江戸時代以前の歴史小説を読むのは、前回同著者の信長の棺を読んで以来だ。
著者は歴史ミステリーと自分の小説のスタイルを位置づけ、歴史の中の「もしも」をうまく史実の中に溶け込ませて新しい物語を作り出している。
今回の秀吉の枷も同じだ・・・というより、確か信長の棺のあとがきに長すぎたので短くして一冊にまとめたと書いてあったので、こちらはその時出版できなかった部分かと勝手に想像をふくらませて読み進んだ。
上巻は秀吉が本能寺の変を利用し信長を陥れ、天下取りへ本格的に動き出すまでを描いている。結局、秀吉はこの主君殺しを生涯背負い続け、それによって最後は苦しみのたうちまわって死んでいくことになるのだが、上巻はそれを描くための下準備といったところ。
ある意味、信長の棺の内容を秀吉の立場で書きなおした著作といえるかもしれない。
秀吉の枷 (上) 加藤 廣 日本経済新聞社 2006-04-18 by G-Tools |
上巻の目次は以下のとおり。
下巻は、上巻を受け、天下を取った秀吉の晩年が描かれている。世継ぎのない秀吉がそのことでいかに悩んだか、そして結果的に主君であった織田家の血筋である淀の方に翻弄され、自ら一族を滅ぼし、結果的に豊臣家は秀吉、秀頼の代で滅びることになる。
秀吉の枷 (下) 加藤 廣 日本経済新聞社 2006-04-18 by G-Tools |
下巻の目次は以下の通り。
- 第九章 心の闇
- 第十章 九州遠征
- 第十一章 淀の方
- 第十二章 家康追放作戦
- 第十三章 秀次殺し
- 第十四章 前野家千本屋敷
- 終章 秀吉・その死
本書の内容は、久しぶりの歴史小説ということもあり、また歴史ミステリーとしてこれまでの知られた秀吉の天下取りとは違った面を描いており面白い・・・が、少々ストーリー展開が・・・何といえばいいのか、平板で冗長な感じを受けた。長さ的には信長の棺と同じぐらいにまとめると、もっと切れのある内容になったのではなかろうか。また同じことかもしれないが、もう少し文章に歴史小説としての重みがあってもいいのではないかとも感じた。