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Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

経済論戦は甦る

先日読んだ「男子の本懐」の続きだ。

当時の金解禁政策をどう捉えるかという点をもう少し知りたくて読んでみた。

4492393862 経済論戦は甦る
竹森 俊平
東洋経済新報社 2002-10

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まず、フィッシャー的な視点とシュムペーター的な視点の二つが示される。その2つの視点を中心に日本のバブル後の不景気、デフレをどのように見るべきかが示される。

その後に具体的な経済政策の検討が多面的な視点から検討されているがこの辺りになると、僕のマクロ経済政策の知識では一度読んだだけでは全体を理解することは不可能。

ただ、一企業で必要とされる戦略と国家レベルで必要とされる政策は同じものではないという指摘は納得。

国家は企業と異なり、お金を生産する能力を有しているが故の特殊性があり、かつ単なるミクロの総体として以上のマクロレベルでの国という存在を考慮して政策は考えられるべきとの主張だと思う。

つまり、シュムペーター的な考え方は企業レベルでは支持されても、国家レベルでは必ずしも支持されないということだろう。国家レベルの政策はミクロレベルで個別企業がシュムペーター的な戦略を取れるように維持されなければいけないことになる。

よってマクロ経済を構成している全企業がシュムペーター的な行動をとるということは不可能なので、政府は経済全体がそのような状況に陥らないように運営されなければならない。

・・・となると、フィッシャー的な見方でなければならないということになる。

さて、浜口雄幸井上準之助が実施した金解禁はどうだったであろうか。

男子の本懐を読んでいる限り、その政策アプローチはシュムペーター的であり、「経済論戦は甦る」が教えるところから、妥当ではなかったということになるであろう。しかし、当時、フィッシャー型の発想、つまりケインズ政策を取ることはまだ一般的ではなかった。彼らはこれまでの経験からデフレになることを承知で実施していたのであり、そのために国民一丸となって現状の危機にあたる姿勢を政府自らが取ろうとした。

当時の金解禁のときの政策対応は考えさせられる。それまでの常識では通用しなかった時にポリシーメーカーはどうすればいいのか。

結局、浜口と井上はそれまでの考えを踏襲し、金解禁を実行し、日本経済をデフレに追い込んだ。その後で登場した高橋是清は、今日言うケインズ的政策を実施し、日本経済を急速に立て直したのである。

これまでに経験したことのない状況に直面した時、我々が頼らなければいけないのは、日ごろの経済理論の研究と現実の観察から得られた知見である。そこから新しい状況に備えた新しい政策手法、考え方をいかに見出すか、そこに大学やシンクタンク、調査研究機関の存在理由があろう。

これは市場調査や経営分析、産業分析、ありとあらゆる研究分野に当てはまることだ。

今回の本は読み応えのある本で、2度、3度と読み直してみても良いのではないかと思う。またデフレ経済から脱出しつつあるように見える今の時代だからこそ、日本経済の危機的な状況に書かれた本書はもう一度読んでみる価値があるであろう。

あるいは最近著者による新しい大著が出されたので、そちらを読むのが良いかもしれない。

本書は非常にいろいろと良い意味で考えさせてくれる良書だと思う。

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