え〜と、話はどこまで進んだかというと・・・そう自然独占性の計測の話ね。
技術と産業秩序ということでなぜ自然独占性を問題にしないといけないかというと、独占はさまざまな要因により形成されうるからだろう。
よってどの要因によりもたらされた独占かを区別することは非常に重要になる。特に自然独占であるか否かは、規制政策(事前)か競争政策(事後)かを大きく分けるポイントとなる。
であればこそ、自然独占性の計測についてはその方法論から十分に検討されなければならず、高嶋君が指摘したように、従来、translog型で推定
されることが多かった自然独占性に関する実証分析も諸条件(具体的には何だろう^^?)の重要性とそれに見合った推定方法の選択、あるいはデータの整備というものが必要になる。
ちなみに数年前に携帯電話サービスの自然独占性を検証したとき、アドバイスをもらった先生が言うには、その頃はtranslog型はあまり使われていなくて、一般化マクファーデン型の関数形で行われることが多いとのことだった。なぜ最近は一般化マクファーデンなのかまでは聞かなかったが、今ごろになって聞いておけばよかったと思っている。
さて情報通信のような技術革新の激しい産業において、自然独占性を正確に計測しようとすれば、技術進歩の影響を除去しなければならない。
例えば、図は第一世代(C1T)から第三世代(C3T)という3つの技術により費用関数がシフトしているところを表したものだ。
このようになっていても、我々が入手できる生産要素や生産物のデータはX1、X2、X3となる。このデータを使って、技術進歩の影響を考慮せず費用関数を推定すると、CXという点線の費用関数になる。これで自然独占性の指標である費用の劣加法性を計算したらどうなるか。
技術進歩を考慮せずに時系列データを使って計測したとすると、観測値は時間的に変化している費用関数の各時点でのデータを利用していることになり、その費用関数は真の費用関数とはまったく異なったものを推計していることになる。
費用関数を推計するにあたってはクロスセクションで十分なデータ数を得ることができないので、どうしても時系列データあるいはパネルデータを利用する。そうすれば必ず技術進歩の影響を除去する必要が出てくる。では一企業の技術進歩をうまく表す指標とはどのようなものであろうか。
通常は、コメントに書いてあるように、時間で変化するトレンド変数を加味したり、デジタル化の進捗率を加味したり、携帯電話なら3Gのシェアでも加味することも考えられるであろう。あるいは研究開発投資を使って技術進歩指標を作ることも考えられる。
推定上の課題は他にもあるかもしれない。
さて推定の話に行ってしまったが、そもそも自然独占とは何なのか、規模の経済性ではなく費用の劣加法性の概念が提唱されたことの意義はどういうところにあるのかなど、そちらもしっかり押さえておきたいです。
例えば、まずは下記のTrainの教科書で自然独占に関する議論を復讐して頭を整理することが必要かと。本当ならWilliam W. Sharkey "The theory of Natural Monopoly"を読むべきだろうけど、最初からはつらいので、まずはTrainの下記の教科書でならしてからというところです。
Optimal Regulation: The Economic Theory of Natural Monopoly Kenneth E. Train Mit Pr 1991-08-12 by G-Tools |
【5月8日加筆】さて上記Trainの著書を読むと言ったが、全部読むわけではない。それはOptimal Regulationが自然独占を前提として、そこでの規制フレームを解説するもので、ここで関心のある自然独占そのものについては序章での解説が主なので、今回は読むのはその部分だけになる。だからといって、現実問題として、Trainの中で紹介されている規制手段がもう必要ないとか、時代遅れとかいうことではない。ドミナント規制や相互接続規制などの事前規制はいまだに続けられている。よって規制機関に負担をかけず、事業者が自主的に最適行動を取るような規制メカニズムを検討することは規制コストを減らす上で重要なことだろう。
続く