日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

情報通信白書の読書会に参加してきた@国際大学GLOCOM研

はじめに

今年も7月初旬に情報通信白書が一般に公開された。書籍として購入することもできるが、電子書籍kindle)だと無料で入手できる。

令和元年版情報通信白書

令和元年版情報通信白書

 

 

例年の恒例行事だそうだが、自分は初めての参加であった。仕事として白書の一部をお手伝いさせてもらったこともあり、どのような議論が出てくるのか一度聞いてみたいと思い参加した。

場所は、六本木にある国際大学GLOCOM研で実施されたが、参会者は100名ぐらいいたのではないだろうか。自分はキャンセル待ちで入場できた次第で関心の高さが感じられた。

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今年の白書の特徴は?

武蔵大学の庄司先生の司会(兼コメンテーター)で始まった読書会。今回、白書の内容を説明してくれたのは、作成の責任者であった、前情報通信経済室長の富岡さんだ。建前ではなく、本音の話が随所に聞かれたので非常に有益だった。

令和元年版情報通信白書

令和元年版情報通信白書

 

この日の説明内容、コメント、質問等を自分のメモの限りで書き出してみよう。当然、自分の聞き間違いや理解が追いつかず解釈を間違えているかもしれないが、そこはそういう前提で読んでほしい。

読書会は、総務省のHPにも公開されている資料に基づき行われた(若干、読書会用に準備された資料もあった)。

今回の白書は、「体系的に整理されている」「全体を理解するのに役立つ」という意見が多かったようだ。自分も白書をざざっと読み通してそう思った。現状、デジタルトランスフォーメーションとかSociety5.0とか第4次産業革命とか色々言われているが、その混沌とした経済社会を情報通信の側面から体系的に整理した点は非常に評価されるのではないか。

 

皆の関心は?

そしてその後の質疑に移り、大きなそしてなかなか答えの見つからない質問が数多く寄せられた。その中で自分が興味を惹かれたのはこの2つ。

① デジタル経済とは何か?

これは今回の読書会での内容や某経済検討会での議論の内容を思い返しながら、ふと頭に閃いた・・・ズバリ、デジタル情報が成長のエンジンになる経済ということ*1

その市場構造が、プラットフォームを中心としたビジネスに見られるのではないか。ネットワーク効果がもたらす雪だるま式の拡大効果がデジタル経済の成長のエンジンということだ。だとすれば、従来の生産関数が資本設備が成長のエンジンであったのに対し、デジタル経済ではそれをどのように取り入れるべきなのだろうか。

  • 農業経済:GDPは、労働、土地から生み出される
  • 工業経済:GDPは、労働、機械資本(土地を含む)から生み出される
  • 情報経済:GDPは、労働、情報資本(機械資本、土地を含む)から生み出される
  • デジタル経済:GDPは、労働、AI・プラットフォーム資本(情報資本、機械資本、土地を含む)から生み出される

こんな感じでこれまでの経済と比較すると考えられるのではないかという仮説だ。農業時代の土地は、工業の時代にも存在したが、付加価値を生み出す上では機械資本がより重要になる。

そしてその機械資本も時代とともに、機械化、電子化、ソフト化と徐々にその性質を変化させていく。その性質は規模の経済とかネットワーク効果とかで分類され、その効果を捉えるために、資本を一般資本と情報資本に分けて分析したりした。情報資本が考えられるが、ここではあくまでも機械資本の延長上で考えられている。

それがデジタル経済では、機械資本の代わりに情報資本が成長のエンジンとしてモデルの中で重要になる。ここでいう情報資本は、現状、機械資本の一部を情報資本としているものとは違う。情報そのものを資本として計測しようというわけだ。

GDP=f(労働、情報資本)

このように考えられるのではないか・・・というのがこの時の議論等を聞きながら頭の中を駆け巡った。

② 所有から共有へというトレンドが行きつく先、資本主義はどうなるのか?

次は、シェアリングエコノミーが今、広がりつつあるが、シェア(共有)することから自然と導きさ出される誰でも想像すること・・・共有する経済になるとその行き着く先は、資本主義に対する共産主義になるのではないかという懸念だ。

でもそれは外れていて、おそらくデジタル経済の時代は今の分類では分類できない経済システムになるのではないかと想像できる(本当か?)。だからシェアが広がったら、共産主義に近づいていくということを心配するのはちょっと違うと思った。

デジタル経済を離陸させるためには何が必要か。

さてこれからデジタル経済が主役になり、国?地域?人?の経済成長が実現されるとすると、デジタル経済を離陸させるためには何が必要だろうか。

情報が市場で取引されるようにならないといけないので、現在でも議論されているGDPR、DFFT、さらに情報銀行、情報の取引市場が必要になるのか。もしかしたらベイシックインカムの必要性が今よりも自然な形で導き出されるかもしれない。

色々議論することはたくさんある。これからの経済がデジタル経済になっていくのであれば、それを見越した議論をすることがこれから大切になる。

(以下、加筆)上記の他にもメモから拾ってみると・・・質問だったか、説明の中で言われたことかは不明だ・・・箇条書きで以下記載しておく。

  • ICTはGDPの成長をもたらさないのではないか

これは、シェアエコでの取引を念頭に置いたものだったと思う。今のGDP統計は新製品として市場に出た時だけカウントされ、それがメルカリ等で交換されてて収入を得ても生産面で統計に反映されることはない。ただし、消費面からは捉えることができる。

  • ICTが格差をもたらしている

エレファントカーブで観察される先進国中間層の落ち込み等を観察して。ICTと非正規雇用の関係・・・ルーチン業務の代替状況等。

  • 汎用技術(GPT)の経済への貢献は長い目で見る必要がある

補完的イノベーションの必要性

  • 何が必要か?

ICTの専門家、通常の業務部門のICTの理解と利用(必ずしもICT人材を抱え込む必要はなく、非ICT部門のリテラシー、意識を高めることの方が大切では?)

オープンイノベーションの必要性(自前主義からの脱出、GAFAが生まれなかった背景の一つ)

  • GAFA、BAT規制をどう考えればいいのか?

何のために規制を課すのか?(プラットフォーム上のビジネスの活性化?何のためにやるのか?)

デジタル経済の成長のエンジンをもっとも活かすための制度・規制のあり方とは?制度の議論するとともに、その経済分析も必要ではないかと思う今日この頃でした。

 

*1:ということでこのブログのカテゴリーも「ICT社会の経済分析」から「デジタル社会の経済分析」に変更した。