トヨタ自動車と言えば、世界に冠たる、日本を代表する自動車会社。自分はトヨタ車には乗った(所有した)ことはないが、乗ったことはある(当たり前か)。
そのトヨタ自動車の現社長の豊田章男氏の本を読んだ。主に彼の社長業の日々と社長としての決断、経営に対する考え方、その背景などが読みやすい文体でまとめられている本だ。
現社長の章男氏と言えば、自分にとってはトヨタイムズのCMだろう。ある日突然トヨタの社長がコマーシャルに出てきていた。しかも自分が最初に認知したのはレーシングスーツを着ている映像ではなかったかと思う。そして俳優の香川照之氏がレポートする形も・・・ん?なんで?って感じだった。
実はそのトヨタイズムに対する疑問はこの本を読むまでずーっと頭の中に燻っていた。ネットで調べれば、すぐに分かるんだけどね・・・そういう点は物臭なんだよな(自分がです)。
自動車と言えば、最近では、カーシェアだし、電気自動車だし、自動運転だし、どれもこれも今までのビジネスモデルを否定するような技術革新ばかりだ。
自分が関わっている情報通信の世界で言えば、固定電話と専用線の世界から、モバイル通信とインターネットへ、そしてクラウド・ファーストの世界への激変*1と同じか、自動車業界の人からしてみたらそんなもんじゃないんだ!と言いたいぐらいの激変が徐々に始まっているという感じだろう。
そのような中でトヨタ自動車の社長に就任した豊田章男氏の社長としての姿が描かれている。読みやすくすぐに読めてしまうけれども、そこを敢えてじっくり読みたい本だ。
章立ては以下の通り。
- はじめに
- 第Ⅰ部 人間
- 第1章 原質ーいかに育ったのか
- 第2章 居場所ーもう1つの顔
- 第3章 ルールーなぜぶれないのか
- 第4章 心象ーイチローとの対話
- 第Ⅱ部 経営者
- 第5章 門出ー逆風に抗して
- 第6章 試練ーリコール事件に鍛えられる
- 第7章 慢心ー何を恐れているのか
- 第8章 転換ー何を改革したのか
- 第9章 発想ー上から目線を廃す
- 第10章 未来ーどこに向かうか
- おわりに
以上、2部構成で、第Ⅰ部は章男氏を章男氏たらしめている出自や若い頃の環境、経験などを描いている。読んでいて、いろいろ考えさせられる。行間を読むというか、行間を想像しながら読み進めることになる。
著者の筆致は、第三者というか、あくまでも著者、取材を元にした表現者としての立場から描かれているが、実際はどうだったのか、もっと大変だったのではないかと想像しないではいられない。
第Ⅱ部は、社長になってからの苦闘の日々が冷静な筆致で描かれている。社長たるものどんな時でも大変な立場であることは変わりないであろうが、今の自動車産業を考えた時、その大変さはこれまでの歴代の社長の中でもなかったのではないか。
何しろ、10年後、自動車産業がどうなっているか分からないのだ。例えば、カーシェアが普及すれば、台数からみる市場はこれまでのように成長しなくなるだろう。電気自動車の時代になれば、これまで自動車産業を支えてきたエンジンを中心とする部材業界は転換を迫られるだろうし、さらに自動運転が実現された時、自動車産業やその関連産業がどのように変容するかは誰にも分からない。
そのような変革期にあって、自ら先頭に立ち、トヨタ自動車はモビリティカンパニーになるということを社内外に宣言し、その実現のために日々動き回る。歴史小説を読む立場で見れば、ここをうまく乗り越え新しいモビリティカンパニーを実現すればこれほど痛快に楽しく読める小説はあるまい。
しかし、当人にしてみれば、実際は数多くの課題が正面から挑みかかってくる日々であり、それに対してどう対応していくか、そのために自分は何をすべきか、寝ている間も、ハンドルを握っている時も24時間365日戦っているようなものではないか。
それでも彼は前を向き、モビリティカンパニーの実現に向け積極的な戦略を打ち出す・・・こういう経営者の下で働けるのはなかなかないだろうと思う。
今年4冊読了・・・少ない。
*1:情報通信の世界の変化はまだ続いていて、おそらくこれからも変化し続けるのだろう。次の時代は今はIOWNファーストを目指すことになる。