この本はいい。何がいいって、読みやすい、面白い、そして理解できる。三拍子そろっている。だから、あっという間に読み終わってしまった。読了後には、ビットコインやブロックチェーンのことが頭に残っている。
人に読ませるにはこういう風に書けって感じ。文章は短く、一文一意、そして主語と述語を明確にすること、これが読みやすい文章を書くための3条件だが、坂井先生の文章は、まさしくそれを体現したものだ。
さらに具体的な書きっぷりもいろいろ考えられている。読ませるにはこちらの方がより大切かもしれない。例えば、まえがきの書き出し・・・「ビットコインをはじめとする暗号通貨(=仮想通貨)は、いまだに怪しいものだと思われているふしがある。というか、けっこう嫌われている。」・・・どうだろう、ズバッとみんなの本音に切り込む小気味良さ。これでイチコロだぜw
あるいは、ビットコインのアイディアを最初に書いたサトシ・ナカモトを神にしてしまうこの大胆さ。創造主としてのサトシ・ナカモト・・・「そうなんだ!」ってそれで改めてビットコインが出てきた背景を考えてしまう。
その流れの中でさらりと、この取り組みはノーベル経済学賞ものだと書いてしまう。読者にクリプトエコノミクスという新しい研究分野ができていることをインプットしてしまう。これを読んだ高校生(もしかしたら中学生でさえ)は、経済学、おもしろそーって思うのではないか。
サトシ・ナカモトの書いたBitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash Systemtという論文が非常に洗練された論文であることや、どういう過去を持っている人物なのかということまで本文では類推してみせる。
そしてそれからビットコインやそれを成り立たせるための中核の技術であるブロックチェーンまでその本質を軽快に説明し、さらに貨幣についてや、ビットコインなどの暗号通貨の今と今後を考えさせ、最後にはその社会的な影響についての記述など、ビットコイン、ブロックチェーンというミクロの動きから、社会における技術の受容がそんなにすぐに起こるものではないという読者を冷静にさせる心配り・・・いい本だと思う。
本書の章立ては以下の通り。
- まえがき
- 第1章 サトシ(神)はビットコインを創生し、やがて姿を消した
- 第2章 そもそもATMは魔法の箱なのだ
- 第3章 ブロックチェーンの生態系には、人間も機会も黄金もある
- 第4章 暗号通貨の社会はめちゃくちゃ人間くさい
- 第5章 超絶的な自動販売機イーサリウム
- 第6章 正社員は減ってないし、会社は無くならないし、電子化はそう進んでいない
- あとがき
全部で200ページ少々の本だ。いろんな人に読んでもらいたい本だと思う。
そしてビットコイン等を理解するだけでなく、今、われわれの生活を日々変えているデジタルトランスフォーメーションという技術がもたらす社会変革がどういうものなのかということに思いを巡らしてくれたらいいなと思ったりする。
今年、4冊目の本を読了しました。