ジョブズの伝記を読んだ時から気になっていたジョブズと禅宗の関係。
伝記を読んだ感想を書いたブログの記事でも、1回目は「洗練を突き詰めると簡素になる」、2回目は「すべてが一体となって機能する」と見出しをつけていて、いかにも東洋的な思想に影響を受けたことがあるようなものになっている。
それで当時気になっていたのが、「ジョブズの禅」という翻訳本。これを購入して読んでみようかと思っていたら、もっとすごい本が出たではないか。
それが今回読んだ乙川弘文の生涯、日本での弘文と米国での弘文をインタビュー記録を中心にして描いた本書だ。
日本での弘文、米国での弘文、まったく違う弘文がそこには存在して、それが矛盾なく存在するために彼に何があったのか、両極端の評価をうける弘文をどう理解すればいいのか、その答えを探すために日本をはじめ、米国、欧州の禅寺や関連施設で関係者にインタビューをしつつ、思索を回らす。
それが時系列にならんで、インタビューを受けた人が話すような文体でずーっと書き綴ってある。著者が表に出てこないこの形態は自分にとってはインタビューを受けた人と読者である自分が対面するような感じで読み進められるので考えながら読むという点で良かったと思う。
- プロローグ
- 旅Ⅰ 第1章 激賞と酷評と
- 旅Ⅱ 第2章 生い立ちから渡米まで
- 旅Ⅲ 第3章 アメリカで、ジョブズと出逢う
- 旅Ⅳ 第4章 追うジョブズ、追われる弘文
- 旅Ⅴ 第5章 ジョブズと離れヨーロッパへ
- 旅Ⅵ 第6章 最後の日々
- 旅Ⅶ 第7章 乙川弘文の地獄と手放しの禅
- エピローグ
- 旅 最終章
全体はプロローグやエピローグの他、最終章まで8章立てになっている。インタビュー中心の内容で、その中に著者の思いがよぎる。永平寺では将来を期待され、京都大学大学院でも学問としての宗教に真摯に向き合い、一生独身を誓い、仏教を極めることを目指した弘文。
それが米国に行った後は全く別人のような生き様になる。そこに何があったのか、著者の思索は、数々の関係者へのインタビューを通し、続けられる。
最後までそれは分からないままかと思ったが最後の最後で著者は一つの回答にたどり着く。これが正解かは分からないが、転依(てんね)を経た前後の弘文、そのきっかけが米国に渡った直後の引きこもりであったこと、ジョブズも弘文との交流が密だった、Appleを離れていた時期に転依を経験したのではなかったか*1・・・最後に著者がたどり着いた見立て。なるほどなあと納得しながら最後の数ページをめくった。自分に転依はあったのか?とか考えたりしながら。
正直、読んでいって最後の最後で「あっ!」という感じだった。そういうことかということ・・・この本は最初から順番にじっくり読むのがいいと思う。