日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

トリップ・ミックル著『アフター・スティーブー3兆ドル企業を支えた不揃いの林檎たちー』:Appleの将来と経営と開発のバランスをとることの難しさを考えさせられる一冊

表紙カバーの外の部分、ジョブズが復帰して以降のAppleの主な出来事が時系列で整理されている。以下はそれを書き出したものだ。

  • 1976年 ジョブズとウォズニアックにより創業
  • 1997年 ジョブズが復帰
  • 1998年 カラフルなiMac発売で業績復活
  • 2001年 iPod発売
  • 2007年 iPhone発売
  • 2010年 iPad発売
  • 2011年 ジョブズ死去、クックCEO就任
  • 2014年 中国最大キャリアでiPhone発売、売上激増
  • 2015年 Apple Watch発売。Apple Musicサービス開始
  • 2016年 犯罪者のiPhoneロック解除問題で当局と争う。バフェットによる株式大量取得、株価高騰
  • 2017年 ステーブ・ジョブズ・シアター、オープン。10周年記念iPhone X発売
  • 2018年 全製品をトランプの対中国関税リストから回避。時価総額1兆ドル突破
  • 2019年 新本社アップル・パーク、グランドオープン
  • 2020年 時価総額2兆ドル突破
  • 2021年 アプリ配信の反トラスト裁判に勝訴
  • 2022年 時価総額3兆ドル突破

見て明らかなように、ジョブズが復帰してから10年ほどで、iMac(書かれていないがMac Book)、iPodiPhoneiPadと主力製品が立て続けにリリースされている。そして、その製品群を上手くビジネスすることによって3兆ドル企業にまで上り詰めたことが分かる。本書は、CEOクックとデザインの責任者CDOであったジョナサン・アイブを中心に、この後の経営上の難題や主力製品の開発における苦闘の様子を時間軸に沿ってまとめたものだ。

Will Apple continue to be Apple?

これからもAppleは、Appleでいられるのか?

それは、2人の周りにいた、書名の副題にもなっている不揃いの林檎たちの物語でもあり、ジョブズ亡き後のAppleがどういう状況であったかが分かる物語になっている。表紙のリンゴの写真は、その状況を見事に表している。

本書は、比較的短い23の章とプロローグ、エピローグからなる。そして詳細な注がつく。注にはインタビュー情報の出所などが明記され、Appleという秘密主義の企業についてその情報の確からしさを確認できるようにしてある。さらに最初に何枚かの象徴的な写真が掲載されている。

  • プロローグ
  • 1 ワン・モア・シング
  • 2 芸術家
  • 3 業務執行人
  • 4 必要な男
  • 5 強固な決意
  • 6 はかないアイデア
  • 7 可能性
  • 8 イノベーションを起こせない
  • 9 クラウン
  • 10 商談
  • 11 華麗なるデビュー
  • 12 プライド
  • 13 流行遅れ
  • 14 フューズー融合
  • 15 金庫番たち
  • 16 セキュリティ
  • 17 ハワイの日々
  • 18 煙
  • 19 50歳のジョニー
  • 20 政権交代
  • 21 機能不全
  • 22 10億のポケット
  • 23 イエスタデイ
  • エピローグ

Appleは、ものづくりの会社であることはよく指摘されることだ。そのものづくりにおいてデザインを重視したことでiPhone等が生み出されてきたことも知られている。そして本書を読むと、それを再確認できるとともに、ハードからソフト、サービスに軸足を広げようとした時、そのAppleAppleたらしめていたもの(それが表紙の写真の軸として表してあるものであり、ジョブズの考えであろうことは容易に想像がつく)がどうなるのかが今後のAppleという会社を方向づけるであろうし、今がその分岐点なのではないかと考えずにはいられない。

その分岐点での大切な鍵は、クックの存在よりアイブの存在になるだろうということを本書では暗に言おうとしているのではないか。

経営者としてのクックは、中国という豊富な労働力と巨大市場を手にいれ、その他、セキュリティ面でのAppleとしての立ち位置を明確し、サービス面でも徐々に活路を見出している。クックはCEOとして株主の期待に応えるため業績第一に考え、行動している。巨大企業に変貌したAppleが見ている先は、株主第一になってしまっているのか?経営を急ぎすぎているように見えるクックはどこでそれを修正するのか、あるいはこのまま突っ走るのか。

一方、アイブは、本社の新社屋の完成とApple Watchを世に送り出すことで貢献した。ただし、アイブは、開発と経営の両方の役割を担うことが負担となり、その後行き詰まり気味で、2019年にAppleを去っている。アイブの他にも古くからAppleを支えてきた多くの人たちが去っていることが本書に散りばめて書かれている。

Appleはもう昔のAppleではない。AppleAppleとしてのArt×Techの交点でこれからも製品やサービスを世に送り出すことができるのであろうか。そのためにはジョナサン・アイブというデザイナーはなくてはならないのではないか。外に出てしまったとはいえ、Appleとの関係を続けていくと言っているアイブのコミットがどうなるか。今後のAppleの行く末を考えるとき大きなポイントになるのではないかと思う。

とりあえず、製品やサービス面がどう展開するのか、6月のWWDCに注目したい。

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