久しぶりに読んだよ・・・遼太郎。
文体は一人語りを起こしたような口語体で書かれている(もともとTV番組だったんだから当然といえば当然か)。
ペリー来航から日露戦争までの日本という国についてその成立から成長を可能にした背景まで、司馬遼太郎の歴史観が示されている。よく言われる司馬史観の総まとめになる本だろう。
本書を読むと、「明治」という国家を可能にしたのは徳川幕藩体制の260余年があったからであるということがいろいろな幕末維新の人物に絡めて語られている。
「明治」という国家 司馬 遼太郎 日本放送出版協会 1989-09 by G-Tools |
目次は以下のとおり。
- ブロードウェイの行進
- 徳川国家からの遺産
- 江戸日本の無形遺産”多様性”
- ”青写真”なしの新国家
- 廃藩置県―第二の革命
- ”文明”の誕生
- 「自助論」の世界
- 東郷の学んだカレッジ―テムズ河畔にて
- 勝海舟とカッテンディーケ―”国民”の成立とオランダ
- サムライの終焉あるいは武士の反乱
- 「自由と憲法」をめぐる話―ネーションからステートへ
- おわりに”モンゴロイド家の人々”など
戦後日本の高度経済成長は「奇跡」といわれるが、明治維新から日露戦争までの「日本」という国家の形成事業はそれ以上の奇跡だったのではないか・・・と読み終わった後の素直な感想。
武士階級が起こした革命(明治維新)は、結果として自らの職業を否定すること(廃藩置県)になってしまうという歴史の皮肉。
近代国家の形成を目指し制定された明治憲法とそこにあった限界・・・そしてその限界を補ったのが江戸という時代に培われた「公」に対する考え方。それが何とかもったのが日露戦争までだった。
どの章を読んでも、当時の個性的な人々がいかに必死に国家建設に励んだかがひしひし伝わってくる。そしてその一方であらわになる当時の限界・・・藩閥政治、自由民権運動の現実などなど。
吉田松陰、高杉晋作、坂本竜馬、小栗忠順、大久保利通、西郷隆盛、木村摂津守、勝海舟、福沢諭吉、伊藤博文、正岡子規、秋山兄弟、東郷平八郎らは主人公あるいはそれに順ずる扱いで司馬の小説に出てきている。その他にもいろいろな人物が登場するが、その中で新たに興味を持ったのは福沢諭吉だ。そのうち、福沢に関する本を読んでみようと思う。
「明治」という国家は決して偶然でできたものではないが、いくつもの偶然が重なり合ったからこそ、近代国家として多くの欠点を持ちながらも、その形成が可能であったということだろうか。
いや、面白かった一冊でした。