日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

佐々木実著『竹中平蔵 市場と権力-「改革」に憑かれた経済学者の肖像-』:当時のグローバルな状況の中で果たした日本の立ち位置と改革との関係

この本の読み方は、少なくとも2つあると思った。一つは主人公の生き方に焦点を当てて読むアプローチ、もう一つは日本の政治過程や日米関係に焦点を当てて読むアプローチだ。自分は自ずとその両面を気にしながら読んだわけだが、やはり頭に残るのは前者だった。

読み終わった後、何とも言えない気分になった・・・自分が知っている範囲で、彼を含め彼に近しい人間の顔を浮かべると複雑な思いがよぎる。

経済学を研究する目的はいろいろあるだろう。真理の探究、社会や人間行動の解明、最終的には人間そのものについての問い・・・と格闘し続けるのではないか。普通はそちらだと思うのだが、今回の場合は、ビジネスに利用するということで、そうではない場合もあるということだ。ならば自分はどうか・・・微妙な立ち位置で30年間シンクタンクという業界に身を置いていたなと振り返って思わないではいられない。

Heizo Takenaka: Market and Power: Portrait of an Economist Possessed by "Reform

竹中平蔵 市場と権力-「改革」に憑かれた経済学者の肖像-

著者の佐々木実氏は自分とほぼ同世代。生きてきた時代背景は近いものがある。そういう人の見方で書いた作品だ。しかも、佐々木氏はその後、「資本主義と闘った男」*1を書き上げている。その佐々木氏からみた本書の主人公の表舞台での活躍が描かれているわけだ。佐々木氏という著者の見方・考え方を通した記述であることを考慮しても本書の内容は自分にとって重いものだ。
本書を読む限り、この主人公の目的は、経済学を通して社会や人間行動の一般理論を導き出そうとしたわけではなく、社会をより良くしようとしたわけでもなかったようだ。政府の政策決定過程で活躍したのだから、表向きは社会をより良くしようとした政策を次々出していったように思えるが、本書を読むとまた違う見方ができてしまう(そう考えてしまうのは、振り返らない、振り返ることをうまく避けているところなどが典型的なところだと思う)。

単に自分の稼ぎを最大化することが目的だったのだと思わずにはいられない。そのために彼は経済学を利用した。都合のいい理論やその研究を利用した。だから共著であるべき研究も単著の中に含めていた。学問としての経済学を極めるのは彼の目的ではなく、経済学は自分の目的を実現するための手段でしかなかった。だから学問上のルールに触れるようなことをしても気にならなかったのだろう。政策決定過程に入り込んでからも、米国の経済学者も含め経済学をうまく利用して、それを補強する材料は米国に求め、お膳立てうまくマスコミも利用し、自分のビジネスを進めていったのではないか。頭のいい人なんだと思う。

そこで考えるのは、研究者、学者とは何者か、研究、学問とはどういう営みなのか・・・ということだ。その存在理由をどこに求めたらいいのかというところを考えていくと、彼の生き方はやはり学問を極めるとかではなく、手段としての学問であったのだろうと・・・考えると、本書は研究者を目指す若い人にとっての反面教師の書ということになろうか。

本書は、以下の通り、8つの章からできている。その他にはじめにとおわりにが最初と最後につき、分量としては文庫本として400ページを越え、読み応えがある。章立ては以下の通り。

  • はじめに 「改革」のメンター
  • 第1章 和歌山から東京へ
  • 第2章 不意の転機
  • 第3章 アメリカに学ぶ
  • 第4章 仮面の野望
  • 第5章 アメリカの友人
  • 第6章 スケープゴート
  • 第7章 郵政民営化
  • 第8章 インサイド・ジョブ
  • おわりに ホモ・エコノミカスたちの革命

主人公に注目すると、自分としては読後感が非常に憂鬱なものになるのだが、一方、もう一つのアプローチとして本書の注目すべきは、日本の政治過程や、日米関係が日本の政治過程に及ぼす影響と米国の政策遂行の強かさが読み取れることか。こちらはサラッと書くだけになったが、詳しくは本書を読んでみてほしい。

米国側から見たら、米国の国益になるように手を打つとき、そこには必ず彼がいたということになる。彼からしてみたら、自分の目的を達成するためには日本にとっては米国をうまく利用できるのが一番だったであろう。そこが噛み合ってしまうところが恐ろしい。

本書から何を学ぶべきか・・・読み取るべきか・・・自分はそれを確かめるために、なぜか「今を生きる思想 宇沢弘文 新たなる資本主義の道を求めて」を読みたいと思うのだった。

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