美味しい肴で美味しいお酒を飲みたい時、どこにいく?って自問自答して出る答えは大概決まっている。自分の場合、いくつかあるが、その一つが、八重洲のふくべだ。
気づいてみれば、前回の訪問から2ヶ月以上経過しているということで、久しぶりに縄のれんをくぐりたくなった。いつもは比較的早い時間に行くが、この日は8時近かったので、混んでいるかなと思ったが、逆だった。カウンターがいい感じで空いていて、すんなり入ったところの角の席に座ることができた。
カウンターに座ったら、その後は急いではいけない。万事、店のご主人に任せ、注文を聞かれるまでじっと待つ。これがふくべの流儀だ。飲み終わった客人の会計などが済むと自分の番だ。まずは飲み物ということで、この日は暑かったので小瓶から。酒(ここでは酒と言ったら日本酒だ)に行く前にちょっと喉を潤したいということでグラスに一杯二杯飲む。
さて、肴は何にするって、やはり暑い時だからさっぱり行きたいねえということで、冷奴のお出ましだ。薬味のネギや生姜がいいアクセントになって、ひゃっこい豆腐を引き立てる。日本の夏には冷奴だろう。
さて、酒だ。この日は3本いただいた。最初が、五橋で渋く始め、次が開運ときたもんだ。何を開運したかったんだかよく分かんねえが、めでたい!ってこともなかったが、開運を飲んでおいた。そして最後は、決まってらあな、菊正宗の樽だ。やはりこれは美味い。そう言えば、なぜこの日、ふくべだったかと言えば、SNSでこの日が樽の口開けになるというようなことが書き込まれていたのを見たからだった。
口開けの若いやつはいいよなあ、もしかしたら前の樽も少し残っているかも・・・なんてことを考えていたら無性にふくべに行きたくなったのだった。
酒を飲みながら肴も次を頼む。最近、定番になりつつある月見だ。全卵でお願いする。これも夏の暑い時にいただくことが多いんじゃねえかい。山芋で精つけて暑い夏を乗り切ろうってことだ。
よぉく混ぜて食べるのがいい。この月見の喉ごしが好きでね。最近はよく頼むんだよ。ああ、うめえ。
さて、酒は進むよ。この頃には2本目の開運を飲ってたんじゃあねえかなと思う。どんな酒でもそうだが、その土地土地、蔵によってみんなそれぞれの味があってそれを楽しみに呑むんだな。単に美味いだけじゃないんだよ。土地の特色(水や寒暖差)とか、杜氏さんの思いとか、蔵の伝統とかそういうのが渾然一体となって一つの酒ができるってわけだ。それをちびちびやる時、一つの作品としての酒を飲めて幸せを感じるじゃねえかい*1。
箸休めに塩らっきょを出してくれた。これがまた美味しいんだよ。コリって齧って、口の中でらっきょが細かくなっていく、その時、らっきょの味が口の中に広がっていくんだ。さっぱりすらあ。
酒は、2本目の開運から、最後の菊正宗樽酒に移る頃かな・・・三の肴は鯵の干物。ふくべのおすすめの肴の一つだ。自分も大概は頼む。この鯵、熱々のうちに骨を外すのが美味しく食べるコツだ(と自分は思っている)。そして皮や小骨も一緒に食べ切るのが美味しい。ふくべの鯵は美味しい味なんだ。小さい時に食べた鯵のあの味、香り、歯触り、すべてが再現されているのさ。俺にとっては思い出の味(鯵)だ。
そんなこんなで小一時間はすぐ経っちまう。周りの席もお客が入れ替わり、ワイワイ飲っているってところで自分はお勘定を済ませて、外に出た。
この日も美味しい酒に肴だったなあと思いながら歩いていてふと思い出した。さて、あの菊正宗の樽酒は口開けだったのだろうかと。目の前の樽から注いでいたから口開けだよなあと思いながら後にしたのでした。
ああ、美味しかった。