訳者あとがきまで入れると653ページ・・・1冊の本としては最近はあまりない厚さだ。出典一覧が別にネットで公開されいてるのでいろいろ考え、工夫した結果がこの1冊での出版になったと想像される。
確かに600ページを超える内容だが、書かれている期間は、98年から02年までの4年間に過ぎない。本書に登場する人物は、その間にX.comとコンフィニティという会社を立ち上げ、さらにペイパルが生まれ、さらにさらにイーベイとの死闘などを経て、独立していく。まさにスタートアップとはこうやって成り上がっていくのだというストーリーだ。その数年間を一気に読んでもらいたいと考えたら、出版する側にいたら多少は厚くなっても1冊で出したいと思うだろう。
何しろスピード感を持って読んでもらうことで、ペイパルやそれを作ったマスクやピーター、レヴチンらの目的に向かう必死さやそれを実現するための苦労を追体験でき、彼らと行動をともにしたその他のペイパルを支えた若い技術者たちの思いを理解できるということになるのではないか。
彼らは、あの短い期間に受け身で働かされていたわけではなく、自ら進んで激務をこなしていた。それはペイパルという一つの企業、スタートアップを成功させるためであり、そのためには激務も激務と思わなかったのではないか*1。そしてそこでの経験が後に彼らの財産となっていく。
終盤、創始者たちそれぞれは、イーベイとの競争に疑問を持つようになる。ペイパルというスタートアップで新しいビジネスを立ち上げようとして戦っていた時と、その内容が変質してきたことに気づく。そこが潮時だった。ペイパルはIPOを成功させ、イーベイに売却することになる。その後は、創始者とその仲間たちは自分らの道を歩むことになる。合併後のPayPalに残ったものもいるし、新しくビジネスを立ち上げたものもいる。ペイパルを去ったメンバーが立ち上げたスタートアップは、例えば、アファーム、リンクトイン、ユーチューブ、イェルプ、ヤマ─、キヴァがある。DXの申し子のような企業群を形作りつつあるように見える。
目次は以下の通り。
- INTRODUCTION シリコンバレーの謎
- 第1部 大胆不敵
- Chapter 1 ウクライナの天才ーマックス・レヴチン西に向かう
- Chapter 2 ビリオネア朝食クラブーピーター・ティールという男
- Chapter 3 「正しい問い」は何か?ーイーロン・マスクの模索
- Chapter 4 ネット上で最もクールなURLーX.com誕生
- Chapter 5 ビーマーズーコンフィニティ、活路を見出す
- Chapter 6 終わりだーユニバーシティ・アベニュー394番地にて
- Chapter 7 鬼気迫るイーロンー空想を実現にする方法
- 第2部 孤立無援
- Chapter 8 「破産まっしぐら」の名案ーカネをもらうより配ってしまえ
- Chapter 9 シリコンバレーの世紀の激戦ーX.comとコンフィニティ、ぶつかる
- Chapter 10 狂気のクラッシュー捨てるより早くカネが消えていく
- Chapter 11 ナットハウスのクーデターー新CEOビル・ハリスの苦難
- Chapter 12 1億ドルの賭けー有料化の危険なミッション
- Chapter 13 地獄のように働こうー波乱の「ペイパル2.0」プロジェクト
- Chapter 14 ハネムーンを狙えーイーロン・マスク追放
- 第3部 強行突破
- Chapter 15 不正者イゴール、現るーペイパルは数人の不正で倒産する
- Chapter 16 強制アップグレードー猛抗議に耐えきれるか?
- Chapter 17 ハッカーたちとのおかしな関係ーオタクのスパイ大作戦
- Chapter 18 巨人との死闘ーイーベイと果てしなく殴り合う
- Chapter 19 世界制覇ー制服は戦略的に
- Chapter 20 すべてを吹き飛ばすテロー逆風の中の「逆張り思考」
- Chapter 21 5時まで粘れーIPOか強制終了か
- Chapter 22 Tシャツ戦争ー「最後の戦い」の勝者は?
- 終 章 ペイパルディアスポラーペイパルとは何だったのか?
- EPILOGUE ペイパルマフィアの余波
本書にはその激闘の様子が23章にわたって書かれている。自分にとって、イーベイはAmazonが出てくる前にEコマースで成長してきたベンチャーとの認識だったが、それは少々ずれていたみたいだ。そしてペイパル・・・自分が最初使った時はカード決済や現金払い、銀行振込で不便を感じていなかったので、なんでわざわざこのようなサービスを使うのか分からなかったし、新たな手間として面倒くさいと思いながら使った記憶がある。当時の自分には、ペイパルが受け入れられるニーズがあったことがわからなかったのだ。そのペイパルが激しい競争の末、成長し、その時の社員たちが後の多くのスタートアップを立ち上げていたとは想像だにしなかった。
本書を読んでいると、自分が何をやりたいのか・・・目標の大切さ、それを実現するために何をしたらいいか緻密に考え、それを続ける継続性、機会を見つけたらそれを離さず、ものにしていく粘り強さ、そしてある時は一か八かのリスクを取る度胸、そしてそれらの苦労を共にしてくれる優秀な仲間、これらのどれが抜けてもペイパルはうまく行かなかったのではないか。読んでいて面白いし、色々考えさせてくれる物語だ。
600ページを超える大部であるが、一度読み始めると一気に読んでしまいたいと思うだろう。だからまだ読んでいない人は、数ヶ月後の年末年始の休みの際に読まれると良いのではなかろうか。新たな勢いをもらって新年を迎えられると思う。
最近世界同時出版されたイーロン・マスクの伝記。これも分厚いが上下巻に分かれている。
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これから年末年始に向け、読みたい本が目白押しだ。