研究所、シンクタンクで働く人は、何かしらの専門領域を持っているのが普通であろう。しかし、この職場において、自分の専門領域の受託研究だけで稼ぎを上げるというのはなかなか難しいことだというのが20年間この業界で働いてきた人間の偽らざる感想だ。
今の世の中は変化の激しい社会であるからなおさらだ。経済、政治、社会、国内、国際どの分野を見ても、どの視点から考えても明日どうなるか分からない・・・つまりどのような仕事が来るか分からないというのが我々が直面する状況。
そのような中で僕が10年ぐらい前に気がついて、若い人たちに言っているのは、「まずは頼まれた仕事は断ってはいけない」ということ。頼んでくる人は、どのような理由にしろ自分を頼って声をかけてくれた人である。そのような人、仕事に対し、簡単に「ノー」と言っては組織の中での自分の存在を否定するものだし、自分自身の将来の可能性の芽も自ら摘んでしまうことになりかねない。
それまではどうしていたかと言うとこんな感じ。
依頼者:(電話で)1週間で○○の需要予測してほしいんですけど・・・
私:そんなの無理にきまっているでしょ!最低3カ月はかかります。
依頼者:はぁ、やはりそうですよね。でもそこを何とか・・・
私:無理です!
まあ、一事が万事こんな感じで対応していた(社内での依頼でも同じような感じ・・・)。別に自分で仕事のより好みをしているわけではないし、需要予測をするにはそれなりの準備期間と予測作業の期間が必要だと今でも考えている。しかし世の中はそのような時間的余裕はないから上記のような依頼になる。
このようなクライアントの状況に気がついたのは、上記の電話をしてきた担当者の人と数年後偶然会う機会があり、「あの時は・・・」という話になった。そこで「担当としても止むにやまれずお願いしたものであのときは済みませんでした」ということまで言われてしまったのだった。そこまで言われれば大概の人は気がつくだろう。つまりはこちらでそのような依頼に対応できるようにしないといけないということだ。ちょっと話がそれた。
さて、そうやって仕事をいろいろ経験していくと徐々に仕事の幅ができてくる・・・つまりは便利屋に近づいてくるということになる。そして自分の専門にもよい影響が出てくるはずだ。自分の専門分野以外の経験を積むことによって、その経験を通した新たな視点から課題に対してアプローチできるようになる場合もあるだろうし、いろいろな仕事を経験することによって適切なアドバイスをできるようにもなるだろう。
一方、いろいろな視点から出てきた知見をまとめ上げるときは、自分の専門分野に戻って自分の専門分野のフレーム中心にまとめ上げることになる。つまりいろいろな課題に対応できる便利屋になるには実は専門分野を持っていることが大切だということでもある。
仕事の中にはお茶くみやコピー取りも入る。そんなのは自分(それがどのような立場の人であれ)の仕事ではないなどと言ってふんぞり返っている人はまず仕事のできない人だろう。場合によっては社長だって、部長だってお茶くみやコピー取りをしなければいけないことはある。
ここまで読んでくると、実は便利屋になるということは将来的にはいろいろな研究を束ねる役割を担う人材になることであることが分かる。一方、スペシャリストとしての道を選べば、自分の専門分野において文字通りスペシャリストとして会社に貢献することになる。まずは自分がどちらの道を選ぶのかという選択があるわけだが、当初はスペシャリストを志向する人が多いのではないかと思う。
しかし研究所の中で立場が上がれば、好むと好まざるとにかかわらず研究を束ねる役割を求められるようになる。その役割を果たしていくためには、なるべく便利屋としていろいろ経験しておくことが大切だ・・・と思う。
便利屋になるには、専門を持つことが必要だと思うし、便利屋になるなという教えは、便利屋にもなれない人材を作ってしまうという結果を忘れるべからず。
ちょっとまとまりのない文章かな・・・[E:coldsweats01]