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Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

斉藤誠:成長信仰の桎梏−消費重視のマクロ経済学−

斉藤氏の書籍はこれが初めてだ。

マクロ経済議論を最近はすることが多くなり、そのため自分の頭をリフレッシュするためにいろいろ書籍を物色しているときに出会った。しかしいつもの例に漏れず本書も長らく積読でいあった。

実は前に読んだ「花見酒の経済」を読んだとき、著者である笠さんの成長に対する大いなる懐疑を抱きながら書かれた文章を読んで、成長とは何だろうと考えていたところに、本棚の片隅にあった本書が目に入った。

購入したときは、その書名に惹かれて買ったものの、「成長信仰」が桎梏になるとは、「消費重視」とはどういうことなのか・・・なぜこの書籍が書かれるにいたったかなど実際は全然考えておらず長らくほおっておいた。

それが俄然興味を持たせる存在になった・・・だからといって積読が重要だということにはならない。

4326550546 成長信仰の桎梏 消費重視のマクロ経済学
齊藤 誠
勁草書房  2006-12-08


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さて、本書は以下の構成になっている。

  • 第一章 問題の所在−要旨に代えて
  • 第二章 GDPは政策目標なのであろうか
  • 第三章 物価と金利の物語
  • 第四章 伝統的な政策発想のどこが問題なのか
  • 第五章 金融システムとマクロ経済政策−間接金融と直接金融の中間領域
  • 第六章 国際環境とマクロ経済政策−円建て国際金融市場の可能性
  • 第七章 経済格差とマクロ経済政策−資産所得税・資産税の効率性と公平性
  • マクロ経済学の考え方・使い方−個人の豊かさのために、優れたプロジェクトのために

前書きに「第一章は最後に読んで欲しい」と書いてあるので、そのとおりにして第二章から読み始めたが、GDPを政策目標とすることがどういうことなのかという点から掘り起こし、真に目標とすべきはその内訳である消費と投資(つまりは将来の消費)だということが、理論的に指摘してある。ここを読むことで書名がなぜ「消費重視」なのかが理解される。

そして単にGDPを政策目標にするのではなく、消費を政策目標とすることの必要性が淡々と力強く述べられる。語り口は丁寧で落ち着いて読める・・・この感覚を文章にするのが難しいけど、久々にすーっと読むことに集中させてくれる筆致だ。

また注をしっかりつけていてくれているのもうれしい。より深く理論や実証研究の結果を吟味したい場合はその注を頼りに文献を自分で入手できるであろう。読者を大切にしてくれていると思う。

日頃、ビジネス書やネットでどぎつい表現の文章や記事を読まされ、辟易している人には落ち着いて読める一冊といえると思う。

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