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Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

【仮想出版企画:21世紀日本の情報通信】第一章 技術と産業秩序

さて、序章に引き続き、第一章は高嶋君の構成によれば、「技術と産業秩序」というテーマのもと、以下のキーワードが並ぶ。

  • 自然独占の計測とその限界
  • 技術進歩の指標
  • 研究開発論
  • NTT論
  • ガラバゴス現象を生む技術標準

まず第一章のテーマ「技術と産業秩序」について。ここでは何を議論することが期待されるのか。

ここでいう技術は、生産技術のこと。企業がどのような生産技術を採用するか、あるいは当該産業の生産技術がどのようなものかで、市場での競争の可能性が変わってくる。よって産業秩序は生産技術に制約されるということになる。

その生産技術も、成熟した技術革新のあまり起こらない技術の場合と技術革新が活発に起こっている場合とでは論点が変わってくる。技術革新が活発に起こっている産業の場合、生産技術は日進月歩で変わるので、動学的(時間の要素を考慮した)視点が必要になる(そうであるからこそ序章で将来を見通すというのは重要)。

従来の電気通信産業において、「技術と産業秩序」を考えると、例えば、AT&T分割を議論していた際には自然独占性が検証された(Heckman & Evansの論文)。結果、地域(市内?)通信は自然独占性が成立するので、競争的市場の長距離とは分離した上で地域独占とし、各種規制が課せられた(しかしその後の研究でこの推定結果についてもいろいろ論議があったような記憶がある)。ちなみに日本の電電公社改革のとき臨調で分割が議論されたのは、電電公社の組織としての適正規模という視点だった。

つまり米国においては当時の生産技術は、地域通信に関しては、自然独占性という特性を持つ市場であったため、競争が機能しない市場であり、長距離にのみ競争が導入されるという産業秩序が政策の下、形成された。

当時の電気通信サービスは成熟産業(当時、アメリカでは電話会社に就職することほどつまらないものはないと言われていたそうです)として見られ、現在のブロードバンドとモバイルというインフラ、それを利用した上位レイヤの各種サービスやコンテンツという産業の変容を誰も予見できなかった。

この産業の変容をもたらしたのは、デジタル化(IP)であり、光ファイバ等ブロードバンド技術とモバイルであり、ICの発達である。ではこれらを利用した生産技術で提供される現在の情報通信産業の生産技術はどのような特徴を有するのであろうか。

またマイクロソフト社の基本OSとブラウザのバンドルに対し、司法省が問題視したように、現在の情報通信産業の特徴として、需要側の規模の経済と言われる「ネットワーク効果」の存在も無視できないものであろう。これは技術と産業秩序を考える上でどのように整理されるのであろうか。

各キーワードを考えていくことによってこのあたりが明らかになってくるのではないかと思う。

・・・続く。

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