日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

石川智健「エウレカの確率 経済学捜査員 伏見真守」

久しぶりに面白いミステリーに出会えた。
エウレカの確率・・・って何?経済学捜査員!、扱っている内容が行動経済学に基づいて殺人事件を解決するという・・・経済学をちょっとかじっているものであれば、そして最近の先端分野の一つである行動経済学を使ってということであれば、読みたいと触手が動こうというもの。
一気に読んでしまった・・・期待通り面白かった。
登場人物は、主人公の経済学捜査員、その相棒(当然、半人前だ)、そして主人公の敵役とその相棒。その周りを固める味方である上司と存在自体に反感を持っている上司、そして事件を複雑にする様々な、そして意外な登場人物と事件の展開・・・って感じ。

エウレカの確率 経済学捜査員 伏見真守

エウレカの確率 経済学捜査員 伏見真守

物語の構成は以下の通り。

  • 第一章 経済学者とプロファイラー
  • 第二章 最大と最小
  • 第三章 双子の息子
  • 見つからないもの
  • 見つかるもの

物語は、3つの殺人事件、連続殺人事件が未解決になるかもしれないというところから始まる。いろいろ書きすぎるとネタバレになるので詳しくは読んでからのお楽しみというところであろうが、キーワードの一つは連続か、独立かというあたりか。行動経済学が基本にあることもあり、その点からも主人公の言動は面白い一方、経済学を知らない人には違和感があるかもしれない。
例えば、「合理性」・・・この用語が引っかかるかもしれない。小説の中では、「合理的な殺人」などの使い方がされている。普通の人は、殺人に合理的も何もないだろうと思うであろうが、そうではない。彼は言う「事件というものは必ず犯人が何らかの利益を得ています。金銭であったり、鬱屈した感情の発散で合ったりと、利益の形はさまざまですが。もちろん、殺人はリスクが限りなく高い方法です。しかし、犯人は殺人を犯すことで、リスクを上回る利益を得た、もしくは得ようとして凶行に及んだことは間違いありません。特に合理的な殺人では、その傾向が顕著になります。」という具合だ。経済学をかじったことがある人間には違和感はないと思うが、他の人はどうであろう。
そして行動経済学の知見を使って、主人公の経済学捜査員伏見君のいうセリフはいろいろ示唆に富んでいる。例えば、「『確証バイアス』、というものが行動経済学にはあります。これは、仮説に反する情報よりも、仮説に合致する情報を好むというものです。簡単に言えば、人間には自分に都合のいいことばかりに注目するということであり、つまりこの事件では、連続殺人ではない証拠が蔑ろにされている可能性があるのです。」とか・・・こういう経験・・・ないですか?世間受けのいい情報、クライアントが求めている、喜びそうな情報ばかり集めて「証拠」固めする・・・最近、そういうことをいろんなところで感じるような。
そして事件を解決したあとのセリフでも「麻耶さんは、刑事らしい刑事ではないかもしれません。でも、全員が似たり寄ったりの刑事になると、バイアスに捕らわれやすくなり、誤った判断をしてしまう可能性が高くなります。つまり、麻耶さんは必要な存在だと、僕個人は思いますよ。」・・・最近よく言われるダイバーシティが必要なのはつまりはこういうことなのかな・・・とか。
第二弾も出版されたようだし、しばらくはまたミステリーで楽しませてくれるのではないかと期待を大きくするのでした。