日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

これからの計量分析は因果を問う:EBPM(証拠に基づく政策立案)の重要性

自分の理解では、計量経済学は経済学と統計学の応用で、その中で因果関係の部分は経済学で考えられていたため、計量分析ではその部分は所与として分析することが普通だった。しかし、理論上の因果関係がそのまま実証のデータの関係として成立するかはまた別の問題であろうことは考えてみれば気づくところであろう。それに対する批判はこれまでにもあり、グレンジャーテストなどを用いて、因果の方向を検証する方法も試みられてきた。

これは経済現象の分析だけでなくおよそ社会科学全般に言えることで、理論上、因果関係を特定し、それを前提として「集められた」データでモデルを推定して、仮説を検証してきた。ところが最近、その点について、実証分析をする中で因果を検証しようという試みが出てきている。

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

 

社会科学で因果関係を特定するのが難しいのは、それが社会の動向そのものから収集されたデータであり、検証したい因果関係以外の要因もそのデータの動きに影響している・・・つまり諸要因をコントロールできていない中でのデータであるためだ。最近の計量分析ではそれに対して行くつかの解決策を提示し、実際の分析に応用されるようになってきている。

ここで紹介している最初の2冊、「原因と結果」の経済学データ分析の力は因果分析を考慮した上でいかに実証分析を行うかについて、その考え方と実際の分析手法が開設されている。最初に読みたい一冊。 

データ分析の力 因果関係に迫る思考法 (光文社新書)

データ分析の力 因果関係に迫る思考法 (光文社新書)

 

より専門的には以下の書籍がある。

Rを使い、自分でデータ分析をしながら因果分析を考えることができる一冊。

Rによる実証分析 ―回帰分析から因果分析へ―

Rによる実証分析 ―回帰分析から因果分析へ―

 

少し前に出されたものだが、こちらの本もある。

統計的因果推論―回帰分析の新しい枠組み (シリーズ・予測と発見の科学)

統計的因果推論―回帰分析の新しい枠組み (シリーズ・予測と発見の科学)

 

 また洋書としては以下の本がある。

Mastering 'Metrics・・・著者の一人、Angristはその下に紹介しているMostly Harmless Econometricsの著者でもある。こちらは「ほとんど無害」な計量経済学ということで翻訳されている。Mastering 'Metricsについても翻訳が出ることを期待したい。

Mastering 'Metrics: The Path from Cause to Effect

Mastering 'Metrics: The Path from Cause to Effect

 
Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist's Companion

Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist's Companion

 

このように因果関係を重視した分析が注目される背景には、現代の時代状況が大きく関係していると言えるだろう。20世紀の後半から現代にかけては、ICTという技術が社会を大きく変容している時代であり、それは現状でも継続中だ。

社会的インパクトとは何か――社会変革のための投資・評価・事業戦略ガイド

社会的インパクトとは何か――社会変革のための投資・評価・事業戦略ガイド

 

そのような社会において、政策にしろ経営にしろ、的確に戦略を打っていかなければいけない。現実を正確に捉えた分析が必要とされる。そのような状況を考えれば、政府でEBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)の重要性が議論されるのも分かろう。

上に紹介している社会的インパクトとは何かは、直接因果分析について触れられているものではないが、現代社会における社会変革をどのように正確に計測するかという視点からまとめたものだ。これからの政策分析、戦略分析の方向を示すものとして読んでおいていい本だと思う。

・・・ということで、これが年末年始の読書候補ということになるけど、そういえば、今まで一度もこのブログに書いた本を想定期間中に読破したことがない・・・ということはまぎれもない事実だ。なぜそのような結果になったのか、その要因は全くもって不明である。やはり因果分析して見る必要があるというところか。