日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科主催:Sports X カンファレンス2019に行ってきた

夏のことなので時間が経ってしまったが、慶應大学大学院システムデザインマネジメント研究科が主催するカンファレンス、Sports Xカンファレンス2019に行ってきた。以下はそのカンファレンスでのメモを中心に頭に残っていることを書き連ねた記事だ。

 

大学院システムデザインマネジメント研究科とは?

このシステムデザインマネジメント研究科はその研究科の名前が示す通り、システム思考+デザイン思考で社会事象を捉え、問題点、課題を解決していこうという大学院だ。

まずは社会をシステムとして捉え、状況を整理認識し、デザイン思考で分析する・・・多様なステークホルダーがいろいろな課題を抱えているので、アプローチは学際的になる。最近、文系理系というわけ方や学部という壁が学問や科学の世界で問題視しされているが、その点を超越したアプローチを実践している大学院だ・・・と自分は理解した。この研究科を知りたければ以下の2冊の書籍が役立つ。

こちらは入門編だ。

システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」

システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」

 

そしてこちらはより専門的にシステムデザイン・マネジメントについて書かれている。自分の出身大学の出身学部は創設の時、行動科学として学際的アプローチを取り入れることを念頭に考えられた学部だった・・・なんてことを思い出した。

システムデザイン・マネジメントとは何か

システムデザイン・マネジメントとは何か

 

そしてここで入院生活をおくってみたいと思ったのでした。

 

 

Sports Xカンファレンス

さて、Sports Xカンファレンスは、このアプローチで現在日本のスポーツ業界を産業として成長軌道に乗せるには何が必要なのか、それをどのように実現していくのかを考えようというカンファレンスだ。

events.nikkei.co.jp

いくつかのセッションを聞いたが、メモや頭に残っているキーワードをもとに当時を思い出しながら以下、書いていく*1。当然、自分流の解釈が入っている前提でお読みいただきたい。

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A new age in sports (スポーツ新時代)

カンファレンスが始まって最初の印象が、「プレゼンテーションが上手い!」ってことだった。基本、スクリーンは見ないで語りかけるように話す。会場との一体感、引き込まれる。

内容としては、ライブ(生)に価値を見ているということ。見る人のためにいろいろな形のコンテンツやプラットフォームの拡大の拡大があり、スポーツ観戦をめぐる環境は大きく変化している。そしてそれらをうまく利用したユーザを広げる取り組み。これによりスポーツのビジネスとしての可能性が変わる。

このような状況からさらに将来も伸ばすにはどうするか?エンターテイメント業界との関係構築、つまりスポーツ≒エンターテイメントの一部として再構築。見方を変えれば、Attenstion Economyという視点で時間を何に使ってもらうのか、見る方からすると時間をどう使うか・・・時間を取るための競争が始まっている。そのような中、若者の参加率が下がっている。他のエンターテイメントとの関係がどうなっているのか。

テクノロジーの可能性ないし影響。例えばNetflixの台頭。米国ではケーブルの脅威になっている。最近は日本でも存在感を示し始めている。

一方、ファン層が多様化している。ローカルでありグローバルな立ち位置。Fluidな(移ろいやすい)ファンををどう取り込むかのか。今のファンは、自らがコミュニテイを作りたいという思い。例えば、イチローのファンという存在は、チームのファンではないということ。

スポーツとしてのビジネスでファンをどのように獲得するかは、メディアの使い方が鍵になる。没入型メディアを利用して、ファンが主体的に選べるようにする。さらにソーシャルメディアをどのように使っていくか。多様なメディアを全体としてどのように連携させ、ファンを獲得していくか。メディアを含め、ビジネス全体のエコシステムをどう考えるかという視点。

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スポーツを科学的に管理する:100球制限や如何?

誰のためのスポーツか。個人差がある身体能力、肩や肘の耐久力・・・50球以下でも痛むし、100球以上でも痛まない。選手によってその差は大きい。そのような中でまずは100球を暫定的に定めて高校球児、投手を守る。本当は個別に上限投球数を決められるのがベスト。でもそれをしているだけの時間や人の手当ができない現実。

そもそも個人差が大きいということを認識する必要。多様性を前提にした指導が必要なのだが、日本はそのようになっていない。例えば、投げ方の問題でみると、バイオメカニクスというアプローチで明らかになったのは、速度と力は一致しないというようなこと。

具体的には、内側側副靱帯の損傷がなぜ発生するかというと、内反トルクが原因だ。そして内反トルクは個人差が大きく、そこを考慮して投球数を決める必要があることが分かってきた。このように科学の進歩はあるのに、一方で故障者は減らない現実。なぜか?

監督への啓蒙活動を進める必要。上手投は人間にしかできない。それが肘への負担を高める原因の一つなので、その負担がどのくらいになるか計測する必要があるが、そこまで手が回らないのが現状。そこで、予防するためのセルフトレーニングができる。そういう情報、知識をどう広めるか・・・ その役割を担うのが指導者である監督。そしてそれは選手の意識改革に繋がっていく。正しいトレーニングの必要性とその実行を早急に進める必要がある。

骨格、筋肉の強さは人によって、場所によって異なるとすると全体のデータよりやはりテーラーメイド型のデータが必要になると考えれれる。このように考えると、100球問題といて顕在化した野球における選手の育て方の問題は、単なる投球数制限の話ではないことになる。

野球のあり方そのものを考え直す必要があるように感じた。最近の高校野球での動きはそういう大きな問題提起の一環だと考える必要。例えば、試合が土日に集中するのは、大人の事情に過ぎない。100球制限は一つのきっかけに過ぎないのであり、そこに一歩を踏み込んだ新潟高野連の試み(100球制限)はベースボール革命の始まりと言える。

 

Sports X Initiative〜スポーツ経営人材の育成とR&Dセンター構想〜

Sports Xとは・・・人材育成とR&Dの視点。

MITスポーツanalyticsに参加してアメリカの現実を見ることで、スポーツ産業・ビジネスの盛況を目の当たりにした。アメリカがこのように大きくスポーツ産業が成長した背景・・・イニシアティブの存在がある。そして大規模複雑な世の中、複雑なシステムを研究する必要があるとの認識。

日本のスポーツ界は、95年までは米英と同じ規模だったが、その後、両国のパフォーマンスは大きく開いた(実は日米の差はスポーツだけでなく、あらゆる分野に及ぶ。日本の相対的な凋落という現実)。

その原因を明らかにするためには、 95年以前を見る必要がある。日本周辺を見ると、そこには、伸びるアジア諸国が存在する。一方、スポーツだけのことを考えているだけでは日本の状況を大きく変えられないという認識。

ならばどうするか?全体構造を作るというところから始めないといけないという問題意識。Sports Xの名前の由来は、Xという何かで大きくすることを考える。つまりは社会課題解決の一助としての位置づけ。このような見方をすると、スポーツはあらゆる差異を超えていく共通言語たりうるという視点。

 

カンファレンス、人材育成、R&D の3本柱

人材育成:日米の違いのきっかけはなんだったのか? ー米国4大スポーツの設計者にヒアリング(野球、バスケ、アメフト、アイスホッケー、+ サッカー)して課題を抽出。 ガバナンス、組織設計のイニシアティブは弁護士、投資銀行

ビジネスの第一線での進め方は、まず弁護士等でコンセプトを作利、雛形ができて、勝ちパターンが見えてから、スポーツビジネス系の人たちが入るという点がポイントになる。

構造そのものを成長させる構造をどう作り上げるか。構造を変えていける人材を育成するとともに、社会に対する自分たちの立ち位置をはっきりさせる。

まず必要とされる基礎能力は、多視点化、構造化、可視化をする能力だが、それを可能にするためにも、デザイン思考(価値創造)とシステム思考(全体構想総出力 総合思考 物の見方)が必要だ。その2つの視点から、考え方を鍛えることになる。

なるべく多くの経験を積むためには国内に閉じていてはダメで、Plain Englishは必須ということになる。そして学際的なアプローチが必要になり、そのための横串の差し方を考えなければいけない。つまりは個別ディシプリンでコミュニケーションできるように共通言語としてのシステムズ・エンジニアリングを収めた上での多様な学問を取り入れていくことになる。

そこではナブラ型人材が求められ、課題と価値の構造化によるソリューションの構築をしてくことになる。T型人材ではこれに対応することはなかなか難しいというか、ほぼ不可能だろう。人材の厚みが増すことで、R&Dをできるようになる。そして結果、科学とビジネスの間をつなぐ活動が可能になり、新しい姿を表すことになる。

今後の展開としては、仲間づくりがポイントであり、それは多様性を高めることに他ならない。

 

*1:当然、記憶が定かでなくなっている部分もあり、またその後、自分の考えで上書きされているところもあると思う。そのような内容だということで理解して読んでほしい。