こういう本は読んでいて楽しい。研究者として自分の研究成果を学術論文ではなく、こういう形で出すことも、広く研究成果を世の中に知ってもらい、役立てるという点では必要だと思う。
内容は以下のとおり。まえがき、プロローグの後、2部構成となっている。まずは第一部 起源をめぐる旅から。
- 第一章 ビールとワイン
- 第二章 蒸留
- 第三章 アクアヴィッテ、生命の水
- 第四章 ウイスキー誕生
そして第二部 ウィスキーの発展へ続く。
- 第五章 アイリッシュの繁栄と衰退
- 第六章 スコッチウイスキーの奇跡
第一部では紀元前からウイスキーの誕生までをヨーロッパの政治経済史、宗教史、民族史、科学、医薬の歴史などを絡めながら、古代からあったビール、キリストの飲み物であったワイン、各種蒸留酒、その蒸留酒の中での栄枯盛衰を明らかにしている。
第一部を読むことでビール、ワイン、ウイスキー、その他の洋酒の成り立ちが分かるとともにそれらが密接に関係していることが明らかにされる。その中でウイスキーがどのようにプロセスで考えだされてきたのか、興味深く語られている。
ウイスキー起源への旅 (新潮選書) 三鍋 昌春 新潮社 2010-04 by G-Tools |
第二部は、ウイスキーが誕生した後、アイリッシュとスコッチの両ウイスキーの歴史をその栄枯盛衰を描きながら明らかにしていく。ここを読んでいると、平家物語の例の一節を思い出さずにはいられない。アイリッシュウイスキーの栄華、おごったわけではないけれども、栄華を打ち砕いた国家間の争い、その中にあって自らのウイスキーを守り通したアイリッシュの人たち。一方、大英帝国の発展とともに、いくつもの僥倖に恵まれ、発展していったスコッチウイスキー。そこには単に歴史の幸運に加えいくつもの技術革新があった。
このように本書は歴史的な視点からウイスキーが語られるが、その合間合間にアイリッシュ、スコッチの有名な蒸留所やブランド、ウイスキーを作る工程やその化学反応、酵母の話、果ては貯蔵用の樽の話までウイスキーを巡るありとあらゆる話題が満載だ。
そして著者が博士論文作成のため、あるいは仕事上でもあったであろう、アイルランドやスコッチでのディスティラリーの訪問や研修で多くの人々との興隆の中からより深くスコッチの素晴らしさを見つけて行くことも実感を持って語られている。
文体は思い入れたっぷりで、読みやすく、ついつい引き込まれてしまう。間違いなくいウイスキーを飲んでその味わいを知りたくさせる一冊だ。