東大の吉川洋氏の著書。
日本を代表するマクロ経済学者によるケインズの経済学を解説したもの。ケインズの経済学というと一般理論になるが、本書はケインズの生い立ちに触れた後、一般理論以前の主要著作、貨幣改革論、貨幣論の執筆過程のケインズの考察の変遷から説き起こす。
本書を読むとケインズのアプローチは、現実の経済問題(失業問題)の解決という実践的な研究であったということ分かる。経済学はそもそもそういう研究領域であるけれども、現実はそれまでの定説をなぞっただけの議論が多く、真の貢献と言えるものは少ないとは誰もが思い、反省するところだろう。
そのようなことを考えたとき、ケインズ経済学の現状での有効性云々はあるかと思うが、ケインズの経済問題に対する姿勢は日頃、われわれが見失いがちなものを思い出させてくれる。経済学の研究者、より広くは社会科学の研究者にもアニマルスピリッツは必要だといったら笑われるであろうか。
ケインズ―時代と経済学 (ちくま新書) 吉川 洋 筑摩書房 1995-06 by G-Tools |
本書の構成は以下のとおり。
あまり詳しくは触れていないが、ケインズが考えていた完全雇用、すなわち貧困の問題を克服した後の世界は、新しい成長モデルを模索し、それが見つからずに迷走している日本経済にとって参考すべき点かもしれない。
また著者は最後の章で現代の経済問題を扱う場合、技術革新は無視できないが、ケインズの一般理論にはそれがかけていると述べている。その問題意識からであろうか、最近著者は以下の書籍を出している。
いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学 吉川 洋 ダイヤモンド社 2009-02-27 by G-Tools |
それからAmazonで検索していたらたまたま最近下記の雑誌も出版されたみたいです。
現代思想2009年5月号 特集=ケインズ 不確実性の経済学 青土社 2009-04-27 by G-Tools |
こちらも近々読んでみようと思う。