前著『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の中で明らかにされた現代人の読解力の低下。教科書が読めないのは子供だけではなく大人も同じだということ。東ロボのプロジェクトを通しそれに気づかされた著者。
本書はその続編にあたるものだ。著者が中心となって、このままでは読解力の低下を解消することは難しく、まずは読解力を自ら確認できるリーディングスキルテスト(RST)の開発(本書にはその簡易版の掲載されている)について特色と利用方法も含めて解説している。さらにその実施から得られた解答を分析し、読解力の構造を明らかにし、教科書の読めなさ加減を6つの項目で定量的に把握し、分析。
本書の構成は以下のとおり。
- はじめに
- 第1章 AIの限界と「教科書が読めない子どもたち」
- 第2章 「読める」とはなんだろう
- 第3章 リーディングスキルテスト、体験!
- 第4章 リーデイングスキルテストの構成
- 第5章 タイプ別分析
- 第6章 リーディングスキルテストでわかること
- 第7章 リーディングスキルは上げられるのか?
- 第8章 読解力を培う授業を提案する
- 第9章 意味がわかって読む子供を育てるために
- 第10章 大人の読解力は上がらないのか?
- おわりに
「読む」ということは、「意味を理解する」とは、どういうことかについて、読者が簡易版RSTを実際に体験してみて、下記6点について採点した結果をみることにより理解できるようにしてある。
この6つのスキルを持っていないと教科書を正確に読み、理解することはできない。自分でも試してみたが、具体例同定がほぼ全滅だった。一応、研究者を自称している自分にとってこの結果は致命的なものだ。
本書にはこの6つのスキルのあり方をいくつか類型化している。
- 前高後低型:理数系が苦手
- 全分野そこそこ型:自力でもっと伸ばせる
- 全低型:中学生平均レベル
- 前低後高型:知識で解いてしまう
- すべて10点満点型:読解力ばっちり
当然、自分としては「すべて10点満点型」に近いものになるだろうと思っていたが、採点してみると、見事に前高後低型だった。考えることを避け、安易な方法に流れたツケが今の自分ということだ(水は易きに流れる)。
勉強をどのようにしてきたかということを思い出し見ると、小学校高学年の頃、蛍光ペンが流行り出し、それを使って教科書の重要と思えるところをマークしまくり、テスト勉強はその部分を丸暗記するやり方だった。それは中学になっても、高校になっても基本は同じ(おまけに高校はあまり勉強しなかった)。
丸暗記でテストに臨むという姿勢。テストも文章を読ませて考えさせ、解答を簡潔に記述させるものもあったが、多くは穴埋め式だった。僕らの1年前から共通一次試験がマークシート方式で実施されている。知識偏重、思考力軽視だった勉強の仕方。それで済んでしまう穴埋め式、マークシート方式の試験。後悔してもすでに遅い。
こんな勉強の仕方だったので、理数系の科目、理科(物理・化学)、数学は高校生の時にはすっかり苦手科目、嫌いな科目になっていた。おそらく社会(政経、公民、地理、歴史)も論述型の試験が主流だったら不得意科目になっていただろう。その時自分は文系に進んだのだろうか・・・。
今でも覚えているのは、多分、高校の世界史の先生だったと思うが、最初の中間テストが暗記で答えられるテストだったのだが、その先生がその答案用紙を返すとき、「テストは問いに対する考えを論述で答えるものなので、今回のような穴埋め式テストでいい点とってもあまり意味ないよ」ということを言われた覚えがある。あの時先生の言われた言葉が今になって後悔と共に思い出される。気づくのが遅すぎる。
読書についてどうだったかというと、精読するというよりは速読することで短時間で読めることがいいと思い、そうしていた。精読は苦手だった。だから読後感を人に話す時もかなり大雑把な、不正確な内容の紹介をしたし、理解が浅いので自分で考えたことをうまく伝えられないという認識もあった。
読解力を培うという点で自分のやってきたことはすべての点で真逆であった。そして今現在、抽象レベルの高い議論や新しく定義が出てきた時の理解と応用、それを使って議論することが苦手な自分がいる。それはまさしく具体例同定が弱いことを表すもので、今回の簡易版での体験は日頃薄々感じていた自分の文章を読む上での弱点を見事に明らかにしてくれた。
本書の中には、読解力が低い大人も諦めることはないと、見事に読解力を鍛え直した例も出ている。自分も問題点が明らかになった今、それを意識しながら日々本を読み、文章を書けば徐々に読解力、特に具体例同定が改善してくるのではないかと思う。そこは楽観的に考えたい。
さて、本書を読み進めることで、自らの読解力を認識すると、その流れの中で、国語教育についても考えさせられる。著者は、国語教育についてもその改善すべき方向を示し、授業例も示し、具体的に今後について述べている。著者が取り組む教育改革はこれから本格化し、本書が多くの人に読まれることによって、その輪は広がっていくだろう。
本書は単なる啓蒙書ではなく、日本の国力の基礎の基礎となる読解力の改善が喫緊の課題であることをRSTの結果で具体的に示した問題提起の書だ。
政府も手をこまねいているわけではなく、人材育成をどうすべきか日々議論が行われている。
最後に日本の情報通信産業は今、部材では世界有数のメーカーがいる一方、スマートフォンなどの完成品では多くの企業が撤退し、勢いがなくなっている。この現実について、もしかしたらこの読解力の話がつながっているのではないかと思い始めている。それについては別途書いてみたい。
今年14冊目読了。
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