日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

いろはのり:身近にいる「鍵を探す男」

次のような寓話がある。

夜中に歩いていると、街灯の下で這いつくばっている男がいる。何をしているのかといぶかって聞いてみると、鍵をさがしているという。大変気の毒なので、一緒に探してみるが、一向に鍵は見つからない。そこで、念のためにどこで鍵を落としたのか聞いてみると、何とずっと向こうの暗がりで落としたというではないか。呆れ果てて、じゃあどうしてあっちで探さないのかと問い詰めると、男は、「だって、向こうは電気がついていませんから・・・」。

これは、現東大教授の神取先生の次の著作からの引用だ。

現代の経済理論

現代の経済理論

 

この本の第1章の冒頭部分で書かれているわけだが、神取先生は、それに続く文章で次のように書いている。

これは私が大学院生だったころ応用経済学で名高い某先生から聞いた寓話で、むろん理論経済学の役に立たない事を皮肉ったものである。

実はこれと似たようなことが、調査研究を仕事とする我々の世界でも見られる。

調査研究を実施するにあたって、要は、クライアントの抱える問題をいかに調査研究を通して解決できるかなのだが、その最初で躓くことがままある。その状況が上記の鍵を探す男に似ている。

具体的には、クライアントの問題意識が上記での「鍵」で、提案内容が「光のあたっているところ」という具合に読み替えると、クライアントの問題とは違うところばかりを提案して「提案が通らない」と悩んでいる研究員ということになる。

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この例え話は、自分たちの仕事上もある話で、鍵を落とした場所(クライアントの要望)は別にあるのに、街灯の下(自分の得意な分野、自分のおすすめのテーマ)ばかり探して、肝心の落とした場所(クライアントの要望)をまともに取り合わないというなんともやっかいな(クライアントにとっては迷惑な)状況だ。

実際、調査研究で自分の担当分野の依頼でも、自分のやりたいこと=クライアントの要望ではないことの方が多い。仕事を進める上では、クライアントの要望を聞きつつ、何を求められているのかを正確に把握できるかがポイントになるのだが、そこが結構難しい。それができないと自分の提案が、独りよがりな内容になってしまい、クライアントには響かないということになる。そして悪いことにそういう時は得てして、提案者である研究員は自分が独りよがりになってしまっていることに、実際、気づいていない。

こういう状況は、自分に自信を持っている研究員ほど陥りやすく、それだけ解決も厄介だ。その場その場では何とかなっても長期的にはお客さんは離れていく。少しでも早く自分が自分本位で、クライアントにとっては的外れな提案をしていることを気づいてほしいのだが、周りの声に素直に耳を傾けることもそういう人はできないので、何かのきっかけで気づいてもらうことを願うしかない。

悪いけど、そういう人とは付き合わない方がいい・・・というのが今のところの自分の回答。

なぜあなたの研究は進まないのか?

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