昔、新宿はションベン横丁のカブトで、うなぎの串焼きを肴に焼酎をちびちびやっていたとき、横にもう引退したと思われる初老の人が呑んでいた。
そのうち、ふとしたきっかけから話すようになり、そのおじさんは、その年の3月まで社長だか会長だかをやって、実質的に会社を引っ張ってきた人だということが分かってきた。そして一応第一線は退いて、今は必要なときだけ会社に出ているというような話だったと思う。
そのおじさんの言うことには、おじさんのところには昔の部下が、しかも取締役になっている部下がいろいろ仕事上の悩みを相談したり、指示を仰ぎにきたりするということをだった。おじさんは、僕に会社の状況と部下の行動を焼酎を引っ掛けながら、ゆっくりと、しっかりした声で話してくれた。
そして最後におじさんは言ったのだった、「なぜ自分で考えて行動できないのだろう」「なんでもかんでも僕のところに来る」「こんなことはあってはいけないことだよ」「若い人にはこういう風にはなってもらいたくない」「だから君にも話すんだよ」と言っていました。
おじさんの話し方は決していやみを言うでも説教するでもなく、淡々と話していました。そして、僕も黙って聞いていました。今思い出してみると、おじさんが語ってくれたことの大切さが分かるような気がします。
おじさんが今もカブトにきているかは分からないし、隣に座ったとしてもおそらく僕は気がつかないでしょう。
貴重な思い出です。
呑み屋で呑んでいると時たまこういうことがあります。