僕は「きよ田」を知らない。
でも本書の「その後のこと」を最初に読んで、何かとても不思議な魅力のある本だと思い、改めて最初から読み始めた。
書名がそもそも不思議な本だ・・・「ひかない魚」・・・読み終わった今もこの書名は謎のまま^^
内容は「きよ田」を取り巻くお客さんたちの数々の逸話が書かれている。その合間合間に、きよ田で出されるお鮨のことが書かれてあり、自然と頭の中にはきよ田のカウンターと鮨が浮かんでいる。
ひかない魚―消えてしまった「きよ田」の鮨 新津 武昭 伊達宮 豊 求龍堂 2001-10 by G-Tools |
読み進めるとこういう空間もあるのかって感じ。まず登場人部がすごい。辻邦夫夫妻に始まり、白洲次郎、正子、小林秀雄、河上徹太郎、開高健などなど、まるで別世界がそこには開けているような印象を受ける。
これだけの人たちに愛されたきよ田は、しかし特別なことは何一つしていない。当たり前のことを当たり前にしていただけだったようだ。本書を読む限り、主人新津さんの力みは一切感じられない。本当に普通にしているだけって感じ。
普通にしているといってもやはりそこにはなるほどと思わせる仕事の仕方がある。
マグロを仕入れるのに値段を聞いたことがないといういう・・・また100%満足してもらうのは難しいから80%ぐらいにして20%ぐらいは不満を残して帰ってもらうとか、ネタはシンプルにしてマグロを中心に後は季節季節で旬のものをそろえる、店は客に育てられるなどだ。
読み終わっても、最初に読んだときに感じた不思議な印象は残っている。鮨屋と鮨屋にくるお客が織り成す物語をその店主が語るというものだが、読み終わると美味しいお鮨を食べた満足感で満たされる。
ご馳走様でしたm(_ _)m
その「きよ田」はもうない・・・一度くらいは行ってみたかった鮨屋さんである。
本書に出てくる月曜日の度にきよ田に通って修行した荒木なる人物は世田谷は上野毛の「あら輝」のご主人だそうだ。彼が書いた本もある。
江戸前「握り」 荒木 水都弘 浅妻 千映子 光文社 2004-01-17 by G-Tools |