自分が普段住んでいる世界(ICTかつ調査研究の世界ね)ではいろいろと話題を提供してくれた本だ(すでに過去形w)。具体的には、機械との競争に引き続き、ザ・セカンド・マシン・エイジではザ・ファースト・エイジ・マシンに生き残った労働においてデジタルへの代替が進み、人の労働機会が奪われるという話題。もう一つはデジタルの時代になってGDP統計が役立たずの指標になっているというもの。大きくはこの二つか。
- 作者: エリック・ブリニョルフソン(Erik Brynjolfsson),アンドリュー・マカフィー(Andrew McAfee),村井章子
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2015/07/29
- メディア: 単行本
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前者は確かにそういう面もあるが、それについて悲観的になってはいけないというか、周りをよく観察せよという点が一つポイントだろう。代替は進むがかといってそれがすぐに多くの人の労働機会を奪うとか大きな影響をもたらすほど進むとも限らないし、逆に新たな雇用機会をもたらす面もあるということだろう。
この新たな雇用機会の「新たな」というところが問題だ。今までの延長線上ではない可能性が高い・・・これからの雇用機会はどこで生まれるのか慎重に見極める必要がある。そしてザ・セカンド・マシン・エイジにおける雇用機会を作り出すためにはザ・セカンド・マシンをいかに社会にうまく活用していくかが課題となる。そのためにはR&D活動などイノベーションをもたらす活動を活性化するためのあらゆる政策を再度点検すべきなのかもしれない*1。
もう一つのGDPに対するいわれようも少々違う。デジタル化の時代になり、ICTが社会経済の様々なところに実装されることにより、我々はさまざまな便益を得るようになっている。そこが具体的に例示されて語られている。要するにWell Beingの指標としてGDPは一面しか捉えていないということを言っているにすぎない。だからGDPはこれからの指標としてダメだということではなく、それだけではないということだ*2。
本書はいろいろな研究事例や実例が豊富に出てくる。これらを読んでいるだけでも現在がいかに変化の時代かということを実感させられる。これからの時代は、ザ・ファースト・マシーンの時代がそうであったように、ザ・セカンド・マシンの時代はザ・セカンド・マシンとの共存の中に新しい雇用機会が生まれ、付加価値が生み出されてくるというのが本書がとうとうと述べていることではないかと思う。
決して敵対するものではないし、そうしてもいけない。人間の知性をもってうまく使うものであるということだろう。ザ・ファースト・マシンの時代は、供給側の経済性、ザ・セカンド・マシンはそれを前提としてつつも、需要側の規模の経済、つまりはネットワーク効果がいろいろな側面で便益を提供することになる*3。それをいかに最大化するかが企業や個人のポイントになるのだろうし、そのような社会が事後的に望ましくない状況に陥った時、あるいはそうなることがわかった時、政府がどうすべきか・・・その課題が今後検討しなければならない。
一方で、現状でも心配すべきこともある。反社会的なザ・セカンド・マシンを誰かが作り出さないとも限らない、意図せざる負の側面が出てくることもあるだろう。そういう時にどう対処したらよいか、そういうところに備えるためにもセカンドマシンと向き合っていかないといけないし、うまく社会に応用していくことを前向きに考えないといけない。
本書は、こういう風にスケール壮大な内容なのだ。そして我々の身近な世界に住んでいる人は是非、第12章と第13章は読んで、吟味して欲しいと思う。
第13章の政策提言は一読の価値あり。十分に今までの経済学で考えられる経済政策が役に立つことを述べている。初等・中等教育の重要性、起業環境の整備、求人と求職のマッチング、科学者の支援、インフラの整備、課税、これらの政策をうまく実施することがポイントになろうと。何かあたらし特別なことを検討せよということではない。今も昔も必要なのは、現実世界を見る時の温かい心と冷静な頭なのだということだろう。
それから自分たちへの視点としては12章も大切だ。自己投資、つまり教育の重要性、読み・書き・そろばんは当たり前でそれに加えて、これからの時代は発想力、広い枠でのパターン認識、複雑なコミュニケーション能力が大切と説く*4。なぜそれが大切なのかはそれまでの章を読んでくれば自ずと明らかだ。
章立ては以下のとおり。
- 日本語版への序文に代えて:人間は馬と同じ運命をたどるのか?
- 第1章 人類の歴史の物語
- 第2章 機械とスキル
- 第3章 ムーアの法則とチェス盤の残り半分
- 第4章 デジタル化の大波
- 第5章 組み合わせ型イノベーション
- 第6章 人工知能とデジタル・ネットワーク
- 第7章 セカンド・マシン・エイジのゆたかさ
- 第8章 GDPの限界
- 第9章 セカンド・マシン・エイジの格差
- 第10章 最強の勝ち組はスーパースター
- 第11章 ゆたかさと格差は何をもたらすか
- 第12章 個人への提言
- 第13章 政策提言
- 第14章 長期的な提言
- 第15章 テクノロジーと未来
まだ読んでいないそこのあなた・・・将来に不安を持っているならばぜひ読むべき一冊ですぞ。その際、楽観的な気持ちで読むことが大切です。
*1:アベノミクスを考える時、三本の矢はマクロ政策として実施されたのだが、そのマクロ政策の効果を社会に行き渡らせるようにセミマクロ、ミクロの政策はどうであったのか?そこもしっかり考えられ、実施されていたのか?戦略は細部に宿るとすれば、そこに対する目配りは十分であったか?検証する必要はないだろうか。
*2:しかし、今の日本を見ると、衣食足りて礼節を知るの衣食の部分が危ういのではなかろうか。本書の中でも社会保障、ベーシックインカムのことなどが語られているが、日本社会に巣食う貧困という病の実態をまずは明らかにするべきだろう。そうすることで経済的に食べられなくなっている人が実は徐々に増えているということが出てくるのではないか。そこはザ・セカンド・マシンの時代が進む社会でどのように考えればいいのか。貧困とそれをもたらす原因を慎重に見極め、これからの時代に適切な政策がとられる必要があろう。
*3:直感的にネットワーク効果が最大化されるような経済システムがこれから成り立ってくることになる。それが社会的にどのような問題を、課題を引き起こすのか、その可能性があるのか、見極めるのがこれからの経済学を含む社会科学の一つの役割ではないか。ネットワーク効果が最大化されかつ社会的課題を克服するような社会システム、これを考えるのが社会科学における各種研究分野においてこれから問われてくるのかもしれない。
*4:ここは本当に考えて欲しいと思う。自分たちの得意としている仕事は将来ザ・セカンド・マシンとどのような関係になるのか。その際、発想力、パターン認識、コミュニケーション能力のどれか一つでいいから秀でていて欲しいものだと思う。