日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

マイケル・ルイス著『最悪の予感ーパンデミックとの戦いー』:やることはある、それを地道に続けられるかだろう

今の時期、本書が出版されたのはたまたまだったのか、Covid-19の感染拡大が始まってから書き始められたものなのか、あまりにもタイミングが良すぎると最初は思った。最後の謝辞を見ると、きっかけは5年前に始まっていたみたいだ。そして本格的に取り組み始めたのは2020年の春頃、原著の出版が今年の5月なので、ほぼ1年間で書き上げたことになろうか。

 

日本語版はその2ヶ月後の7月の出版なので、執筆と翻訳がほぼ並行して行われていたということだろう。旬を考えれば、そうするだろうなと思いながら読み始めた。自分が読み始めた時にはすでにネット上で話題になり、評判が立っていたので、期待しながら読んだわけだが、期待通りの内容だった。

米国の感染症に対する対応の不味さとそれをどうにかしようとする一部の専門家の取り組みが全編にわたって書かれているわけだが、官僚制の悪い面がもろに出てしまった上に、大統領が最悪だったことも重なって、米国の対応が上手くいかず結果として多くの感染者と死者を出した様が手に取るように分かる。

I think Target Layered Contingment might be helpful...

ターゲット・レイヤード・コンティンメントは参考になるだろうと思うが・・・

本書は、全部で400ページ弱と結構分量がある。章立ては以下のようになっている。

  • はじめに 失われたアメリカ人
  • 第一部
  • プロローグ グラス越しの景色
  • 第一章 ドラゴン
  • 第二章 保健衛生官の誕生
  • 第三章 パンデミックを憂える人
  • 第四章 止められないものを止める
  • 第五章 千里眼
  • 第二部
  • 第六章 赤電話
  • 第七章 アマチュア疫学者
  • 第八章 マン渓谷にて
  • 第九章 L6
  • 第三部
  • 第10章 システムのバグ
  • 第11章 偽りの花壇
  • エピローグ 不作為の罪

米国の対応のまずさ、多くは官僚組織の弊害がからきていると分かってくると、当然、日本の今の状況と重ね合わせてしまうわけだが、日本は米国と同等のひどい対応をしているということになろうか。例えば、マスコミから伝わってくる情報で、「えっ?」と思ったのは、専門家が「もはや打つ手なし」というようなことを言ったと流れてきた時だ。

そんなことはないだろう。検査だってまともにやっておらず、行動規制に対する対応もどこか中途半端だ。一番まずいのは予測に対して、行動を起こすのが遅すぎることだろう。気配がしたらすぐに緊急事態宣言を出さないと防げないのに、十分感染者数が増えてから、ここまで増えたら誰も文句は言わないだろうというレベルになってやっと宣言するという何ともセンスのない政策運営。さらにわれわれに対するメッセージの出し方もセンスがない。

 

やっぱり謎なのは、本書にも書いてあるが、全体の感染状況の把握が感染症対策の最初の一歩なのにそれがいつの間にかあやふやになっていることだ。感染状況が分からなければ、対策のうちようもない。そして対策の単位が都道府県単位であることも限界を感じる。いかに移動を止めるか、接触を少なくするかという点を考えれば、感染対策の最小単位は市町村単位にするのが合理的だと思うのだが、そうにはなっていない。

diamond.jp

上記の墨田区のような事例もある。これを参考にできないのだろうか。今すぐできなくても走りながらでも、対策を立て直していくべきだろう。法的な縛りで人の行動を制限すれば済むものではないと思う。

 

具体的な政策を体系立てて実施するために有効だと思われる「ターゲッテッド・レイヤード・コンティンメント(TCL)」という感染症に対する戦略が本書の中で紹介されている。これは、「インフルエンザの類の感染症は、一つの対策では防げない。感染症の性質や人々の行動に応じて、戦略を組み合わせることが重要になる。それぞれの戦略は、穴だらけのスイスチーズのスライスのようなもの。十分な枚数のスライスを適切に並べれば、穴をふさぐことができる。」とある。

 

今の日本に必要なのは、こういう発想を日本の実情に合わせ、体系的に組み立てて実施していくことだと思うが、違うのかな・・・。最後にある「チャリティがいつもいちばん後悔するのは、自分が「言ったこと」や「やったこと」ではない。「やらなかったこと」だ。すなわち、不作為の罪。・・・これからも感染症との戦いは続く、今何をすべきか、「不作為の罪」を起こさない勇気を持つことが必要なのだと思う。

本書はいろいろ学ぶべきことが多い内容だと思う。まだ読んでない人は是非一読をお勧めする。それから同じ著者の作品で以下の本も是非読んでみたいと思ったのだが、こちらは翻訳されないのだろうか?原著で読むしかないのかな?