自分らのチームではICT経済について景気分析や潜在成長率、産業連関分析、競争政策、産業組織分析などを行っている。その中でもICT経済と国内景気との関連を分析している四半期報告「ICT経済分析」では、マクロの動向を押さえながら、ICT産業(というよりデジタル産業かと最近思ったりしている)が今後経済全体をけん引する成長セクターになりうるのか、という視点から日々研究している。
最近の動きでは、先日の報道発表でも述べたとおり、国内のICT経済は、経済政策による消費の下支えや輸出によって供給面のうち財の生産が持ち直して来ている。これは国内の他の製造部門に選好する動きとなっている。ところがサービスについては低迷しており、それがICT関連投資全体の回復につながらない原因ではないかと考えられる。
またこのようにサービス面の回復が思わしくないことは、ICT経済が近い将来本格的に成長セクターとなるため克服しなければいけない点であろう。そのためには企業経営においてICTサービスの利活用が進み、それが生産性の向上に結びつくことが認識されないと難しいのではないかという漠然とした思いが最近頭の中をぐるぐる回っていた(現状のICTサービスに関する投資は、不景気になると真っ先に削減対象になっているようだ)。そこがつながれば、景気の動向に左右されることなくICTサービスに対する投資も実施されるようになるだろう。
新しい経済の教科書 (日経BPムック) 日経BP出版センター 2010-03-24 by G-Tools |
そこに今回の記事だ(具体的には忘れてしまったので、後で加筆修正)。そこにはバブル後の不況は実は生産性の低迷が原因だということが書いてあった。そこで自分の頭の中にある90年代以降の景気停滞の仕組みのようなものをごく簡単に整理してみた。これはシロウト考えだから、間違いや勘違いもあることをご容赦願いたい。
90年代初頭のバブルの崩壊以降、日本経済に何が起こったか。
まず起こったことは不良債権の発生だ。それによって金融機関をはじめとするバブルに多く投資していた企業の財務が悪化した。財務の悪化は、予想以上に不良債権の処理を長引かせた。それはバランスシートの改善の遅延をもたらし、企業の設備投資を停滞させた。このように成長のエンジンといわれる投資が長期にわたり不良債権処理により停滞したことが景気回復の足かせとなり、ひいては潜在成長率の低下をもたらした。
だいたい以上のようなものだ。さて、上記のような認識だから、不良債権処理とバランスシートの健全化が景気回復には必要とされ、それが達成されれば、設備投資も改善し、景気回復と成長軌道への復帰が達成されると考えられていたと思う(あるいは自分ではそう考えていた)。
ところが失われた10年の原因は生産性の低迷によるものだという研究結果が出されたという。景気の停滞をもたらす要因として、?投資の歪みと?生産性の歪みの2つが考えられ、それをBusiness Cycle Accounting(BCA)という分析フレームで分析すると、?によって景気低迷が説明されると言うのだ。
生産性と言えば、ソローパラドックスなどともいわれたICTは大いに関係する。日本の生産性の歪みが失われた10年の原因とすれば、そこにはICTの利活用の遅れがあるのではないかと、ICTを産業分析や経済分析しているものならば誰でもが思わないだろうか。
ならばそれを検証するにはどうしたらいいだろうかと肝心なところはこれから考え始める。思いつきで言うと、生産性の歪みをICTの利活用が進まない程度を指標化した変数を作り、それを含んだモデルで要因分解することか?
まだ暗中模索なので、まずはBCAのフレームを理解することと、その分析結果が示す生産性の歪みをもたらした原因の一つとしてICTの利活用を考える場合、その検証方法はどうすればいいかというところを考えなければいけない。
本日はここまで。