1991年に社会人になって、ずーっとサラリーマンをしてきた。研究というフィールドは自分の大学院からの延長だったので、他のサラリーマンとはちょっと立ち位置が違っていたかもしれない*1。それでも世の中の趨勢に乗っていたことは事実で年功序列の世界で自分の人生を考えていた。
それが今、揺れている。その背景は先日紹介した「テクノロジーの世界経済史」に書いてある通りなのだが、今までと働き方を変えなければならない時代になったということだ。
本書(FIRE)を読んで、自分自身、個人的にも考え方を変えなければいけないということを気付かされたこともある*2。以前は、利子生活は労働として経済に貢献していないのだからよくないものだと考えていた。それは、確かに「大量生産と大衆の中流化」によって経済成長を実現してきた時代には受け入れられたかもしれない。しかし、その時代は終わり、模索の時代に入っている。
特に日本では、FIREを実現する手段というよりも(もちろんそれもあるが)、将来の不確実性への対応力をつけるという視点で、投資(利子収入)も視野に入れた生活基盤の形成を考えなければいけない時代になったということだ。
本書は、Financial Independence, Retire Earlyを実践するための収入の多様化と支出の節約、投資の大切さについて解説したものである。米国の例で書かれているが、我々が読んでも非常に参考になる。個人の立場によってその位置付けは少しずつ異なるだろうが、現状の仕事からの自由、自分のやりたいことの実現、あるいは将来に対する不安の除去のためにどうすればいいかが網羅的に書かれている。
本書は14章から構成される。各章は以下の通り。
- 第1章 お金とは自由
- 第2章 時間はお金より貴重
- 第3章 あなたの目標とする数字は?
- 第4章 あたなのいまの立ち位置は?
- 第5章 次のレベルへ
- 第6章 それに見合う価値があるのか?
- 第7章 あなたにとって必要な唯一の予算
- 第8章 9時5時の仕事をハックしよう
- 第9章 より少ない時間でより多くのお金を稼ぐ
- 第10章 投資戦略の7つのステップ
- 第11章 不動産投資
- 第12章 十二分な資金を確保するための戦略
- 第13章 将来を最適化するためのフレームワーク
- 第14章 より豊かな人生を送る
各章の題目を見るとおおよそ何を書いているかは想像がつくだろう。支出を可能な限り(無理しない範囲で)少なくし、収入を可能な限り大きくする、そしてその余剰を自分の今の欲望を満たすために使うのではなく、将来の夢の実現のために使う。ここではその夢をFIREとしている。それを実現するために何を対象にし、どのように対処すればよいのかが著者本人の経験も踏まえながら具体的に書いてある。
Financial Freedom: A Proven Path to All the Money You Will Ever Need (English Edition)
- 作者:Sabatier, Grant
- 発売日: 2019/02/05
- メディア: Kindle版
今更ながら、いくつか気付かされた点としては、「欲しいものと必要なものは違う」というのが一つ。自分の購買行動は欲しいものを買うということが多かった。特に書籍や文房具。昔は学術書などある時に買わないと入手困難になるという強迫観念があった*3。文房具はそれほど値が張らないのでついついという感じだ。他の購買行動も似たようなもの・・・それを見直すことに気づかされてくれた。
それから、後半に書かれているが、FIREを実践するためには、「まずは始める」、始めないと始まらない。そして「継続は力なり」、続けないと夢は実現できない。さらに「PDCA(習慣づけ)の大切さ」、状況は絶えず変わる、自分も周りも、だから絶えず見直しが大切という点だ。
気づいた時が初めどき、リタイアが近い自分だが、これから少しずつでも、自分の場合は将来の不確実性に対する対応力をつけるために実践していきたい。
最初に紹介された書籍は、サバティエのものではなく、こちらのクリスティー・シェン、 ブライス・リャンが書いたものだった。こちらも機会があったら読んでみたいと思う。
実は、FIREを実践する上で最も大切なことが本書には書いていない。それは自分のやりたいことをいかにして見つけるかということだ。ここをしっかり考えておかないと、収入源の多様化と収入の最大化、費用の最小化、投資戦略などをなんのためにしているのかが分からなくなり、続かなくなる。なぜFIREを目指すのか、FIREを実現した後の自分のやりたいことを明確にして初めて、それを実現するためのコスト、収益、投資計画が生きてくることになる。
FIREを実現した時、自分は何をしたいのか・・・日々、検討中だ。