今読んでいる「複雑な世界、単純な法則」(草思社刊)に興味深い記述があった。
もしいまの時点で、将来何が発見されるのかを予測できるのであれば、われわれはそれらのことについてすでに知っていることになる。(本書10頁)
ハッとさせられる言葉だ。自分たちの仕事上で言葉に直せば次のようになるだろうか。
もしいまの時点で、5年後のブロードバンド回線数を予測できるのであれば、われわれは5年後のブロードバンド回線数についてすでに知っていることになる。
しかし、実際は5年後のブロードバンド回線数について分らないから予測するわけだ。実際将来を知るために重要なことは、5年後のブロードバンド回線数を決めるさまざまな要因を明らかにし、その要因間の関係を明らかにし、今後5年間を考えた時、どの要因を考慮すべきか、綿密に検討することである。
われわれはそのことに対して、5年後の状況まで含めてすべて知りうるであろうか。それはまず不可能なことである。よって予測値とは算出された瞬間から外れる運命にある。
クライアントとの打ち合わせ、場合によっては身内との打ち合わせでも「予測は当たらない」というと、みんな怪訝な顔をする。しかし、ちょっと考えてみて欲しい、上記のように求めようとする予測値に影響を与える要因個々についてすべて把握し、それらについても予測しなければならなくなるのだ。
昔、複雑性の科学が注目されていた時、よく例で出されたことだが、日本の天気は裏側の南米で蝶が羽ばたいただけで影響されるということが言われた(実際の例えは違っていた)。
われわれの行動がすべてネットワーク化され何らかのつながりを持っているとすれば、それはつまりブロードバンド回線の予測値を得るのに、世の中で起こるありとあらゆる事象について分析し、その連鎖を解明してから予測しなければならなくなることだ。
実際はそんなこと不可能だから、数ある要因のなかから重要なもの、分析フレーム上必要なものをピックアップし、予測する際に考慮することになる。
このような部分的な分析を補うために普段から業界動向、ユーザ動向の分析は綿密に行われなければならない。それから予測手法の研究も怠ってはならないだろう。
分析手法については、最先端や難しい手法を闇雲に使えばいいというものではなく、課題になったテーマに対して適切な手法を選択する必要がある・・・ということは方法論を選択するために、幅広い知識と判断力が必要とされるということだ。
われわれの予測作業は部分的な情報で全体を把握しようとするとするものである。よって重要となるのはその予測値を不断に見直すことと、現状の分析を怠らないことである。
だから、マーケティングにおける3C分析やSWOT分析などは予測する際には必ず必要となろう。
逆に言えば、通常、市場調査とか競合他社分析などを行う場合、それは最終的に将来を見通せる結果がだされることを要求されていると考えてよい(明示的には言われなくても大体そうなっているものだ)。現状のそれぞれの事象が将来的にどういう意味を持っているのかを明らかにするのが、現状分析の課題だろう。
よく「自分は現状分析ばかりで予測を行ったことがない」とか「予測は難しいから僕には現状の市場調査ぐらいしかできません」ということを聞くが、以上の議論からすれば、少々おかしいということになる。現状分析と予測は一体的なものであり、どちらがどうというものではないのだ。