日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

ネットワークのフリーライダ2:共有地の悲劇

先日、ネットワークのフリーライダという話題を書いた。

これに関する話題が日経コミュニケーション(2006年2月1日号、P55)に「NTTコム和才社長がGyaOに『NO』」という見出しで出ている。

要するに、ブロードバンド回線を利用した上位レイヤに無料放送サービス(具体的にはUsenの無料インターネット放送「GyaO」)が普及してきたが、それによりバックボーン・ネットワーク自体(ここではアクセス系ではなく、バックボーンが議論の対象であることに注意)が混雑し、GyaOサービス利用者以外のユーザに迷惑をかけている。これを解消するためにはバックボーンの増強が必要だが、現状のビジネス・スキームではUsenはそのコストを負担しなくてもすんでしまう。つまりネットワークの混雑の原因を作り出している当人は何の追加コストも支出せず、バックボーンを使うのはけしからんという論理だ。

今回は、とりあえずUsenとの交渉で解決するという手段もあるであろう。(話は横にそれるが・・・実はUsenはアクセス回線の販売では自社のBroad-Gateサービスのほかに、NTT東西のBフレッツUsen光Withフレッツとして売っているというNTTグループとの関係もあるので、単に「ただ乗りけしからん!」という訳にもいかないだろうと思う。)

現状ではUsenのサービスが混雑の原因という具合にはっきりしているからよいが、インターネットという国境のないサービスであることを考え合わせると、今後、上位レイヤのサービスが雨後の竹の子のように出現したときにはこれをいちいち把握し、コスト負担の交渉をするのは至難の業だろう

こうなってくると、前回書いたような排除原理が働かない状況になってしまう。言葉を変えて言えば、ネットワーク資源に関する「共有地(コモンズ)の悲劇」が起こってしまう。

これを解決するためには、どのような解決法があるだろうか。

次世代ネットワークにはIMS(IP Multimedia Subsyste)というネットワーク横断的な通信仕様が考えられており、固定、移動問わず共通のプラットフォームで通信の制御や付加価値機能の提供、課金機能の提供などができるようになるようだ。

つまり技術的には排除可能な状況に将来なるようなのだが、現状のインターネットのビジネス・ルールでは今回のような状況のとき、追加コストを払うということにはなっていなかった。だからこそ、将来をにらんでそこのルールを構築することを視野に入れて今回の発言につながったのではないかと考えられる。

噛み付いた先が、NTT東西のサービスを売ってもらっているUsenであったというのもなんとなく納得できる。

NTTコムの和才さんに続いて、持株の和田さんがSkypeについても言及したのも上記のような背景で考えれば、理解できなくもない。

ただ、日経コミュニケーションに取り上げられたのに近い発言であったのであれば、その言い方がよかったのかは別問題だ。「勝手に使われている」から「使ってもらっている・・・しかし」と言い方を変えるだけで世の中の受け止め方は変わると思うのだが・・・商売ってそういうもんではないですか?

現に、日経コミュニケーションの当該記事は最後の見出しを「本音は競合サービスの阻止?」とし、競合サービスへの牽制であると勘ぐられている。

執筆記者の山根さんは優秀な記者だが、しかし、今回のこの部分は明らかに書きすぎだというより、本来指摘しなければいけないポイントを外していると思う(しかし、この手の内容の方が、読者はヒステリックに喜ぶだろうが・・・こういう憶測記事(だと私は思う)が一人歩きして世論形成に大きな影響を与えるのであり、昨今のジャーナリズムのあり方に疑問を持たざるを得ない)。

NTTグループが中期経営戦略を昨年発表した内容、総務省の通放懇談会やIP懇談会の状況、公正取引委員会の存在を考えたとき、文中に述べられているような意図があっての発言としたら、これは大問題になってしまうのは、火を見るよりも明らかではないのか?

そんなことを日本のインフラを担う大企業の幹部が言うはずはないと思う。

今回のNTT幹部の発言は今後のITビジネスの根幹にかかわる重要な問題提起なのではないのだろうか。冷静に議論してもらいたいものである。

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