日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

2017年社会情報学会大会@駒澤大学

先日の日本経済学会の大会に続き、今週末は社会情報学会の大会だった。今年は「Post-Truth時代の社会情報学」の大会テーマで実施された。報告数は、自分が数えた限りでは、2日間で38本、その他、基調講演とシンポジウムがあった。 

なぜあなたは論文が書けないのか?

なぜあなたは論文が書けないのか?

 

蛇足だけど、大会会場に行き着くまで

駒澤大学は恐らく受験で行って以来ではないかと思うが、246沿いなので迷うことはない。迷ったのは、大学構内に入ってから^^; 時間ギリギリで行ったので構内の校舎の配置までチェックしていなかった・・・案内表示があると勝手に思っていたので・・・そうしたら、それらしき表示が何もなく、一号館が分からない(汗)結局、その辺にいる学生に聞いたら目の前の建物がそうだという・・・びっくりするやら恥ずかしいやらで受付に向かう。

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初日参加セッションでの感想など

土曜日は午前のセッションで「熊本地震における ICT 利活用状況に関する調査結果」の報告に参加した。

内容は、本年の情報通信白書の第5章であり、それを学会報告用にまとめ直したものだ。目的は、「熊本自身における被災者の情報行動やICTの活用状況等に付いて、アンケート及びインタビューによる実地調査を実施し、情報通信が果たした役割、解決すべき新たな課題等の観点から分析。」とある。

調査結果は、東日本大震災との比較や発災後から応急対応期、復旧期という時間軸での分析、各ICTメディアの横断的な分析等多面的に災害時におけるメディアの役割等に付いて分析していて興味深かった。これらの結果の多くは情報通信白書でも知ることはできると思うが、白書の執筆担当者から直接話を聞けるというのは貴重な機会であったと思う。

官庁の分析だから災害時におけるICTメディアの政策活用について現状と課題を明らかにするという観点からの報告だったが、社会とメディアの関係を考える上で震災の経験というのは貴重な機会のはず。セッション名が付いてないかったので、おそらく特別セッションだったのではなかろうか。そのためであろう、惜しむらくは、このセッションの報告が一つ出会った点だ。

注目したのは、【参考】対象としたICT・メディアのポンチ絵だ*1。縦軸にアプリケーション・サービス、横軸に端末をとり、ICTメディアの利用を整理している。これを見ると、一目瞭然、スマートフォンが重要であることが分かる。このポンチ絵を5年おきぐらいに作ったら何が見えてくるか。

それから情報収集に役立った手段として、これは東日本大震災との比較したグラフだ*2東日本大震災の時は、発災時と復旧期ではメディアの使い分けがあったが、熊本地震の時には発災時も復旧期も情報収集に役立ったメディアは同じであったという点だ。これを前述のメディアの整理のポンチ絵を両災害時にそれぞれ作り、それと照らし合わせて改めて考えて見たいと思った。

これからの研究の可能性?必要性?

最近は社会学社会心理学、心理学等の研究を知る機会がほとんどなかったので、ピント外れかもしれないが、次のような視点でも研究の深化が考えられるのかと思う。

マスメディア、パーソナルメディア、SNS等の社会への浸透は、災害時における社会の安定*3にどの程度役立ったのかというような視点での分析だ。極限的な状況でメディアがより我々の行動に影響するようになっている。その点、社会への影響はどうなのか?

例えば、古くからある、デマとルーマーの問題(発生から伝播、収束まで。あるいは防止、抑制、収拾など)、パニックや暴動の発生とその防止、社会的・心理的ストレスの緩和など、社会とメディアの関係、メディアの社会的役割など、おそらく今後の学会発表ではこの手のテーマが出てくるのではなかろうかと思う。

前日に引き続き2日目の社会情報学会大会

この日は午後の最終セッションで関係者も報告するということで発表を聞かせてもらった。セッションⅢー3「情報行動」だったが、残念だったのは台風の影響で天気が悪く、参加者が少なかった点。

報告テーマは、一つは「職場のICT導入環境が企業の収益と雇用に及ぼす影響ーグラフィカルモデリングによる企業規模別の構造分析ー」というもの、もう一つが、「映画の評判形成においてTwitterが果たす役割に関する研究「この世界の片隅に」と「聲の形」の比較から」という2つ。

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最初のICTの導入と収益・雇用との影響に関する分析は、4000サンプルというアンケート調査データを用いて分析されたもので、これまでも議論になってきたICTを導入したことによる効果のあるやなしや、昨今では、AIの普及が雇用に負の影響を与えるとか、ICT、つまり新しい技術が社会に浸透していく過程でのその影響の分析と言えるかと思う。

結論は、予稿集から引用すると・・・「第一に,ICT の基盤整備,利活用,企業 改革は,相互に関係し合っていること,第二に,売上 高,営業利益,雇用に及ぼす影響の経路は,大企業と 中小企業で異なっており,組織構造が複雑な大企業で は,売上高や営業利益に直接影響するのは,企業改革 であり,雇用に関しては,ICT 基盤整備が直接の効果 を持つこと,第三に,組織構造が比較的簡素な中小企 業では,売上高,営業利益,雇用の全てにおいて ICT の利活用が直接の経路で影響しており,効果的な利活 用がカギを握ると考えられることが明らかになった。」ということだった。

なぜあなたの発表は伝わらないのか? できてるつもり! ?そこが危ないプレゼンテーション

なぜあなたの発表は伝わらないのか? できてるつもり! ?そこが危ないプレゼンテーション

 

 コメント、質問もいくつかもらって報告者にとっては良い経験になったのではないかと思う。このような経験をさせてもらえるというのは学会報告の醍醐味というか、研究自体を支えてくれる大切なものだと言える。

二つ目の報告は、SNSとしてのTwitter上のつぶやきデータを使って映画の評判形成を分析したものだ。報告内容等は省略するが、コメント、質問が色々出た。ビッグデータを使った分析の難しさが垣間見れた報告だったと思う。

学会活動は必要

自分の仕事で学会活動の位置付けは最近ずーっと低かったが、昨年と今年の日本経済学会、そして今回の社会情報学会、その他の学会にも改めて参加した。そこで感じたのは、自分が共同研究者だったり、興味のあるテーマの聴講者であったり、関係者の報告であったりするわけだが、議論の内容は大なり小なり仕事に役に立つものであるということだ。

問題の設定、分析フレーム、データの収集、検討そして結論、いろいろな点で役に立つ。われわれがアウトプットの質の向上を実現するためには、学会での議論の場に積極的に出ることが大切なのだということを改めて認識させられた。

調査・研究・コンサルティングを仕事とする人の全てに学会活動が必要かといえば、どうか分からないが、少なくとも自分の関わる範囲内では学会での議論の場に身を置くことは必須であると思った。

なぜあなたの研究は進まないのか?

なぜあなたの研究は進まないのか?

 

 

*1:情報通信白書図表5-2-2-1対象とするメディアの整理、p218。

*2:情報通信白書図表5-2-2-8情報収集に役立った手段(発災時と復旧期)、p222。

*3:こういう用語の使い方合っているのか分からないので、その点は悪しからず。