この本は面白い、何が面白いって書いている内容はもちろんだが、若手の経済学者がこういう形で内容のある本を書いてくれたということが非常に面白い。
イノベーションに興味のある人なら誰が読んでも面白いだろう。そしてもしかしたら、経済学をあまり知らない人の方が面白いと思うかもしれない。そしてそういう風に感じた人のいくばくかが本格的な経済学、特に産業組織論の分野を研究対象としてこの道に入ってくれれば最高だろう。さらにその先、AI・IoT・BDCによって変革しつつある、世の中、当然、産業も含めて我々の日常生活までを分析してもらえるともっといいと思う・・・と思うのは、最近、情報通信業界を研究テーマとして選んでいる若手の研究者が少ない、特に経済学者、あるいは、日々少なくなっていると感じているからだ。
おっと話が逸れた。
本書は、まえがきに著者が書いているとおり、非常に砕けた筆致で書かれている。そういう点では学術論文とは真逆の表現形態を取っているわけだが、内容は同じだ。恐らく、より多くの人に読んでもらうことを前提に書き下ろしている分、本書の方が書き手にとっては色々工夫が必要であったのではないかと思う。
読んでいて、小気味よく読めるし、その上でイノベーションの評価について専門的な視点やその評価の仕方についても頭に入って来るのだから、非常にお得だと思う。
まだ読んでいる途中だが、気になる文章を抜き出しておくと・・・
- (本書50ページ、3段落目)だから現実のケースを考えるときには、「唯一絶対の分類がある」などと考えてはならない。そうではなくて、今じぶんが語りたいのは何なのか、どういう問いに答えたいのか、そういう問題設定に即して、着目すべき側面に光を当てよう。大事なのは問題設定であり、それ次第でどういう概念・区分のしかたが有用かは変わってくるからだ。
- (同上、4段落目)色とりどりの蝶々をうまく分類するのも大事だが、蝶々を愛でること、あるいは蝶々が舞うメカニズムを解明するのはもっと大事である。そして自分が追っているのはどの蝶なのか、そもそも何のために追っているのかを、見失ってはならない。
至極当たり前のことだけど、仕事にしろ、研究にしろ往々にしてここを見失ってしまうことがある。
そしてこの内容は実は本筋からは外れている、余談、脇道にそれた話なのだが、それがまた大切な内容であるのが何ともいい。最先端の研究成果を砕けた文調で読者に語りかけ、そして内容に引きずり込んでいく、その途中でちょっと視点を変え、モノの見方・考え方のポイントを書き込むというこの本に流れる勢い・・・素晴らしい。
本書は、下記の全11章からなり、それにはじめに、巻末付録読書案内、あとがきがついている。
- 第一章 創造的破壊と「イノベーターのジレンマ」
- 第二章 共食い
- 第三章 抜け駆け
- 第四章 能力格差
- 第五章 実証分析の3作法
- 第六章 「ジレンマ」の解明ーステップ①・・・需要
- 第七章 「ジレンマ」の解明ーステップ②・・・供給
- 第八章 動学的感性を養おう
- 第九章 「ジレンマ」の解明ーステップ③・④・・・投資と反実仮想シミュレーション
- 第十章 「ジレンマ」の解決(上)
- 第十一章 「ジレンマ」の解決(下)
本当は全編を読んでから記事にしようと思ったが、それよりも一刻も早くこの非常に面白い本を一人でも多くの人に知ってもらいたくて記事にして公開した次第。繰り返し角が、自分はまだすべてを読み終えていない。それでも全編を通して面白い本であることはほぼ疑いのないことだと確信している。阪大の安田先生が、帯に「『破壊的』名著」と推薦コメントを載せているとおり、それほど破壊的に面白いと思う。
イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
- 作者: クレイトン・クリステンセン,玉田俊平太,伊豆原弓
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2001/07/01
- メディア: 単行本
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読み終えたら、この記事に対してどういう感想を持つか、再度、書いてみたいと思う。
下記の動画は、著者本人の発表だ(日本語)。この報告も非常に面白い。
SWET2016講演「産業組織論、あるいは動学ゲームの推定」 / 伊神満
Youtubeを使えば、なかなか接することができない著者の発表を視聴することができる。便利な世の中になったものだ。