日本経済新聞社で情報通信の記事を書くといえば、関口さんの名前がすぐに頭に浮かんできた。その関口さんが昔書いたのが、『パソコン革命の旗手たち』だ。
mnoguti.hatenablog.com上の記事にも書いているが、関口さんはネット革命についても本を書きたいと言っていた。確か、日経の夕刊に5回連載で書いたことがあったのではなかったか。その関口さんも日経を去り、ネット革命はついに書かれることはなかったか・・・と何年か前に思ったことがあった。
自分の中の位置付けとしては、「パソコン革命の旗手たち」の続編ということになる。時代は、90年代以降の話、盛り上がるのは21世紀になってからだ。
自分も91年に社会に出てきたので、ほぼ同時代のネットビジネスの物語ということになる・・・なので非常に身近に感じられる。いろいろ舞台裏を想像できるようなこともあるし、多くは今になって「そうだったのか」と妙に納得するところもある。
ここに取り上げられた企業や人は、書名の通り、ネットビジネスの興亡をみる上で、生き残ってきた人たち(敗れざる者)の物語となっていて、この周りには大小様々な敗れていった者たちの物語も隠れている。
この物語に出てくる、敗れざる者たちのストーリーを読むことでその周りの人たちのことも想像される。そして20年間という短く長い時間の中で、インターネットや携帯電話で世の中は大きく変わり、さらに変わり続けているその歴史(というにはまだ早いかもしれないが)の端緒がどういうものだったのかを振り返らせてくれるのが本書だ。これからの10年、20年でさらに大きな社会変革が訪れる今、本書が出版された意味は大きい。
- はじめに
- 第1章 「いつか全員黙らせたくて」ー藤田晋、若き日々の屈辱
- 第2章 インターネットをもたらした男ー知られざる霞ヶ関との苦闘
- 第3章 iモード戦記ーサラリーマンたちのモバイル革命
- 第4章 巨人ヤフーと若き革命児たちの物語
- 第5章 語られなかった楽天誕生秘話
- 第6章 アマゾン日本上陸
- 第7章 ギークとスーツー堀江貴文と仲間たち
- 第8章 ライブドア、迫る破滅の足音
- 第9章 元祖SNS・ミクシィに立ちはだかった黒船
- 第10章 逆襲のLINEー敗者がつないだ物語
- 第11章 メルカリ創業者の長い旅
- 第12章 ネバー・ギブアップー敗れざる者たち
- おわりに
ここで取り上げたれている企業は、サイバーエージェント、IIJ、docomo、yahoo、楽天、amazon、ライブドア、ミクシィ、LINE、メルカリ、USEN、GMOインターネットだ。これらの企業*1を起ち上げた人たちが主人公なわけだが、多くはどこかでつながっていて、渋谷ビットバレーがどういうものだったのかとか、本書の主人公としては出てこないが、準主人公としていろいろなところで名前が挙がる人など、これまでのIT業界、サイバー業界の相関図を読んでいるようでもあり、興味深い。
ギリギリで戦ってきた敗れざる者たちの個々の物語が12編にわたって紡がれて、全体として日本のネット社会がどのように立ち上がってきたかが見えてくる。そのネット上での興亡は今も続いており、これからは今までの延長線上にある2次元サイバー空間、今注目されているサイバー空間とリアル空間の融合(Cyber-Physical System)、そして今後本格的に起ち上がる3次元および4次元サイバー空間(Digital Twin Computing)で興亡が繰り広げられていくことになる。ネット社会の10年、20年後はどのようになっているだろうか。そしてどのような興亡記が書かれるであろうか。
攻殻機動隊の劇場用アニメの第一作の最後で主人公の草薙素子が「ネットの世界は広大だわ」と言うシーンがある。本書はその広大なネットの世界を切り開いてきた若き起業家の物語だ。非常に興味深く、面白く読める。まだ読んでない人はぜひご一読をお薦めする。