自分がまだ小学校から中学生だった頃の話だ。普段ほとんど読書をしない父親が新聞配達のお兄ちゃんにロッキード事件に関する本は何かないかと頼んでいたのを覚えている。当時、それほど関心の高い事件だったのだろう。
自分はといえば、それからだいぶ経った大学4年生の時だったか、学部創設者の吉村正先生の偲ぶ会が憲政会館で行われた(と思う)のだが、その偲ぶ会に参加した時に、本書の登場人物の田中角栄と中曽根康弘が揃って送る言葉を話しているのを聞いたのが今でも記憶に残っている。
田中角栄の話しっぷりは例の何を言っているのか分からない話し方だった。中曽根康弘は逆に明朗で聞き取りやすかった。でも、二人の話を聞いたあと、なぜか惹かれたのは田中角栄だった。なんだか分からないけど、角栄の方がいいなぁと思ったのを覚えている。
その二人もキーマンとして登場する・・・というか田中角栄が中心に語られるのだが、後半になって実は中曽根康弘が、自分には読了後もよく分からないけど、この事件の真に鍵を握る人物という感じで描かれていた。
本書は、4部構成、序章の他15章で構成されており、事件の全容をこれまで発掘された資料や公表された書籍を丹念に追い、さらに数少なくなった関係者から直接インタビューを実施することで当時の状況を確認するなどしており、改めてロッキード事件とは何だったのかを問いかけている。
- 序章 霧の中の大迷宮
- 第一部
- 第1章 アメリカから飛んできた疑獄
- 第2章 政治の天才の誕生
- 第3章 金権政治家の烙印
- 第二部
- 第4章 トライスター請託の不可解
- 第5章 五億円とは何だったのか
- 第6章 裁判所の不実
- 第7章 吉永祐介の突破力
- 第8章 毒を喰らった男
- 第三部
- 第9章 もう一つの疑惑
- 第10章 児玉誉士夫という生き方
- 第11章 対潜哨戒機
- 第12章 白紙還元の謎
- 第13章 "MOMIKESE"と訴えた男
- 第四部
- 第14章 角栄はなぜ葬られたのか
- 第15章 残された疑惑
本書は500ページを超える大作だが、一気に読ませてくれる。当時の時代の雰囲気、国際情勢、国内政治の力学なども視野に入れながら、なぜ田中角栄がロッキード事件で裁かれなければなかったのか。実は、真に裁かれるべきは他にいたのではないか。米国に嫌われたと言われているが、それは本当か・・・少なくとも今裁判を争えば田中角栄の有罪はなかったのではないか等々、読んだ後も色々考えさせられる内容となっている。特に検察と司法のあり方は印象に残る。
一方、田中角栄の政治家としての凄さも改めて確認できた感じだ。六法全書を常に持ち歩いていたとか、官僚の使い方の妙とか、地元との付き合いや陳情者との交流、それらを支えた後援会のシステムなど、金権政治というマイナスのイメージがつきまとうが、抜け目なくいろいろな手を打つやり方・・・現在の政治家で田中角栄ほどの政治家を見ることはあるまい。
だからこそ、ロッキード事件では自分が有罪になるはずはないと思っていたのではなかったか。しかし、そうはならなかった。どうしてそうならなかったのか、利害関係者の中で真実は闇へ隠され、世論も一体となって罪人を作り上げていく怖さ・・・田中角栄は今裁判になれば、有罪にはならなかっただろうということ、ならばあの一連の事件の真の首謀者は誰だったのか・・・それは永遠に明らかにされることはないのだろうか。
実はロッキード事件を扱った書籍は、春名氏の書籍が出ている。こちらの方が早かったのだが、真山氏の方から先に読んだ。次はこちらを読んでみたい。
こちらも600ページという大著だ。いつ読み始めるかは今のことろ未定。