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日々の生活を豊かなものにし、労働から解放したのは紛れもなく技術のおかげだ。その発展・普及なくして今の世の中はありえないだろう。しかし新しい技術の世の中への浸透がその当初経済社会に何らかの軋轢をもたらすのも事実だ。それは技術の社会的受容として昔からアカデミアの世界でも研究テーマの一つであった。技術の社会的受容について経済学の視点からこれまでの研究を集大成したものが『テクノロジーの世界経済史』だ*1。それについての自分なりの取りまとめは以下の記事にある。よろしければ読んでいただきたい。
本書『検索から生成へ』が描く生成AIの登場とその将来の可能性は、まさしくこれから本格化する生成AIという技術の社会的受容の現状を整理し、将来を描いたものだ。それは先日読んだ新電子立国の続きを描くものといってもいいだろう。
技術の社会的受容を読み解く鍵として著者が挙げているのが、「テクニウム」という聞き慣れない言葉だ。テクニウムとは本書によれば以下のとおり。
テクニウムとは、個々のテクノロジーを一つの生物と捉え、生物のように増殖し、生物のようにほかの生物と合成され、進化するものと解釈する考え方のことで、まったく別のところでまったく別の目的のために作られた技術があたかも生き物のように、出会い、交配し、新しいものに生まれ変わっていく性質を指します。(73ページより)
テクニウムの重要な性質としては以下の点が挙げられている。
- 必要性が生まれる前に技術が先に生まれる
- 普及した技術は、必ずほかの技術を取り込む
- 技術は、普及すればするほど安く、小さく、軽く進歩する
- 技術は、進歩することをやめることができない
このテクニウムの視点で本書はこれまでのデジタル技術の歴史を整理している(第2章)。1940年代のコンピュータの開発から1980年代前後のPCの出現、1990年代半ばのインターネット、モバイルの浸透、さらに我々の生活空間、ビジネス空間で検索が当たり前になり、SNSが普及した世界から、今、AI、中でも生成AIという技術が身近に普及してきた流れを明らかにする。それは著者の言うとおり、生成AIの登場が一過性のブームではなく、これにより世の中が大きく変わるという歴史的必然として明らかにするものだ。
ここを理解することで、現状の生成AIの世の中に対するインパクトが明らかになる。第2章は、本書で最も大切な章として位置づけられるだろう。第2章の視点で、その後の第3章から第5章まで現場から未来の姿までが描かれる。
だいぶ長くなるが、本書の構成を以下に書き出しておく。
- 序〜まえがきにかえて〜
- プロローグ 検索の時代
- 検索以前の時代とインターネットの誕生
- 人力によるディレクトリ検索
- 自動で探索するロボット型探索
- 「そんなに検索頻度が高いと儲からない」
- KPIは顧客滞在時間
- 検索なんて外注しろ
- 検索の時代へ
- 第1章 生成AIとはなにか?
- 生成AIとはそもそもなにか?
- コンピュータとAIは真逆の存在
- 説明なしで学ぶ人工ニューラルネットが可能にしたこと
- 巨大化することで性能を飛躍的に向上させた生成AI
- 生成AIの性能を決定づけるデータとバイアス
- 大規模言語モデルの”民主化”
- 新時代に価値をもつもの
- 第2章 テクニうむがもたらす未来〜知恵を合わせる能力〜
- AIが急速に進歩した理由
- コンピュータ、半導体、電卓戦争とマイクロプロセッサの発明
- ハッカー誕生の地MITから生まれた偉大な発明〜ゲーム、自由なソフトウエぁ、インターネット〜
- Microsoftはなぜ大学生に負けたのか?
- 自由なソフトウェアと商用化は矛盾しない
- ファミコンから始まったゲーム機戦争
- 天才たちの楽園〜サザーランドと電子たち〜
- MIT人工知能研究所とシンボリックス社
- 次世代ゲーム機戦争
- PCとMac、GPUの共進化
- NVIDIAの選んだ生き残りの道〜GPGPUとCUDA〜
- WebサービスとWeb2.0
- 世界中のプログラマーの集合知Github
- 人工知能研究者のための溜まり場HuggingFace
- AIが人間に勝ったアルファ碁の衝撃
- 強化学習×大規模言語モデルがChatGPT
- 高度で大規模な性能を保ち小規模なAIに蒸留する
- プログラミング×AIでさらに強力になる
- 第3章 民主化された生成AIが世界を変える
- 真の民主化がこれから始まる
- 大規模言語モデルが民主化されるとなにが起きるのか
- AI生成物が人間の創作物の総量を超え、ハルシネーションが知識を汚染する
- 生成AIの法的な問題
- 倫理的な問題
- データ中心主義(データセントリック)
- 表現手段としてのAI
- プログラムを書くAI
- 第4章 生成AIでビジネスはどう変わるのか
- 生成AIでプロジェクトを管理する
- 企業の意思決定手段としての生成AI
- 傾斜と管理者を助ける生成AI
- 中小起業こそ生成AI導入のメリットがある
- 生成AIで変わる人事
- 生成AI時代の組織とは
- AI中心主義の飲食店
- 第5章 生成AIの可能性
- コミュニケーションと生成AI
- エンターテインメントと生成AI
- プラニングと生成AI
- 仕事と生成AI
- 新しい働き方と生成AI
- 教育と生成AI
- 高齢化社会と生成AI
- おわりに「永続する未来へ」
全体としては240ページの読み物で、量の多寡の感じ方は人によるだろうが、この中に書かれていることを読んで考えることでより多くの知識を我々にもたらしてくれるだろう。そういう意味では読んだ後、もう一度読みたい本だと思う。是非2回読んでみてほしい。2度目に読む時はまた新しい世界が頭の中に広がっていると思う。
本書の基本的な視点であるテクニウムを理解するには、以下の書籍は必読だ。本書を読んでより深く考えたい人は読んでみることをお勧めする。
これから生成AIの世界が急速に広がり、そして我々の世界に深く浸透していくことになる。少し大袈裟だが、その社会的受容過程で、さまざまな社会問題がなるべく発生しないように、多くの人が本書を読み、生成AIが普及する必然を理解し、社会に普及する上での問題点があることを予期しながら利用を進めるようになればいいと思う。そうすることで検索から生成へというパラダイムシフトを上手く生き抜いていくことになるのだと思う。