普段何気なく使っている技術・・・バーコードやQRコード。特にQRコード、これがあるおかげで日々の買い物がいかに楽にできるか。スマホ決済でお世話になっている人がほとんどではないだろうか。
そのQRコードがどのように生まれ、社会に普及し、今に至るかを丹念に教えてくれるのが、本書「QRコードの奇跡」だ。内容は研究書だと思うが、文体はビジネス書に近い。
QRコードについて書くうえで、その前技術とでもいうべき、バーコードの開発から紹介されており、一つの技術がどのような背景から開発されたか、またその開発過程やその後の事業化で起こってくるさまざまな困難、さらには社会インフラとして普及していく上での取り組み、あるいは標準化の問題などが取り上げられており、興味深く読める。
内容は読んでもらえればいいのだが、自分がびっくりした点として、 トヨタのグループ会社のデンソウの一部門(現在は分社化してデンソウウェーブ)の技術者の取組みから始まった*1という点だ。自動車産業の効率化のためのQRコードの開発、元はと言えばトヨタ自動車のかんばん方式の電子化がそのルーツだ。それを実現したのが、バーコードであり、その発展版がQRコード。その背景には、生産過程が大量生産から多品種少量生産へ変化したことから、より多くの情報を扱えるようになる必要があり、それで考案されたのであった。
本書は、以下の章立てからなる。
- はじめに
- 第1章 源流-アナログかんばんから電子かんばんへ
- 第2章 開発-思索から実践へ
- 第3章 標準化-国内単一業界から国際多業界へ
- 第4章 進化-企業ユーザーだけでなく消費者も
- 終章 QRコードを通じて経営を考える-革新の神が宿るところ
- あとがき
消費者にとってなくてはならないQRコードになりつつあるこの技術が元はトヨタ自動車のかんばん方式を支えるための技術であったとは知らなかった。しかも始まりは50年も前のことだ。現場での必要性から考えられたバーコード、状況が変わって進化を遂げたQRコード。それが標準化等を通し、国際化、多業界化していくダイナミズム。でもそれを実現しているのは、一人一人の人間の努力、英知以外の何物でもない。それが読みやすい文体で語られている。
分量としてはQRコードのこれまでの出来事が200ページ少々の書籍にまとめられており、その200ページから実に多くのことを知ることができる。一方で、このQRコードの開発に携わった多くの方たちの苦労はもっといろいろあったであろう・・・と読み終わった後、改めてページをめくると行間がそう言っているように見えてくる。最初はさっと読み、2度目はじっくりとという具合に2度読みしたい本だ。
著者の小川進氏は神戸大の教授であり、専門家が書かいた書籍であり、内容は信頼できる。文体は、非常に読みやすく、これからの技術戦略や技術政策を考えていく上で多くの人に読んでもらいたい書籍だと言える。特に大学生や高校生に読んでもらいたい書籍だと思う。