ジョブズの伝記の第Ⅰ巻を読んだところだった。その内容は面白いのはもちろんだが、パソコン産業という1つの産業が誕生し、成長していく様をジョブズの視点から見られていろいろ考えさせられた。
すぐに第Ⅱ巻を読み始めるはずだったが、この頃、日本はどうだったのだろう・・・という疑問がふと横切り・・・そう言えば、あの本があったなと手に取ったのがこの本。
著者は日経新聞の関口さん。関口さんは新聞記者という立場から日本の情報通信産業を長年見てきた人だ。その人が書いた一冊、日本のパソコン産業の黎明期から成長していく様をいろいろな人の取材をもとに描いている一冊だ。日本のパソコンの歴史はこれを読めば90年代半ば、インターネットの直前までは大体分かってしまうほど、多くの関係者にインタビューし当時を描き出している。
本書の構成は以下の通り。登場人物、企業は国内外多岐に渡る。多くの人、企業の栄枯盛衰の歴史でもある。
- プロローグ
- 第1章 マイコン誕生
- 第2章 始動するベンチャー
- 第3章 国民機の開発
- 第4章 日本語ワープロ
- 第5章 外資参入
- 第6章 小さな頭脳
- 第7章 ソフトにかける
- 第8章 挑戦者たち
- 第9章 ウィンテルへの道
- 第10章 逆襲
- 第11章 一九九五年
- エピローグ
- あとがき
自分がワープロを買ったのは85年ごろだったろうか。シャープの書院だったと思う。その後、大学院に進み、博士課程の時に初めてパソコンを購入したのだが、それがNECの9801RXだったか。確か16ビットマシンの最後の機種だったと思う。それから20年、今、MacBook Proでインターネットを使いこの記事を書いている。たった30年前に起こった産業が我々の世界を激変してしまったのは、改めて思い返してみるとすごいことだと思う。
自分はパソコン少年ではなかったので、この本で描き出されている70年代から始まり80年代前半ぐらいまではほとんど知らないことだった。80年代の後半自分でパソコンを買い生活の中で使うようになり、さらに仕事でパソコンを使うようになってからは、本書に出てくるパソコンの名前は覚えがある。NECの98、シャープの68000、富士通の互換機などなど、読みながらあの頃はこういう状況だったのかと当時の思い出と本書の内容を交互に頭の中に描きながら興味深く読める。
その後、90年代までを各章でいろいろな人を取り上げながら、日本のパソコン産業の成長を描き出している。ジョブズの本はジョブズ一人の伝記、こちらは関係者一同のそれぞれの視点で描かれている。単純には比較できないけれど、日米パソコン産業の歴史を知ることができる。
もともと本書を読み始めたのは、ジョブズの伝記を読み、現状の日本の情報通信製造業の衰退を思うとき、その背景には何があったか、その要因を少しでも知りたいと思ったからだ。読み終わってどうだったかというと、はっきりしたことは分からない。
ぼんやり思うのは・・・
パソコン産業が技術革新が激しい産業だったということを前提として上の要因が大きく影響したことになったということだろうか。創業者が立ち上げたとしてもそれをさらに発展させるのは必ずしも容易ではない。ベンチャーによる新規参入はそれを社外リソースが代役する。ファブレス経営は比較優位を最大限利用しようとすると採用することになると思うのだが、日本ではそうならなかった。技術特性(例えばネットワーク効果)を、産業構造を、マーケットをどこまで分析していたのか?人的資源は、世界から人が集まってくる米国とは比べ物にならない。そして既存企業の中での新規事業の立ち上げの難しさ・・・思い浮かぶのはこのぐらいだが、これだけ揃ってしまえば衰退したことも納得してしまう。
米国のすごさを感じずにはいられないが、その米国でも情報通信産業において地域的な栄枯盛衰はあった。それが西のシリコンバレーに対し、東のボストン・ルート128になる。
- 作者: アナリー・サクセニアン,山形浩生,柏木亮二
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2009/10/08
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次はこの現代の二都物語を読むのか、ジョブズのⅡ巻を読むのか、あるいはTron関連の書籍を読むか・・・。
- 作者: ウォルター・アイザックソン,井口耕二
- 出版社/メーカー: 講談社
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以前、著者の関口さんに直接話を聞いたことがあったのだが、その際、関口さんは次は「ネット革命の旗手たち」を書きたいと言われていた。本書の最後もそれを匂わせるような記述になっているが、今日に至るまで出ていない。確か日経新聞にはそれに近いような連載記事があったような記憶があるが、その後のパソコン、ネット、情報通信産業に起こったこと*1を見れば、「ネット革命の旗手たち」を書くことはなかなか困難なのではないかと思う。でも読んでみたいな!!
今年8冊目読了しました。