日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

料金政策の変更は高速道路の交通量にどのように影響したか?完

さてこの分析も一応のけりをつける時が来た。
価格指数を再度見直した。企業向けサービス価格指数と消費者物価指数の高速国道料金を採用し、この両者を普通自動車等の車種別交通量でウェイト付して、今回の分析に使う高速道路価格を作成した。
本来、自家用の利用と業務用の利用でウエイトを作るべきだが、そのようなデータがないため、車種別のウエイトを作成し、それで合成した。大凡、普通自動車(軽自動車含む)が自家用、それ以外を業務用とした。

  • 価格=消費者向け価格×普通自動車+企業向け価格×それ以外

これでできた価格指数をグラフにしたものが以下の通り。

この価格指数を使い、NexCo3社全体の交通量について推定した結果が以下の通り。括弧内は価格指数を改善前の推定結果。

  • 決定係数:0.9980(0.9979)
  • DW比:2.1603(2.0820)
  • 価格指数のt値:4.45(2.80)
  • 価格弾性値:−0.1731(−0.0777)

価格指数を作り直した結果、価格指数のt値が大きくなり、価格弾性値が−0.0777から−0.1731へ大きくなった。
実際推定結果がどれだけ実際を説明しているかグラフにして確認してみる。

グラフから含意を読みとるのは難しい。DW比は、2.160で系列相関は数字上は問題ないように見えるが、グラフ化してみると系列相関が全くないとは言えないように見える。また二つ○印をしてあるが、左の丸は、民主党の1000円政策の後半部分にあたり、推定値が実績値を下回っており、「1000円料金で過剰消費が起こっていた」と読めなくもない。一方、右側の○印は、安倍政権の経済政策が実施されている時期であり、「アベノミクスによる景気回復が交通量の増加をもたらした」結果と読めなくもない。
実際はどうなのだろうか。
さて本来の目的はこの推定モデルを利用して、料金政策がどの程度効果を持っていたのかを明らかにすることである。そのためには料金が引き下げられなかった場合をシミュレートする必要がある。その際に利用したシミュレーション用料金指数と割引率は以下の通りだ。

値下げなかりせばの料金は実施直前月、つまり2009年2月の料金で固定して、その際の需要量を計算した。比較するにあたっての料金値下げ実施後の需要量は、実績ではなく、モデルから計算される需要量で比較した。その結果が以下の通り。

  • 料金の割引率:6〜14%
  • 利用台数の増加率:1.1%〜2.6%程度
  • 利用台数の増加数:8万台/1日〜20万台前後/1日

以上となった。この数字をどう解釈するかがまた難しい。注意すべきは「月別1日あたりの平均利用台数」ということだ。おそらく最大で1日20万台分の利用増があったとのシミュレーション結果は、曜日や時間帯によってかなり偏りがあるのではないかということは容易に想像できる。例えば日曜日の午後はおそらくこの何倍もの効果となって需要台数を増やしていたであろうと推測できる。
さて今回それなりの需要モデルが推定できた(と自身では考えている)ので、今後1年間の需要量を予測してみよう。
今回のモデルでは所得やエネルギー価格、代替サービスなどの変数をモデルに取り込み推定してみたが有意にならなかったので、価格だけで説明するこのモデルで1年間の予測を試みる。説明変数である価格は1年間一定、その他月次ダミーやトレンドはそのまま延長するようにした。
結果は以下の通り。下記のグラフで赤い点線で囲った部分が予測期間である。ここで棒グラフは対前年同月比であることに注意。

まず交通量の対前年比だが、-5.9%という数値となった。それを台数ベースでみると、減少分46万台/1日である。曜日別、時間帯別でこの効果はかなり偏って現れると考えられる。また、このほかに燃料費の高騰、他の消費財の価格上昇などがあるため、実際にはさらに交通量が減る可能性が大きいと言えるだろう。
当時の政策目標が以下の3点であったことからその点について今回の分析結果から何が言えるであろうか。

  • 流通コストの引き下げを通じて、生活コストを引き下げる。
  • 産地から消費地へ商品を運びやすいようにして、地域経済を活性化する。
  • 高速道路の出入り口を増設し、今ある社会資本を有効に使って、渋滞などの経済的損失を軽減する。

これらの点について何らかの評価ができるのだろうか。ここは以下の文献を再度読み直し、その観点に立ってちょっとじっくり考えたい。

  • 岡野行秀「規制緩和と社会厚生」『公正取引』(No.543、1996年1月)

上記文献を記す目的として、岡野先生は、

第1に、「(中略)規制緩和の議論について「十分な証拠」を示す必要があること、第2に、「規制緩和の本来の目的は資源配分の効率向上を通じて社会的(経済)厚生を増大させることである」という観点に立って昨今の規制緩和に関する問題を考察することである。

と記している。また、スティグラーの『小さな政府の経済学』からの引用として次の言葉が記してある。

「政策的改革、つまり経済のある部分を改良しようとする場合、これまで行ったことの成否を占う一方法、というより唯一の方法は、事態をよく観察し、検討することである」

今回の分析結果から言えることは少ないかもしれない。しかし議論をする上で一つの客観的事実としてこういう小さい積み重ねが大切なのではないかと考える。