今、研究所で自分の分析フレームをどうすべきか悩んでいる人がいたら、僕は迷わず、まずはミクロ経済学の初歩をマスターしなさいと言うだろう。
その理由は、ミクロ経済学が消費者行動、企業行動の各論から市場分析を通して経済行動、価格行動を通して社会を見る際の基本的視点を与えてくれるからだ。
また最近の経営学や心理学、社会学などとの学際領域においても、ミクロ経済学はその応用可能性が広がっているため、いろいろな研究テーマに応用可能性を持つと考える。それからプロジェクトで市場を分析する際、価格戦略や製品差別化戦略など、ミクロ経済学の基礎知識を有することが必須となるような分析が多いことも事実。
以上のような理由からまずはミクロ経済学の基礎を学び、そこからいろいろ応用を考えればよいのではないかと考えている。
ではミクロ経済学を学ぶ上で、数多ある教科書の中から何を選ぶかというとまずは以下の本からではどうだろう。
まず、ミクロ経済学に初めて挑戦するということであれば、6月に急逝された清野先生が書かれた下記のミクロ経済学入門がお勧め。この教科書はミクロ経済学を学習する上で最初の壁となる予算線や無差別曲線、効用曲線などを使わず、ミクロ経済学の基礎が分かるように説明してある。
当然ながら一度挑戦してみて挫折した人で、再度、ミクロ経済学をと思っている人にもお勧めだ。
ミクロ経済学入門 (シリーズ・新エコノミクス) 日本評論社 2006-04 by G-Tools |
さて、ミクロ経済学のフレームを上記の教科書でマスターしながら、では実際にどのように応用したらいいかを考える際に適していると思われるのが、下記の八田先生が書かれたミクロ経済学(1、2)だ。
ミクロ経済学の理論(=モデル)はあくまでも抽象された世界の話である。それを実際の社会経済現象にあてはめるには、理論と現実の間のギャップをどのように自分で考えるのかが一つのポイントになる。
特にわれわれの住んでいる現代社会はミクロ経済学が前提としている社会とは程遠い。当然、完全競争などはほとんど観察されず、分析の対象になるのは、市場や政府の失敗などが多くなる。この本は副題にある通り、その部分を中心的に扱ったものであり、ミクロ経済学を使って現実をどのように分析していけばいいのかを考える際の考え方を教えてくれる。
ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策 (プログレッシブ経済学シリーズ) 東洋経済新報社 2008-10 by G-Tools |
ミクロ経済学〈2〉効率化と格差是正 (プログレッシブ経済学シリーズ) 東洋経済新報社 2009-08 by G-Tools |
上記の八田ミクロ経済学2はまだ読んでいないが、アマゾンの説明文を引用させてもらうと「労働・土地・資本市場をくわしく分析し、それを土台に、格差是正政策と効率化政策との関連を明確にする。さらに、その視点から現在日本の経済政策を評価する」ということで、こちらも合わせて是非じっくり通読したいところ。
そのほかの教科書で注目されるところと言えば、以下の3冊であろうか。
まず入門書。クルーグマンの教科書はマクロ編もすでに翻訳書が出ているが、説明が懇切丁寧で分かりやすくかつおもしろい。ただ非常に大部であり、読むのも大変だし、持ち歩くのも大変だ。それから当然、米国経済学者の執筆なので米国経済や米国社会を前提として書かれている。
クルーグマンミクロ経済学 ポール・クルーグマン ロビン・ウェルス 大山 道広 東洋経済新報社 2007-09 by G-Tools |
それから最近のミクロ経済学はその理解にゲーム理論の知識が必要だ。そこでゲーム理論も是非初歩はマスターしておきたいところ。下記の教科書が最近のものとしてはお勧めだろう。
ゲーム理論・入門―人間社会の理解のために (有斐閣アルマ) 有斐閣 2008-08-23 by G-Tools |
初歩をマスターしたら次は中級書。ここでは下記の2冊をあげておきます。
ミクロ経済学 奥野 正寛 東京大学出版会 2008-04 by G-Tools |
ミクロ経済学 林 貴志 ミネルヴァ書房 2007-04 by G-Tools |
最近の市場原理主義などという言葉に惑わされないように、市場メカニズムの長所と短所をしっかり理解し、政府の政策、企業行動、社会の状況、諸外国の動向を観察し、未来に向けた自分の考えをしっかりと持つことが、今、私たちに求められていることだと思います。