我が身の回りのことから言えば、情報通信経済のウェイトが高まるにつれ、その動向の関心も高まってきているが、情報法通信経済をみる前にマクロ経済全体の動向を把握しておくことは重要だろう。
時期的にも各政党のマニュフェストについても、こういう時期だからなおさら、経済政策をどうするかという点で注目が集まっている。僕自身は衆議院議員の任期を越えた中長期の視点で成長の重要性を主張している自民党の政策は内容はともかくとして成長の重要性を主張している点では支持できる。任期以上の期間を政策の視点に据えるのはおかしいと言っている党もいたが、僕はそうは思わない。
日本の人口構造が長期的に減少トレンドにある今日、それを視野に入れて現状の政策を考えることは必須ではないだろうか。今後の成長をどう考えるのか・・・その上で短期の政策を考えることが大切だと思う。
さてそう考えると、現状について考えるときに、将来を見通しておくそれ以上に大切なのが、過去についても考えておくという点だ。まず何といっても現在のわれわれの生活や仕事に大きな影響を与えている経済上の出来事と言えば、80年代後半のバブルの発生とその崩壊そして失われた10年あるいは15年といわれる平成不況であろう。
経済学上では専門家が多くの分析を行っているが、それを素人が分かるように書いてある文献は少ない。そこでまず事実としてどうであったかを復習するために、下記の日経新聞社編の「検証バブル‐犯意なき過ち」を読むことにした。
検証バブル―犯意なき過ち 日本経済新聞社 日本経済新聞社 2000-09 by G-Tools |
構成は以下の通り。
- 1章 宮沢喜一の十五年
- 2章 国際協調の落とし穴
- 3章 幻想の債権大国
- 4章 加速する歯車
- 5章 日銀「鬼平」の誤算
- 6章 崩壊 株式市場
- 7章 寓話になった土地神話
- 8章 増殖 無責任構造
- 9章 六千八百五十億円の呪縛
- 10章 金融メルトダウン
- 11章 かすむ司令塔
- 12章 封殺された警鐘
- 13章 「歴史は繰り返す」と言う前に
- 「検証バブル」関連年表
以上の章が4部(膨張、崩壊、清算、黙示録)に分かれ収録されている。
本書を読んでいると、ステークホルダー(証券会社、銀行、大蔵省銀行局、証券局、内閣、政治家、投資家、米国証券会社および政府)の行動がインタビュー記事を交えまとめられており、バブルの発生と崩壊過程がよくわかり、また当時の気分がよく伝わってくる。
新株発行で調達した資金を再度金融商品に投資してきた企業投資家、担保をないがしろにした融資を繰り返した金融機関、国際経済への対応(ドル高の是正など)や土地神話に縛られ・・・否、土地神話にすがり政策の選択肢が狭められかつ対応が遅れた政府・大蔵省や政府に横やりを入れた企業経営者、さらにしたたかに利潤を追求した外国証券会社。
特に円高不況の克服後というある意味戦後日本がもっとも自信を持っていた時期におこった驕りとしてのバブルの形成。そしてその巨大化を許した秩序なき貸し出し競争、ノンバンクの存在、護送船団方式の弱みとなる天下りを中心とする金融機関のもたれあい、その後始末のまずさ・・・不良債権の発生時への対応と不良化した債権の処理に対しての処理のまずさ。
各ステークホルダーのインタビューにもあるとおり、、結局は組織の論理が優先され、適切な処理を施せず、危機を認識していた人がいるにも関わらず、その人たちの意見が通ることはなかった。これは昔からある危機管理における日本の弱みであろう。一国い全体より組織の存続を優先する・・・なぜそういう行動になるのか?
本書を読んでいると、やはり調達した資金を設備投資に向けず、金融投資に向けた当時の企業経営者の責任は大きいと思う。それを助長した金融機関の責任は当然としても、それ以上に自分自身の将来をおろそかにした企業経営者たち。結局、その後の日本経済を見ていると、その時に失った自信を取り戻すこともできず、将来のビジョンもなく、なすすべなく平成を20年も過ぎてしまったということではないのか。
バブルの生成と崩壊、その際の政策手段や企業行動の分析は今後も続けられるであろうが、問題は当事者であるわれわれがその教訓から何を学ぶかであり、歴史を繰り返さないようにするかということだ。
そういう点では、現状の日本経済はどういう状況なのかを考えるためにも、過去を反省するとともに中長期の視点で成長戦略を描くというのは大切なことではないかと思う。
次はもう少しマクロ経済学の視点から下記の書籍を読んでみようと思う。
「失われた10年」の真実―実体経済と金融システムの相克 東洋経済新報社 2009-02 by G-Tools |