・それがソフトバンクに対する評価。
ソフトバンクにとってインフラ部分はプロフィットセンターではない。最低限の利潤を上げられれば、あとは出来る限り、効率化し、コストを下げ、利用者の負担を減らす。そしてコンテンツ産業を育てる。孫正義は、コンテンツ産業をいかに育てるかそれを考えている。そしてそうすることがICT産業で勝ち残る戦略だということを考えている。
現在、定額料金となっているアクセス市場に、将来、従量料金が入ることは難しいであろう。ということは市場としては先が見えていることになる。最大にとっても6000万のアクセス回線×定額料金×12ヶ月という市場規模しかない(もしかしたら+αで付加サービス料)。
その点、コンテンツ産業はあらゆる商品、サービスに及び、その市場はアクセス回線市場より遥かに広く大きい規模に将来は成長する可能性を持っている。
産業人としてどこに力を入れるべきか・・・孫さんは総合通信事業者となることで、コンテンツ産業がより成長しやすい環境を自ら整えようとしている。2006年、Vodafoneを買収したことによってその目的は最終段階にきたといえるであろう。
インフラ事業者としてソフトバンクは、固定通信事業者として今後どうするであろうか。少なくとも現状のADSL事業と同水準の費用で提供できるようになれない限り、光ファイバ事業には本格的には出てこないであろう。
ソフトバンクは孫さんの会社である。そして財務は決して楽ではない・・・いや、むしろ綱渡りのところもあろう。しかし、そこを乗り越える目利きのよさとしたたかさを持ち合わせている。というより今までの通信産業が甘すぎたのかもしれない。
21世紀がICTの世紀になり、日本経済にとってその国際競争力が真に問われるのであれば、孫正義の存在はただきっかけを与えてくれたに過ぎないことになる。
まあ、孫さんは来年もいろいろやってくれるのではないかということで期待してます。
○ Web2.0:今年を象徴する言葉
言葉自体は、2005年9月にオライリーがWhat is Web2.0としてHPに発表した。日本で本格的に広がったのは、まさしく2006年になってからだった。
Web2.0はオライリーの前述の論文の中で定義されているが、それはさまざまな側面のどれかひとつでも突出していればそれでWeb2.0と言えるとされているものであり、結果としてその定義は広くあいまいなものとなっている。
よって、Web2.0の定義が人によって異なるのも当然のものなのである。またWeb3.0と言う人がいるが、現状でWeb3.0はまだ何も定義されておらず、そのような言葉を使う人は、Web2.0を正確に理解していないか、まったく内容のないものである。
Web2.0に分類されるネット企業が今後どのくらい数多く出てくるか、これがICT産業の隆盛に直結する。現状のコンテンツ・アプリケーション市場において起こっていること、つまりはWeb上で起こっていること、Web2.0がもたらすインパクト・・・それを詳細に分析することが今後のICT市場で何が大切かを教えてくれることになる。
2007年も目の離せない市場であろうことは間違いあるまい。
○ MNP:平家物語の世界の再現!
地獄から甦ったau/KDDI。天下が危ういドコモ。そしてソフトバンク・モバイル。3社の構造をより明らかにした11月のMNPの実施。まるで平家物語のよう。
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす おごれる人も久しからず ただ春の世の夢のごとし たけき者も遂には滅びぬ 偏に風の前の塵に同じ
NTT本体から分離独立したときのドコモ。そこから業界一位に上り詰め、もう他社が追随できないであろうと思ったら、auがしっかりきた。これだけ端末市場が激しく動き、ネットワーク技術も向上し、それにより新しい市場が開拓されている市場だからこそ、一寸先は闇・・・モバイル市場はこれからのIcT市場全体を暗示しているような市場なのだろう。
モバイル市場がどうなるのか・・・常に身に付けている端末だからこそ我々はこの市場から目を離せないし、ビジネスとしての可能性もまだまだあるということで目を離せない。
年内に他に思い出したら書き足します。