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トラヴィス・ソーチック著(桑田健 訳)『ビッグデータベースボール』:マネー・ボールは始まりに過ぎなかった!野球におけるDS革命

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米国プロ野球メジャーリーグベースボールが始まったのは、1901年まで遡る。最初のチームは1869年にシンシナチ・レッドストッキングスというチームが誕生している。100年をゆうに超える歴史を持つのが大リーグだ。日本のプロ野球もそして社会人から大学、高校、その他のアマチュア野球もすべて米大リーグを見本としてやってきた。

その大リーグで守備や打撃における常識を覆すような事実が明らかにされ始めた。それを可能にしたのがセイバーメトリクスという野球の統計学だ。その統計学を最初にチーム経営に応用したのが、オークランド・アスレチックスでそれについては「マネー・ボール」に書かれている。この物語は米大リーグにおけるデータサイエンス革命(DS革命)の始まりの物語だ。

mnoguti.hatenablog.com

今回読んだ「ビッグデータベースボール」にはさらにその後の大リーグにおけるDS革命の進捗状況が描かれている。今回は、ピッツバーグ・パイレーツにおけるDS革命を取り上げ、DS革命をチームに浸透させていくためにはどうしたらいいか、どのような苦労があったかが描かれている。ピッツバーグ・パイレーツは成績が長期に渡り低迷しており、そのため首脳陣も追い込まれていた。そのような土壇場の状況はマネーボールオークランド・アスレチックスと同様であり、だからあそこまで決断できたと言える。

A book depicting the DS revolution progressing between tradition and innovation.

伝統と革新の間で進むDS革命を描く一冊

米国におけるDS革命は、このビッグデータベースボールが書かれた当初より10年以上が経過しており、多くの球団で採用されている。それは大リーグ中継を注意深く見るとそこここでみられることからも分かる。最近では大谷翔平のショートライナーによるトリプルプレーがいい例だろう。

あのプレーを見た人はショートのファインプレーと思っている人がいるかもしれない。しかし、下記の映像でショートストップ(SS)の守備位置を見ると、ノーアウト1、2塁の状況で、セカンドランナーがいたとしても近すぎるほどの距離でセカンドベースの右後ろにいた。だからSSの選手は、本来ならセンターに抜ける大谷のライナーをいとも簡単に処理し、セカンドベースにタッチし、ファーストに送ってトリプルプレーを成立させた。ファインプレーでもなんでもない普通のプレイだった。

なぜあのプレーが可能になったのか・・・それは野球におけるDS革命が可能にした。おそらく統計上、大谷の打球は三遊間にはほとんど飛ばず、セカンドベースから左側に飛ぶことが彼の打球の傾向を分析することで明らかになっていた。それを参考にSSの守備位置はセカンド右後方とした(映像で確認できる)。そこにまんまと大谷のライナー性の打球が飛んできた。投手のすぐ上を抜ける打球・・・走者はセンター前のヒット!と思って走り出すだろう。そうするとそこにはSSが待ち構えて打球を処理し、2人の走者は簡単にアウトになってしまったってことだ。


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恐るべし!DS革命!・・・そういうプレーが今の大リーグ中継には至る所で映し出されているのではないか。そういう視点からTV放送やYouTube等の動画を見るとまた新たな楽しみが湧いてくるというものだ。

さて、「ビッグデータベースボール」はそのような試合中のプレーにいかに野球の統計学を生かし、チームを強くするかということが書かれている。そこには新たなメンバーが登場してくる。データ分析官だ。彼らはプロ野球の経験がない場合が多い。データ分析の専門家だ。首脳陣はそのデータ分析官をチームの一員として認めてもらうことから始まる。

目次は以下の通り。

  • 第1章 話し合い
  • 第2章 過去の亡霊
  • 第3章 データの裏付け
  • 第4章 隠れた価値
  • 第5章 前進あるのみ
  • 第6章 守備シフトによる挑戦
  • 第7章 消耗
  • 第8章 金を生み出す方法
  • 第9章 選ばれなかったオールスター
  • 第10章 地理的な問題
  • 第11章 投手の育成と負傷の予防
  • 第12章 魔法の演出
  • エピローグ 季節は巡りて
  • 謝辞
  • 参考文献
  • その後のピッツバーグ・パイレーツ
  • 新書版訳者あとがき

そしてそのデータ分析官からの結果で分かったことを首脳陣が理解し、対応を考え、それを選手に伝えていく。まずは投手から始まる。投手にデータ分析で明らかになった事実を説明し、納得してもらう。内野ゴロを打たせる投球だ。次は内野手だ。内野ゴロはどこに飛ぶか・・・今までとは違う守備位置で守ることを求められる。そして捕手、いかにボールをストライクに判定してもらうか。さらに外野手と徐々にチームに浸透させていく。その内容はマネー・ボールを一歩進めたものだ。

そしてその時、邪魔になるのが100年を超える歴史で頑なに信じられていた種々のことだ。投手についても、捕手についても、野手についても、今までの常識から脱却し、データで明らかになったことを忠実に実行することを承知しプレーしてもらう。それを実行できるまで何度も説明し、議論し、疑問に答える。そうすることでチームに縦の信頼感が醸成され、データ分析の結果が生かされ、彼らの成績は上向き、チームの勝利も増えることになる。

データを、統計をいかに信じてもらうかということがポイントでそのためにはコミュニケーションが大切だということが書かれている。監督とコーチ、監督、コーチ、選手とデータ分析官、コーチと選手、そして監督とチーム全体という具合にチームの縦糸をしっかり固めることが大切になる。単にデータを見て、それに基づいて指示を出しているだけではダメで、いかにチーム内で納得してデータを使うかが大切だということが分かる。

本書を読んで思うのは、これは野球の世界だけの話ではないのではないかということだ。DXを進めるすべての企業、すべての業界で共通することではないのか。単にIT機器・サービスを導入すればDXが進むと考えるのは短絡的で、経営陣はまず自分で勉強し、なぜDXなのかから始まり、それには何が必要か、それを何に使うのか、使いこなすには何が足りないかなど組織に根付かせるための彼らの努力は多方面で必要とされる。それをコンサルに任せ、部下任せにしては到底うまくいくものではない。ビッグデータベースボールを読むと経営陣がやるべきことを考えるヒントがそこここに書いてあると思う。

さて、次は、アストロボールを読んでみることにした。これはビッグデータベースボールの後に出版されたもので、野球におけるDS革命がさらに進んだ時、そこに何が必要とされるかについて書かれている。それはソフトテックと言えるものであり、数値化できない側面を評価するというものだ。

アストロボールを読み終えたら、アメリカン・ベースボール革命を読む。現状、米大リーグのDS革命について日本語で読める最も新しい書籍ではないかと思われる。

日本のプロ野球についても書かれているのでそちらもいずれ読んでみたいと思う。あるいは、そろそろセイバーメトリクスそのものの理解に進んで、自ら分析してみるのもより理解を深めるタイミングとしてはいいかもしれない。

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