前作に引き続き、経済学とはちょっと結びつかない分析対象・・・お寺に関して、経済学者の目で現状を分析している。
お寺の経済学 中島 隆信 東洋経済新報社 2005-02 by G-Tools |
内容は仏教の歴史から現在のお寺を巡る様々な問題点が取り上げられ、現代社会におけるお寺の存在意義を浮き彫りにしている。
これまでの経済学は、市場という制度を前提として、主に経済的問題を解決するものであった。しかし、前作の大相撲の経済学と今回のお寺の経済学が教えているのは、経済分析の対象は何も市場メカニズムおよびその周辺部だけに限定されるものではないと言うことだろう。
現状の経済学は経済分析の対象をより広く拡張している。それを可能にしたのは、分析対象を市場参加者、より一般的に、我々のインセンティブのあり方という視点から見ることになったことによる。
インセンティブには大きく分けて3種類ある・・・らしい。
- 経済的インセンティブ
- 社会的インセンティブ
- 倫理的インセンティブ
昔の経済学は経済的インセンティブについて需要と供給という側面から分析していたものと言えるであろうか。それがゲーム論等の新しいツールを使うことによってより広範囲に分析対象を広げることが可能になったということだろう。
インセンティブというメカニズムから見ると、市場メカニズムはその一形態であることが理解できる。お寺という存在は市場メカニズムとは異なるインセンティブメカニズムが機能し、それが社会の中に深く浸透している例であるということになる。現状はお寺という存在を支えていたインセンティブ構造が危うくなっている時代であり、今後、何らかの対応が必要なことが本書を読むと明らかになる。
中島隆信氏の一連の著作は、経済学の可能性を我々に気づかせてくれ、経済学を身近なものにしてくれる。本書もお薦めの一冊だ。