企業小説は、「小説 日本興行銀行」以来だろうか。
「小説 日本興行銀行」は戦前、戦中、戦後の激動の日本経済を国策金融機関として支えた企業の物語であったが、今回の小説は、高度経済成長によって大きく成長した日本経済あるいはそれ以前からの日本経済を支えてきたその一流(と考えらてきた)企業が朽ち果てる様を描いたものだ。
内容にはすさまじいものがある。主人公の精神的なタフさも感心するが、それよりも腐った組織を再生することはいかに難しいかということがようく分かる。70年代から始まった粉飾決算・・・毎年積み重ねるうちに罪の意識はなくなり、自分がやっていること、指示していることが犯罪であるということも分からなくさせてしまう。会社組織のもっとも怖い一面が描かれているといっていいだろう。
責任に時効なし―小説 巨額粉飾 嶋田 賢三郎 アートデイズ 2008-10 by G-Tools |
内容は以下のとおり。
- 第一章 軋轢−メインバンク頭取からの一撃
- 第二章 疑心−封印されてきた真実
- 第三章 粉飾圧力−連結債務超過へ再転落?
- 第四章 恫喝−君らは会社を潰すつもりなのか!
- 第五章 邂逅−イパネマで芽生えた恋
- 第六章 衝撃−秘密裡に進んでいた事業売却
- 第七章 紛糾−ファンドから新たなスキーム
- 第八章 崩壊−失われたコーポレート・ガバナンス
- 第九章 秋霜烈日−始まった事情聴取
- 第十章 再開−強く結ばれた二人
- 第十一章 焦燥−消えた記憶と検事の攻勢
- 第十二章 会計士責任−見えてきた検察の意図
- 第十三章 強制捜査−ついに来た逮捕の日
- 第十四章 解放−不起訴処分、そして会計士の逮捕
- 終章 サウダージ−名門トウボウ崩落の彼方に
全部で500ページを超える大作だ。
社長や副社長との決算をめぐる対立、検事との対決、この2つのシーンは実際の経験に基づいて書かれているからだろう・・・経験者にしか分からない辛さが伝わってくる。こういう経験はできるなら一生したくはあるまい。著者のタフさは頭が下がる思いだ。
本書を読んでいると、最近の産地偽装事件あるいは障害者郵便悪用事件など後を絶たない企業犯罪・・・なぜ起こるのか改めて考えさせられる。会社組織や監査システムなどの限界、利益一辺倒の評価、人材配置の誤り、経営者や社員のもたれあい、自浄作用の欠如など、あとになって振り返れば、「なんであの時に・・・」となるのであろう。後悔先に立たずだ。
本書はいろいろ考えさせてくれる上に、小説としても面白く一気に読ませてくれる。久々のヒットだった。お薦めの一冊といえる。
蛇足だが、本書の章のタイトルの付け方は漢字2文字が多い。これを見て、日本テレビで放映されていた「あぶない刑事」を思い出したのは僕だけだろうか。まさかそれを意識して章建て考えたわけでもあるまいが・・・笑