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相田 洋・大墻 敦著『新・電子立国[第3巻]世界を変えた実用ソフト』:表計算、ワープロはその黎明期からお世話になったデジタル時代の神器

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新・電子立国、やっと第3巻を読了した。この古い本を今なぜ読んでいるのか、そもそもの問題意識はこちら。

mnoguti.hatenablog.com

第1巻についての感想はこちら。

mnoguti.hatenablog.com

第2巻はこちら。

mnoguti.hatenablog.com

第1巻がパソコン産業の勃興、第2巻が民生用機器へのマイコンの採用、コンピュータ化の話だった。今回読了した第3巻は、パソコンを普及させたアプリケーション・ソフトウェアの話だ。実用ソフト(ここでは表計算ワープロ)がいかに普及していったかが描かれる。

内容は、大きく3つに分かれる。最初が米国での表計算ソフトを中心にコンピュータが普及する上でアプリケーションソフトが果たした役割を追っていく。そこではビジカルク、ロータス123など懐かしい表計算ソフトがいかに激しい競争を繰り広げたかが描かれる。後半では、日本国内の例として、日本語変換の実現、その先にあるワープロソフトの開発が取り上げられる。ATOK開発物語といった感じだが、日本でパソコンが普及するために日本語変換機能がいかに重要だったかが分かる。米国では表計算、日本では日本語変換機能と潜在需要を顕在化させるためのポイントはTPOによって変わる。最後にパチンコ産業における表計算ソフトとの関係が説明される。パチンコ産業は第4巻に入れるべきところ紙幅の都合で第3巻になっているので異色の内容だ。

以上、第3巻は現在のホワイトカラーが仕事をする上で必須の道具、表計算ワープロの開発、普及物語だ。現在ではそこにプレゼンソフト(例えば、パワーポイント)が加わる。

目次は以下の通り。

  • 第1章 晴れたり曇ったりの表計算ソフト開発
  • 実用ソフトがハードウェアの売れ行きを左右する
  • 表計算ソフトとは何か
  • 神経質な”ソフト成り金の青年”
  • 表計算のアイディアは、授業中の白日夢から
  • 深まるばかりの、黄色い紙の謎
  • 森羅万象を「状態の変化」としてとらえる
  • 先輩から勧められた開発方針
  • 真夜中の屋根裏部屋での表計算ソフト開発
  • 宿題の論文は「ビジカルク」で「最優秀」
  • 発売と同時に、ものすごい売れ行き
  • 表計算ソフトが急速に普及した背景
  • 表計算ソフトがパソコンの売れ行きを左右した
  • ソフトをつくり変える必要性に切迫感が欠けていた
  • 「版元」との熾烈な訴訟沙汰がすべてを失わせた
  • ディファクト・スタンダードを予測する至難の業
  • 善かれ悪しかれ開発ソフトは今も生きている
  • 第2章 渡り鳥暮らしで才能を発揮した実用ソフトの天才
  • オープン・アーキテクチャーの先例を熟知していた天才たち
  • 天才プログラマーが描く近未来の夢
  • ハンガリーの夜を揺るがす”孤独なコンピューター”
  • アメリカが買いに来たソ連製コンピューター用ソフトウェア
  • デンマークからアメリカへ渡った”驚くべき秀才”
  • バークレーからパロアルトへ、そして・・・
  • ビル・ゲイツの申入れを受けてマイクロソフト社へ
  • GUIを取り入れたアプリケーションの開発
  • 第三の表計算ソフト登場に頓挫したビル・ゲイツの思惑
  • ビル・ゲイツにして、考えつかなかったのか? 
  • 第3章 市場を制覇した「第三の」表計算ソフト
  • 無視されていたライバル会社のソフトウェア
  • 自己開発の表計算ソフトを自由に使う権利
  • 生き方も考え方も変幻自在の辣腕企業家
  • 自家用ジェット機を愛用し、アロハシャツを蒐集するインタビュー嫌い
  • 目標は、「ビジカルク」を超える表計算ソフトウェア
  • 「アップルⅡ」は趣味人間のオモチャだった?
  • 低レベルのプログラミング言語を使って難行苦行した理由
  • IBMの拒絶が結果的に独立を守ってくれた
  • 興奮状態をもたらした見本市での大成功
  • 偶然のなせるワザと意図的配慮の結果
  • 燎原の火のごとき普及を実現させたのは三〇〇万ドルの宣伝費
  • ”アプロケーションの雄”と称される会社も居心地は良くなかた
  • 第4章 日本語ワープロソフトの最大手企業は、「婦」唱「夫」随で生まれた
  • 文字を表す「0」と「1」のディジタル信号
  • 人間の意図どおりに文章を組み立ててくれる”道具”
  • 徳島市郊外の住宅地ある日本語ワープロの最大手企業
  • アマチュア無線クラブで出会った女子学生
  • 停電しているときに、どうやってガスタービンを始動させるか
  • 両親が承服しても、祖母は強硬に「反対ッ」
  • 専業主婦からシステムエンジニアへの変身
  • 祖母の誘いに、まずは孫のご主人が応じた
  • 小さな部屋での大きな夢の旗揚げ
  • 帳票類を見たこともなくてオフコンを売り歩いた
  • 専務の勘違いでもらえた最初の注文
  • 二号機の受注は、姑さんの俳句がきっかけ
  • 社長は営業、夫人はプログラム書きのオフィスは十四坪
  • 漢字を表す「JISコード」は十六進法の”数字と英字記号”
  • 苦肉の策も、パソコンの登場で不要に
  • 英語が全部、日本語になるのは「おもしろいな」
  • 「OSに漢字変換機能を付加」で東京の会社から受注
  • 少年のようにパソコンに熱中した”助手”役の社長
  • 第5章 渾身と熱涙のワープロソフト開発
  • 開発目標は”パソコン用の日本語変換ソフトウェア”
  • ”コンピューター熱”にとりつかれた二十歳の青年
  • 単漢字変換から単語レベルの変換への進展
  • 「酪農システム」が「ヒカリ」を東京に呼び寄せた
  • ビジネスショーの楽屋裏から新発売の機種に搭載へ
  • 「この世に全然ないところ」からのスタート
  • 阿波踊りは、目で見ても見えず、耳で聞いても聞こえず・・・
  • ポロポロ泣いて乾杯した納品の夜
  • ”複合連文節の変換”を目指す
  • 製品開発に役立つ構文分析と、学者の研究とはまったく違う
  • 「太郎よ、日本一になれ」という気持ちを込めて
  • フロント・エンド・プロセッサーは、ワープロ開発の革命
  • 期待を一身に担った息子の”裏切り”
  • 「こりゃ、出来した」が「なんやら妙なところへ」に豹変
  • 人生のホームランを打って「やっぱりええ息子じゃなあ」
  • 「私たちの子どもは、会社と社員と製品」
  • 市場の覇権を賭けた激しい競争
  • 第6章 パチンコホールに生きる表計算の思想
  • パチンコ台の「偏差値」をはじき出すコンピューター
  • 「大当たり」の確率はプログラムでコントロール
  • ”故障”したように玉が出るパチンコ機
  • 不渡手形の束からの再出発
  • 名古屋生まれの「パチンコ産業の父」
  • 表計算ソフトと「正村大福帳」が融合

話は表計算から始まる。当時、大型コンピュータ上で実現されていた機能をPCで動くようにしてしまった。学生の着想を実現するまでの紆余曲折が描かれる。そこでは人間関係の大切さ、協働してくれる仲間、その周りでアドバイス等してくれる関係者の存在が浮かび上がる。

スタートアップの成功の多くは、2人の役割分担からなっている・・・営業(マーケティング)と開発だ。これは多くのスタートアップで当てはまる。Appleの2人のスティーブ、マイクロソフトゲイツとアレン、ビジカルクのブルックリンとフランクフストン、ロータスのケイパーとサックス、ジャストシステムの浮川夫妻となる。

アプリケーションソフトをヒット商品にするためには仲間の他に理解者が必要だった。相談相手も大切な仲間だ。そしてそれは出資者につながる。後発のマイクロソフトロータスの成功はタイミングが大切だったことが分かる。ビジカルクの普及での認知向上、IBM PCの発売での巨大市場の出現など。

本書を読んで分かるのは、ハードとソフトの関係で独占する(囲い込む)ことの弊害の大きさだ。オープンであること、自由であることの重要性・・・競争というより、いろいろな人が自分の考えを実現するために自由に試行錯誤できる環境の大切さが描かれているように読める。何か新しいものが生み出されるとき、どのような形であれそこに参加できるメンバーを限定することは開発にとっては少なくともプラスには働かない。

The story of the spreadsheet and word processor that transformed the way white-collar workers did their jobs

ホワイトカラーの仕事の仕方を一変させた表計算ワープロの物語

ジャストシステムATOKの開発は、顧客の要望から日本語変換の潜在的な需要を感じ取り、そこを掘り起こすための努力がいかに大変であったかが描かれている。小さいながらも会社として目標に向かってキーパーソンを中心に一丸となった働きが可能にした成功だった。プログラミングの失敗から経営の失敗まで大小さまざまな失敗も多々経験しているがそれでも前に進んだことが成功をもたらした。諦めちゃあいけない。失敗を振り返り、改善し、前に進むことで成功に近づく・・・このプロセスが大切なんだと改めて気づかせてくれる。そしてこのプロセスを回すためには目標が大切だということにも気づく*1

当時、日本語変換システムを構築するのに、アカデミアでの日本語処理の研究も当然参考にしたが、多くは研究のための研究であって商品化には役立たなかったという。現在はこの点についてはだいぶ軌道修正が行われて産学連携も多々行われるようになってきているように思うが現状で十分と言えるであろうか。

実はこの巻は3回読んでいる。読み終えてからブログの記事をすぐに書かなかったために内容を忘れてしまい読み直しになり、それを2度も繰り返したのだった。

3回読んで一番頭に残るのは、ここでは実用ソフトの話だったが、ビジネスの成功は、誰にでも可能性はあるが、それを実現するには仲間と人間関係と不断の努力次第ということだ。

続いて第4巻。

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*1:こうやって書くのは簡単だが、一組織の人間としてこれを貫くのはかなり大変だと思う。上はすぐに結果を求めるし、周りからはネガティブなことを言われがちだし、他の仕事で時間はとられるしでやめる理由はいくらでもあるから。だから好きなことじゃないとできないのだな。

ウォルター・アイザックソン著『イーロン・マスク(上)』:奇跡は起こるべくして起こる

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購入したのは出版と同時の昨年の8月、それから読み始め途中中断があり、最初から読み直し、やっと読み終わった。上巻だけで450ページ以上ある。それほど濃い人生を送っているということだろうが、そこここで唸りながら読ませてもらった。

An unusual and unpredictable human being ... Elon Musk.

普通じゃない、突拍子もない人間・・・イーロン・マスク

巷の評では、Apple創業者のステーブ・ジョブズと比較されることが多い。自分もジョブズの伝記を読んでいたので、気づくとそれを思い出しながら、比較しながら読み進めていた。マスクとジョブズ、似ている点とそもそもが違う点とある。

似ている点としては、考えに考え抜いて自分の考えを押し通すところや無理なことを平気でいうところ、そして部下に対する評価がはっきりしているところだ。違う点は、ビジネスを考えるそもそもの視点だ。ジョブズはあくまでもPCがその出発点。技術(PC)と芸術(人間)の交点で新しいビジネスを考えていた。マスクは、その出発点が環境問題や人類の将来という社会的課題になっている。電気自動車、ロケットのどちらもそこから出ている。その派生がスターリンクやボーリングになる。

さらにマスクの特徴として新しい分野に取り組む時は、自分自身で基礎から応用まで全て理解するところだろう。第36章に「マスクがジョブズと違うのは、製品のデザインに加え、それを支える科学や工学、生産にまで強迫的な接し方をする点だ」と書いてある通りだ。その上で、リスクやコストを最小化し、残されたリスクを自分たちで負えるレベルにあるかをシビアに判断する。その際、既存の業界慣習や規制がビジネスを妨げるものと判断されるならば躊躇なく除去しようとする。リスクは乗り越えるものとして位置付けられる。決して一か八かの世界ではないのがマスクのビジネスだ。だから奇跡は起こるべくして起こる。まぐれではないということになる。

マスクは目的に向かってまっすぐシンプルにビジネスを考える。その際、ビジネスの障壁になる世の中の規範や規制などは考慮しない。その結果、自動車産業や宇宙産業のリストラ、リエンジニアリングになる。ジョブズの立ち位置は、PCの黎明期からその先頭を走ってきたことから、新しいものを作るので業界そのものや業界秩序を自分で構築するところが事業成功のポイントになった。iTunesの時が典型的だ。

上巻だけで51章に上る構成だ。これをビジネスを中心に分けてみたのが以下の並べ替えだ。以下、順番に見ていく(結果的に意味ある分類にはならなかった・・・ようだ)。

  • 南アフリカ時代
  • マスクの人となり
  • イノベーターへの道
  • イノベーター①:火星(宇宙事業)への挑戦
  • イノベーター②:環境問題(電気自動車)への取組み

マスクのビジネスのやり方の根っこにあるのは南アフリカでの経験が大きく影響していると読める。ベルドスクールや学校での経験、父親との関係など様々な苦しさが彼の根っこにはある。行動しないとやられる、自分が動かないと何も実現できない、実現するためには耐えなければいけない・・・そんな幼少期から思春期を過ごしたのではなかろうか。学校の成績はそれほどでもなかったが、SF好きとコンピュータへの関心は頭抜けていた。それが南アフリカ時代のマスクだ。

その行動力は、南アフリカを脱出した後も存分に発揮される。カナダ、米国での大学時代のいろいろな体験、自分の結婚、相変わらずの父親との関係など人間関係は決してうまく行っていない。南アフリカ時代の経験も含めて人間関係がうまく行っていなかったことがマスクのビジネスに対する姿勢を形作っていったのではなかろうか。

  • マスクの人となり
  • 第6章 カナダ(1989年)
  • 第7章 クィーンズ大学 オンタリオ州キングストン(1990〜1991年)
  • 第8章 ペンシルバニア大学 フィラデルフィア(1992〜1994年)
  • 第11章 ジャスティン パロアルト(1990年代)
  • 第16章 父と息子 ロサンゼルス(2002年)
  • 第26章 離婚(2008年)
  • 第27章 タルラ(2008年)
  • 第35章 タルラと結婚(2010年9月)
  • 第39章 タルラのジェットコースター(2012〜2016年)
  • 第44章 苦難の人間関係(2016〜2017年)
  • 第49章 グライムス(2018年)

マスクがビジネスの世界で飛躍する一つのきっかけがこの時期だ。インターネットが商用化され誰でもが使えるようになった時、マスクもそこに可能性を見た1人だった。それが1990年代後半の出来事だ。ここで本格的にビジネスに取り組み始める。

  • イノベーターへの道
  • 第9章 西へ シリコンバレー(1994〜1995年)
  • 第10章 Zips2 パロアルト(1995〜1999年)
  • 第12章 Xドットコム パロアルト(1999〜2000年)
  • 第13章 クーデター ペイパル*1(2000年9月)

宇宙事業では、それまでは「ロケットやエンジン、衛星の開発といったプロジェクトは政府が管理し、何をどうするか、細かの仕様を定める」*2ため、コスト削減やイノベーションを妨げてしまうとし、「固定価格契約(実費精算契約)」から「自己の資本でプロジェクトを進め、一定の成果を挙げたとき初めて支払いを受ける」新しい入札方式を示し、新しい方式で民間企業が請け負うことで宇宙事業を大きく転換させてしまう*3。このような形でやれば自然とコスト削減とイノベーションは起こることを実践する。なぜそうしたかといえば、そうしないと火星へ人を送り込むロケット開発が可能にならないからだ。リスクをとって事業を進める。失敗してもタダでは起きない。リスクを計算し必ず改善して前に進む。その繰り返しの先に成功がある。

  • イノベーター①:火星(宇宙事業)への挑戦
  • 第14章 火星 スペースX(2001年)
  • 第15章 ロケット開発に乗り出す スペースX(2002年)
  • 第17章 回転を上げる スペースX(2002年)
  • 第18章 ロケット建造のマスク流ルール スペースX(2002〜2003年)
  • 第19章 マスク、ワシントンへ行く スペースX
  • 第22章 クワジュ スペースX(2005〜2006年)
  • 第23章 ツーストライク クワジュ(2006〜2007年)
  • 第28章 スリーストライク クワジュ(2008年8月3日)
  • 第29章 崖っぷち テスラ、スペースX(2008年)
  • 第30章 4回目の打ち上げ クワジュ(2008年8〜9月)
  • 第33章 民間による宇宙開発 スペースX(2009〜2010年)
  • 第34章 ファルコン9、リフトオフ ケープカナベラル(2010年)
  • 第37章 マスクとベゾス スペースX(2013〜2014年)
  • 第38章 ファルコン、鷹匠に従う スペースX(2014〜2015年)

そしてテスラ、電気自動車への取り組みだ。ここでもコストとリスクの計算と問題点の把握、それに対する解決策を考える姿勢は徹底している。ジョブズは、製造の上位にデザイン部門を置くことによりイノベーションを可能にしたが、それはマスクも似ている。マスクの場合は生産に関するアルゴリズムと呼ばれる5つの戒律だ*4

  • 第1戒:要件はすべて疑え。
  • 第2戒:部品や工程はできる限り減らせ。
  • 第3戒:シンプルに最適にしろ。
  • 第4戒:サイクルタイムを短くしろ。
  • 第5戒:自動化しろ。

このアルゴリズムを前提にすると、技術系管理職は実戦経験を積まなければならないことになる。ソフトウエアのマネージャーはコーディングをしなければならないし、ソーラールーフのマネージャーは自ら屋根に上って設置作業をする等々だ。実際を知ることにより自らの仕事をより高み(ユーザの立場)に据えるように仕組まれている。

  • イノベーター②:環境問題(電気自動車)への取組み
  • 第20章 創業者そろい踏み テスラ(2003〜2004年)
  • 第21章 ロードスター テスラ(2004〜2006年)
  • 第24章 SWATチーム テスラ(2006〜2008年)
  • 第25章 ハンドルを握る テスラ(2007〜2008年)
  • 第31章 テスラを救う(2008年12月)
  • 第32章 モデルS テスラ(2009年)
  • 第36章 生産 テスラ(2010〜2013年)
  • 第40章 人工知能 Open AI(2012〜2015年)
  • 第41章 オートパイロットの導入 テスラ(2014〜2016年)
  • 第42章 ソーラー テスラエナジー(2004〜2016年)
  • 第43章 ザ・ボーリング・カンパニー(2016年)
  • 第45章 闇に沈む(2017年)
  • 第46章 フリーモント工場の地獄 テスラ(2018年)
  • 第47章 オープンループ警報(2018年)
  • 第48章 落下(2018年)
  • 第50章 上海 テスラ(2015〜2019年)
  • 第51章 サイバートラック テスラ(2018〜2019年)

上巻を読むと、マスクはアスペルガー症候群である等々でいろいろ言われるし、実際、問題も起こしているかもしれないが、彼のような才能と思いと意志を持つものでないとこれほどイノベーションを起こすことはできないだろうことが分かる。現実歪曲フィールドもイノベーションを起こすためには必要な技なのだ。そういう彼と一緒に働きたいかと問われれば、正気の世界では尻込みするだろうが、現実歪曲フィールドに引き込まれれば率先して参加するかもしれない。

マスクや彼の仲間の取り組みに比べて日本のバブル期以降(今も続いている)の失われた年月の企業のリスクへの取り組みはどんなものであったろうか。そもそもリスクを徹底的に検討し、最小化してその上でリスクを取るようなチャレンジをした企業がどれだけあっただろうか。リスクを博打と同等とみなして、リスクを最小化する努力をしてこなかったのではなかったか。だから企業から新しいイノベーションも生まれない、社会改革もできないという国になったのではないか・・・などということを考えてしまうのだった。

下巻では、引き続き、テスラ、スペースXでの取り組みが明らかにされ、さらにスターリンクや旧twitterの話が出てくる。そこでは上巻とは違うマスク、いろいろな経験を経て変化したマスクが何かしら描かれているのかどうかが気になるところ。

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*1:

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*2:本書P183「固定価格契約」からの抜粋。

*3:シンクタンクに勤務していた時は、固定価格契約にしてもらうことを切望していたことを思い出す。実は考えてみると、固定価格契約というよりは成果に見合った代金を支払ってもらえればそれでよかったのかもしれない。そうすれば質を向上させるインセンティブにもなり実際アウトプットは向上したであろう。しかしそういうプロジェクトは皆無だったのが現実。クライアントにそこを評価できる人材がいなかったからだ。多くは最初に予算ありきで予算以上の仕様(人日)が定められていた。

*4:本書P410「アルゴリズム」を参照。

サイバーセキュリティの経済学:もう少し調べてみようと思う。まずはYouTubeにあるサイバーセキュリティ関連の動画のチェックから

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晦日の記事でサイバーセキュリティの経済学という研究分野についてざっくり書いた。そこにはサイバーセキュリティを守ることは技術で解決できない問題で、使う側、人の問題だということになっていることが分かった。

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そしてGoogleで検索してみると、サイバーセキュリティに関する研究論文が日本語ではほとんどないようだということ、英語ではそれなりにありそうだという印象だ。日本語のサイトをみると、行動経済学の研究対象、だから経済学や心理学の研究対象になるというようなことが書かれていた印象。

The security issue is between the keyboard and the chair.

セキュリティの問題は、キーボードと椅子の間にある

そこでもう少しサイバーセキュリティの経済学についてもう少し調べてみることにした。まずはYouTubeに以下の動画があったのでここから勉強してみることにする。


www.youtube.com

下に紹介してあるが、情報セキュリティの敗北史を読むのがいいみたいだ*1。さて、この動画では、まず歴史から入る。サイバーセキュリティはざっくりインターネット以降本格化したと考えていいようだ(コンピュータの出現以来と考えるともっと遡る)。この本を紹介しつつ、サイバーセキュリティを守ることの難しさ、不可能さを解説している。

最初に本格的に調査し分析したのは、米国防総省から委託を受けたWareさんが出したレポート・・・Security Controls for Computer Systems: Report of Defense Science Board Task Force on Computer Security。それとPROSの事例の紹介。コンピュータシステムの脆弱性をなくすのは原理的に無理なのではなく、膨大すぎて難しいという話。結論は、(危険である可能性は証明されなかったので)安全である可能性があるというレベル。防御側は攻撃側にもなる。

なぜか鬼滅の刃を例え話で多用しているので、鬼滅の刃の読者は分かりやすいかもしれない(1回目だけ)。


www.youtube.com

MicroSoftなどはOSの穴など技術的な解決を目指し、ある程度は(アルゴリズム等で)解決したが、それでも問題は残った。それが第2回のテーマである「セキュリティは人間的課題」であるということを指摘する。例えば、悪者(迷惑メール)を弾くのだが、悪者と思ってそうでない情報(大切なメール)を弾いてしまう。逆に問題のある情報・サイトでも気づかずに、あるいは無視をして、あるいは感覚が麻痺して使い続けるという人間の課題。安易な経験が危機感を麻痺させる。自分の都合のいいように考えてしまう。イタチごっこに陥る。

セキュリティの解決はコンピュータ科学では無理。人間の行動を研究する必要がある。それが(行動)経済学であるという整理。2000年ごろから経済学、心理学が応用され始める。セキュリティ経済学という視点。


www.youtube.com

PEBCAKの問題・・・Problem Exist Between Chair And Keyboard・・・つまり人間が問題。 人間を対象にして分析する必要がある・・・2000年ごろ誕生した。モバイルやインターネットがかなり普及した2000年ごろにいろいろなことが起こっている。セキュリティ経済学はそのうちの一つ。会議場からレストランへの移動のバスの中の議論から始まった*2。「なぜ人はウィルスソフトを入れないか?」ということ。キーワードはコモンズ(共有地)の悲劇・・・これが人がウィルスソフトを入れない理由。

インターネットがコモンズ。ウィルスに感染した時、自分のパソコンの問題(データの消失等)ではなく、他者へ迷惑メールを出す、DOS攻撃の発信地になる事例が出てくるようになった。ウィルスに感染した時、被害を受けるのは自分以外・・・インターネットの品質が落ちる。十分合理的なプレイヤーが十分合理的な選択をした結果、安全じゃないことを選択している。共有地の悲劇の問題であることに気づく。

セキュリティ研究は、外部不経済の内部化の問題・・・人間の意思決定、インセンティブ構造を理解する必要がある。これまでの知見を活かせばいい。合理的人間が選択する不合理な結果・・・行動経済学のこれまでの知見がいろいろ使えるようだ(リスク・ホメオタシスとか)。

セキュリティ技術はアップデートされても、ユーザはアップデートされない・・・なるほど。

セキュリティの経済学については入門書がまだないと指摘されている。そういえば、学会でもあまり盛り上がってない?どうなんだろうか。

次は情報セキュリティの敗北史を読んでみるか・・・。

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*1:noteに白揚社が記事を上げている。プロローグが全文掲載されている。

note.com

こちらはあとがきが公開されている。

note.com

*2:論文にまとめられているが、原著論文名が不明。恐らく、情報セキュリティの敗北史に引用されているのではないかと予想。ざっと見たところ、次のペーパーではないかと思われる。

R. Anderson, "Why information security is hard - an economic perspective," Seventeenth Annual Computer Security Applications Conference, New Orleans, LA, USA, 2001, pp. 358-365, doi: 10.1109/ACSAC.2001.991552.

加筆:ある飲み会の席で話題になったセキュリティの経済学についてググってみた(メモ)

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12月のとある夜、まだ忘年会にはちょっと早い頃だったと思う。渋谷道玄坂のとある焼鳥屋に数名の研究者とともにいた。皆は、社会科学系、法学系の中堅研究者だ。そこで最近の情報通信界隈のアカデミアの話題を聞いた*1。その時出てきたのが、セキュリティの経済学(サイバーセキュリティだったかもしれない)ってあるんですか?という一言だった。

その後、X(Twitter)でこんなことも呟いている。

考えてみれば、セキュリティ、特にサイバーセキュリティは、これまでも技術的、社会的に問題になってきたし、これからもその両面で課題が頻発してくるだろう。そういう技術の社会的受容過程の分析に社会科学、中でも経済学からのアプローチがないってのも不思議だということで少々ググってみた。

例えば最近ではこんな本も出ている。目次をみると経済学という言葉が出てきている。この辺りから読むのがいいのかもしれない。

この敗北史にセキュリティ経済学について書かれているらしい。

検索してみると意外とアプローチされているようだ。調査研究レポートがいくつか出てくる。

Security is important!

セキュリティは大切だ!

まずは情報処理推進機構のこのページ。ここでは情報セキュリティの調査・分析項目の中にセキュリティエコノミクスというページが作られている。

www.ipa.go.jp

こちらがセキュリティエコノミクスのページだ。

www.ipa.go.jp

ここでのセキュリティエコノミクスの定義としては以下のように書かれている。

情報セキュリティに関連する事象に対して、社会科学的な観点からの取り組み全般を「セキュリティエコノミクス」と呼んでいます。
例えば、投資回収の観点、個人の利得や効用、社会制度や個人のふるまい、個人の意思決定や認知の観点など、経済学、社会学社会心理学など広く学際的な分野に知見を援用するアプローチをします。

「(ご参考)セキュリティエコノミクスの挑戦のスライド資料」が公開されているので、この辺りをまず確認してみるといいかもしれない。ざざっと目を遠すると、エコノミクスという言葉を借りてざっくりまとめてみたって感じだ。

調査・研究報告書のページもある。

www.ipa.go.jp

他にはこういう資料も公開されている。

https://www.f5.com/content/dam/f5/corp/global/pdf/jp/211022_03.pdf

資料から引用すると以下のような考え方だ。内容は、あることを実行するか否かは、損得で考え、得すればやるし、損ならやらないという考えで、サイバー攻撃を考え、対策を考えるという内容。

日常生活で大きな買い物のコストとその価値を比較検討するのと同じように、攻撃者は自分の時間とリソースを費やす最適な場所を決定する必要があります。安価で機会を手に入れ、天文学的な価値を得られればROIは高くなります。その決定は簡単です。

アカデミアの世界では情報処理学会の会誌「情報処理」(Vol.59(2018), No.12)の特集「ディジタルエコノミー時代のサイバーセキュリティ -ディジタルトランスフォーメーション促進の基盤確立に向けて-」が組まれており、その中に「7.サイバーセキュリティ経済学 -インセンティブの適正化を通じたサイバーセキュリティの確保-」という論文が見られる。

この「情報処理」という会誌の目次をみると他にも関連のありそうな論文名が散見されるので一度じっくり調べてみたい。

新しい学問として「セキュリティ経済学」という動画がYouTubeにあった。


www.youtube.com

このYouTube動画を見ると、セキュリティ経済学の始まりは、2000年ごろとのこと。技術では解決できないセキュリティの問題があることが認識され、それを解決するためには行動経済学のアプローチが必要との議論があり、それからだということだ。それ以降、徐々に研究対象になり始めているというところだろうか。

今回は日本語だけに絞ってしかもGoogle検索の最初の方だけしかみていないのでもう少しじっくり調べると色々出てくるかもしれない。また英語の論文もググってみると、THE ECONOMICS OF CYBERSECURITY-A PRACTICAL FRAMEWORK FOR CYBERSECURITY INVESTMENT-The Economics of Information Security Investmentという論文がある。Google Scholarで検索するとかなりヒットする。海外ではいろいろなアプローチで研究がだいぶ進んでいるのだろう。

後で改めて気づいたのだが、経営学、マネジメント分野では、セキュリティ・マネジメントって感じで結構あるみたいだ。

今回は取り急ぎここまで。

サイバーセキュリティの経済学を考えるには、サイバーセキュリティを知らないとだめだろう。その辺りを勉強するのにこういう教科書はどうだろうか。

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*1:あの時、NTT法の話も出たのだが、法学分野において特殊会社の法律の問題は重箱の隅の隅の話題なので、関心をほとんどよばないというようなことだったと思う。情報技術の社会的受容で法体系がどう変わるのかというような議論もしていたと思うが、今の基本六法に情報法が加わるのかどうかというような内容だったかな。その議論を聞いていて思ったのは、基本六法のような法体系そのものは変わらないが、情報技術の浸透(デジタル化)で変化する社会に徐々に合わせてくんだろうな、アフターデジタルの問題でこれからだなということだった。

相田 洋・荒井岳夫著『新・電子立国[第2巻]マイコン・マシーンの時代』:今流に表現すればCoT(Computer of Things)の時代だよねと気づく2023年の自分

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新・電子立国、やっと第2巻を読了した。この古い本を今なぜ読んでいるのか、そもそもの問題意識はこちら。

mnoguti.hatenablog.com

マイナカードのあと、最近もIT業界はあまり嬉しくないニュースで賑わっている。記憶に新しいところでは、全銀システムのトラブル*1とか、人為的なものだが、顧客情報の不正持ち出し*2とかが起こっている。

半導体で一時世界を制覇してから、その後はピリッとしない状況が続いている。日本の電子産業はなぜそこまで凋落したのか、その謎を解明したくてまずは歴史からもう一度勉強し直すということで読み始めたのが、新・電子立国だった。第1巻では、マイクロソフトやその創設者ビルゲイツを中心にコンピュータ産業の勃興期を描いている。

mnoguti.hatenablog.com

一部転載すると・・・「グリーンフィールドにコンピュータ産業という新しいビジネスを自分たちの力で建てるためにどれだけ努力したか。寝食を忘れて働くなどは当たり前で、既存のビジネスを新しいビジネスに変えていくための旧勢力との交渉、業界としての秩序の形成など場合によっては批判されることもあったが、それに怯むことなく自分の目標の実現に向けて直走った」様子が現地取材で再現しながら、裏をとりながら取りまとめられている。そこから推測できることは「新・電子立国」で描かれているコンピュータ産業、特にソフトウェアの世界は、製造業とは異なる新しい分野だ。新しい分野を確立するには、これまでの慣習や秩序と戦い、新しいルールを広め、業界を自ら作っていくという起業家精神が必要とされるが、それをもつ日本人がどれほどいるか」ということでその辺りに日本企業の弱点があるのではないかと書いている。

さて、続きの第2巻だが、目次は以下の通り。例によって長いが書き出しておこう。

  • 第1章 電気炊飯器のソフトを開発した女性研究者たち
  • ソフトウエアを内蔵した現代の生活機器と産業機器
  • 炊飯器は、毎日使うマイコン・マシーン
  • 自社・他社の製品がずらりと並んだ、メーカーの会議室
  • 記憶装置と"計算機"が入っている黒い塊
  • 5000の命令を100分の1秒ごとに実行する
  • 炊飯器のプログラムはA4判・150ページに及ぶ
  • 炊飯ノウハウは、プログラムの約1割
  • パソコンがある、台所のような実験室
  • パソコンにつながっている炊飯器
  • 開発完了までに1700回の炊飯と、3トンの米が・・・
  • 汗の結晶は、1000パターンのデータ
  • モデルに使用するのは、最も人気の高い銘柄米
  • "ご飯という作品"を評価し合う
  • 炊き上がりは"私たちの味"
  • 第2章 放電加工とNC工作機械をあやつるコンピュータ制御装置
  • 金型は"工業製品の母"
  • 自動車部品の放電加工・成形工場
  • 30年間に60倍に成長した金型産業
  • すべてが廃物利用の放電加工実験装置
  • 数ミクロン単位を手で制御した「人間サーボ」
  • 複雑に捩れた円錐状にも加工できる
  • ソフトづくりでは"お客様は神様"が真髄
  • ユーザー・マインドな思想の実践
  • 第3章 東南アジアに展開する自動刺繍ミシン事業
  • 日本が世界シェア85%の多頭式刺繍ミシン
  • バンコクのコンピューター刺繍工場
  • 行商から服飾メーカーへ転身を図った男の秘策
  • 運命を変えた自動刺繍ミシン製造への転向
  • 日本製もアメリカ製も、ベトナムにあった
  • 金の指輪6個で買い取った自動刺繍機
  • 刺繍機のソフトウェアはジャカード・カード
  • 「穴情報」によって制御されるジャカード装置
  • プログラム用紙のテープの先祖は糸目情報
  • 自動色替え装置による一大飛躍
  • 世界初のコンピューター制御多頭式刺繍ミシン
  • 後発メーカーは日本の刺繍機製造をおびやかすか?
  • 第4章 自動車エンジ制御の二律背反
  • 現代の車は"エレクトロニクス製品"
  • 四つの機能が統合されたシステム・オン・チップ
  • エンジン制御の重要なポイントは何か?
  • デトロイトが再び世界をリードする究極の方法
  • 世界初の「コンピュータによるエンジン制御」実用化
  • 排気ガス浄化と燃費・走行性能のバランス
  • ミニコンピュータで繰り返された実験
  • 世界的な自動車メーカーからのプロポーザル要請
  • 明確な答えを避け通したフォード社
  • アドバンスト・エンジン・コントロール
  • 「ロッカーサイズのコンピューターを小さく」に開発費はゼロ
  • 第5章 自動車エンジンの電子化推進プロジェクト
  • 「マルFプロジェクト」は覆面部隊
  • 数千の部品がハンダづけされたプリント基盤
  • 日米双方の24時間をフルに使う
  • 「エンジン始動せず」に、「大丈夫」の声が震えた
  • ブレッドボードで自動車が動いた
  • 内緒で回路変更をしてチップを納入
  • 先端技術の頂点に立った12ビッド・マイコン
  • トランクを開けてエンジンを修理?
  • 再び、鶴の一声で生き返った開発プロジェクト
  • 自動車マンたちは電子装置に懐疑的だった
  • アリゾナ砂漠の最終テストで正式採用に
  • 日本製ユニットはアメリカ経由で日本車に流れ込んだ
  • 日本企業の技術革新加担対する疎ましさ
  • 第6章 自動車エンジンのソフトウェア開発と格闘した男たち
  • 復元政策も実地走行もオーケーが出た
  • 「理論混合比」を実現するアナログ電子機器
  • 排ガス規制対策用電子装置の開発製造
  • レーニング・キッドでエンジン始動
  • 快調モードと不調モードはキーボード操作で
  • ディジタル装置の大きな可能性
  • エンジン制御のソフトは黒い紙テープ
  • プログラムの点検と修正を繰り返した日々
  • 電磁ノイズによるコンピュータの勘違い
  • マイコン検知情報から制御値を選ぶ
  • 電子屋が、エンジン屋の聖域に手を伸ばす
  • マイコンによる排気ガス対策の真髄とは?
  • 寒波と地吹雪のなかの耐寒テスト再現
  • 日本初のマイコン制御自動車、誕生

第2巻は、マイコン・マシーンの時代ということで、現代の言葉に変えれば、Computer of Things(CoT)、最初のデジタルトランスフォーメーションの時代ということになろうか。取り上げられている内容は組み込みソフトウェアの話で、炊飯器で家電のデジタル化、金型産業で製造業のデジタル化、刺繍用ミシンで産業用機械のデジタル化、そして最後に日本経済を支える自動車産業のデジタル化だ。

これらの産業は、第1巻で取り上げたれたコンピュータ産業という新しい産業を立ち上げるのとは異なり、既存産業へのコンピュータ技術の応用ということになる。在るものをさらに磨き上げる、新しい技術で生産性を高めるということで従来から言われてきた日本の強みを発揮できる分野ということになる。

この時代、経済成長により生活水準が向上し、人はより一段高い生活を目指す一方、オイルショックや公害があり、産業のあり方に大きく転換を強いられた時代であった。そのような世の中の動きが当時のデジタルトランスフォーメーションを後押しすることになり、日本企業はそれを活かして市場を席巻していったと言える*3

In today's terms, that was the era of the Computer of Things.

今様に言えば、Computer of Thingsの時代でもあったあの時代

本書第2巻を読むと、日本人、特に現場の人間が優秀であったことが描かれている。炊飯器にしろ、金型にしろ、刺繍用ミシンにしろ、自動車にしろ現場の社員が必死に取り組んで実現してきたことだ。そこに経営者の姿はあまり出てこない。経営者が出てくるのは、東芝が自動車の電子化を進める際に当時の社長土光さんが後押ししたところぐらいだろう。

既存産業のDXであったということもあり、トップがガンガン引っ張るようなことではないと言えるかもしれない。見方を変えれば、こういうDXでないと日本企業は力を発揮できないのだと考えられないだろうか。この手の経営に経営者の力はあまり必要ないということだ。第1巻で描かれた新しい産業を立ち上げるためには、経営トップが先頭に立って動かないと実現できないだろうが、既存産業のDXは現場で対応できる。経営者はそれを邪魔しないようにするだけだ。ビジネスを立ち上げ成長させるという視点から見た時の第1巻と第2巻の違いが日本の電子産業が凋落した要因が何かを物語っているのだ。経営者の違い・・・これに尽きる。米国は、若い時からビジネスを立ち上げることを目標にやってきた人間が自ら経営者になり市場を開拓する。日本は、たたき上げの社員の最後の勝者が社長となり、4年か5年で交代していく*4。その差が決定的だったと思える。だから日本でも創業者が社長を長く勤める企業はちょっと違う。

日本の電子産業を形成する企業群にそういう企業は皆無であろう。この業界は、経営者のレベルで新しい人材が必要とされている*5。あるいは企業の体質そのものを変える必要がある。昨今のジョブ型雇用の導入もそういう視点で考えるとその意義が分かる。そのためには競争を活発にすることであり、参入と退出をしやすくすることだ。だから規制改革≒競争促進ということなる。しかし、それは簡単に実現できるものではない。若い経営者たちで可能性のある人たちが出てきていることも確かだが、その人たちが日本経済を代表するようになるにはまだ10年以上かかるだろう。日本経済はそれまで耐えられるのか?

さて、本書の中で日本にもまだ芽があるかと思わせてくれたのは、最後に出てくる、デジタル化による性能の向上は、優秀なハードウェアがあってこそ実現されるという事実だ。つまり、ものづくりは、電子産業の時代になっても重要だということを言っている。ものづくりが得意と言われる日本企業にもまだチャンスはあるかもしれないが、それを実現するためには、ものづくりの人たち、経営者のソフトウェアに対する理解が必要なのだ*6。どうだろうか?

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*1:

piyolog.hatenadiary.jp

*2:

piyolog.hatenadiary.jp

*3:世の中で言われていたのは、軽薄短小の時代ってこと。

*4:社内で出世していくためには無理なことをしてマイナス評価をもらうことは避け、無難に評価してもらえることをやりがちだ。典型的なのは、新製品を開発し、世に出すより、既存製品やサービスのコスト削減をして、利益を出す施策。そういう社内環境で育ってきた人間が社長になっていきなり新しい業界を作るようなことはできないだろう。日本型の企業は元から時間と共に衰退していく運命にあったのだ。

*5:もしかしたらと思うのは、中小企業の存在だ。今、事業継続が課題になっている日本の中小企業は多いが、そこに新しい経営者が入ることによって生まれ変わり、ビジネスのやり方そのものを改革して、中小企業から日本の産業を変えていける可能性・・・は、ないだろうか。

*6:第3章に以下の記述がある。

「日本のメーカーがコンピューター化を果たした後も、欧米のメーカーの多くがジャカード式の刺繍ミシンをつくり続け、市場の多くを日本に奪われた。産業革命以来、得意中の得意だった機械制御にこだわったのである。"得意芸が身を滅ぼす"見本であった。今は世界を制している日本も、その得意芸にこだわって安住し、新技術に目をつぶれば必ず衰退するに違いない。」(本文147ページ)

この記述を読んだとき、多くの人はクリステンセンのイノベーターのジレンマを思い出したのではなかろうか。

さらに、世界を席巻したこともある半導体について、昨今、それが戦略物資だと言って官民あげて再投資するのはどうか。今更、再投資しして戦略物資としての役割を果たせるのか、あるいは昔のように市場シェアを挽回できるのであろうか。今から将来を考えた時、投資すべき技術は他にあるのではないか?ここもこれまでの経緯を一度整理した方がいいみたいだ。

清水亮著『検索から生成へー生成AIによるパラダイムシフトの行方ー』:生成AIは一過性のブームではなく、我々のすべてを変えていく

※本ブログおよび掲載記事は、GoogleAmazon楽天市場アフィリエイト広告を利用しています。

日々の生活を豊かなものにし、労働から解放したのは紛れもなく技術のおかげだ。その発展・普及なくして今の世の中はありえないだろう。しかし新しい技術の世の中への浸透がその当初経済社会に何らかの軋轢をもたらすのも事実だ。それは技術の社会的受容として昔からアカデミアの世界でも研究テーマの一つであった。技術の社会的受容について経済学の視点からこれまでの研究を集大成したものが『テクノロジーの世界経済史』だ*1。それについての自分なりの取りまとめは以下の記事にある。よろしければ読んでいただきたい。

mnoguti.hatenablog.com

本書『検索から生成へ』が描く生成AIの登場とその将来の可能性は、まさしくこれから本格化する生成AIという技術の社会的受容の現状を整理し、将来を描いたものだ。それは先日読んだ新電子立国の続きを描くものといってもいいだろう。

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技術の社会的受容を読み解く鍵として著者が挙げているのが、「テクニウム」という聞き慣れない言葉だ。テクニウムとは本書によれば以下のとおり。

テクニウムとは、個々のテクノロジーを一つの生物と捉え、生物のように増殖し、生物のようにほかの生物と合成され、進化するものと解釈する考え方のことで、まったく別のところでまったく別の目的のために作られた技術があたかも生き物のように、出会い、交配し、新しいものに生まれ変わっていく性質を指します。(73ページより)

テクニウムの重要な性質としては以下の点が挙げられている。

  • 必要性が生まれる前に技術が先に生まれる
  • 普及した技術は、必ずほかの技術を取り込む
  • 技術は、普及すればするほど安く、小さく、軽く進歩する
  • 技術は、進歩することをやめることができない

このテクニウムの視点で本書はこれまでのデジタル技術の歴史を整理している(第2章)。1940年代のコンピュータの開発から1980年代前後のPCの出現、1990年代半ばのインターネット、モバイルの浸透、さらに我々の生活空間、ビジネス空間で検索が当たり前になり、SNSが普及した世界から、今、AI、中でも生成AIという技術が身近に普及してきた流れを明らかにする。それは著者の言うとおり、生成AIの登場が一過性のブームではなく、これにより世の中が大きく変わるという歴史的必然として明らかにするものだ。

ここを理解することで、現状の生成AIの世の中に対するインパクトが明らかになる。第2章は、本書で最も大切な章として位置づけられるだろう。第2章の視点で、その後の第3章から第5章まで現場から未来の姿までが描かれる。

What is the paradigm shift with generative AI?

生成AIによるパラダイムシフトとは?

だいぶ長くなるが、本書の構成を以下に書き出しておく。

  • 序〜まえがきにかえて〜
  • プロローグ 検索の時代
  • 検索以前の時代とインターネットの誕生
  • 人力によるディレクトリ検索
  • 自動で探索するロボット型探索
  • 「そんなに検索頻度が高いと儲からない」
  • KPIは顧客滞在時間
  • 検索なんて外注しろ
  • 検索の時代へ
  • 第1章 生成AIとはなにか?
  • 生成AIとはそもそもなにか?
  • コンピュータとAIは真逆の存在
  • 説明なしで学ぶ人工ニューラルネットが可能にしたこと
  • 巨大化することで性能を飛躍的に向上させた生成AI
  • 生成AIの性能を決定づけるデータとバイアス
  • 大規模言語モデルの”民主化
  • 新時代に価値をもつもの
  • 第2章 テクニうむがもたらす未来〜知恵を合わせる能力〜
  • AIが急速に進歩した理由
  • コンピュータ、半導体、電卓戦争とマイクロプロセッサの発明
  • ハッカー誕生の地MITから生まれた偉大な発明〜ゲーム、自由なソフトウエぁ、インターネット〜
  • Microsoftはなぜ大学生に負けたのか?
  • 自由なソフトウェアと商用化は矛盾しない
  • ファミコンから始まったゲーム機戦争
  • 天才たちの楽園〜サザーランドと電子たち〜
  • MIT人工知能研究所とシンボリックス社
  • 次世代ゲーム機戦争
  • PCとMacGPUの共進化
  • NVIDIAの選んだ生き残りの道GPGPUとCUDA〜
  • WebサービスWeb2.0
  • 世界中のプログラマー集合知Github
  • 人工知能研究者のための溜まり場HuggingFace
  • AIが人間に勝ったアルファ碁の衝撃
  • 強化学習×大規模言語モデルがChatGPT
  • 高度で大規模な性能を保ち小規模なAIに蒸留する
  • プログラミング×AIでさらに強力になる
  • 第3章 民主化された生成AIが世界を変える
  • 真の民主化がこれから始まる
  • 大規模言語モデル民主化されるとなにが起きるのか
  • AI生成物が人間の創作物の総量を超え、ハルシネーションが知識を汚染する
  • 生成AIの法的な問題
  • 倫理的な問題
  • データ中心主義(データセントリック)
  • 表現手段としてのAI
  • プログラムを書くAI
  • 第4章 生成AIでビジネスはどう変わるのか
  • 生成AIでプロジェクトを管理する
  • 企業の意思決定手段としての生成AI
  • 傾斜と管理者を助ける生成AI
  • 中小起業こそ生成AI導入のメリットがある
  • 生成AIで変わる人事
  • 生成AI時代の組織とは
  • AI中心主義の飲食店
  • 第5章 生成AIの可能性
  • コミュニケーションと生成AI
  • エンターテインメントと生成AI
  • ラニングと生成AI
  • 仕事と生成AI
  • 新しい働き方と生成AI
  • 教育と生成AI
  • 高齢化社会と生成AI
  • おわりに「永続する未来へ」

全体としては240ページの読み物で、量の多寡の感じ方は人によるだろうが、この中に書かれていることを読んで考えることでより多くの知識を我々にもたらしてくれるだろう。そういう意味では読んだ後、もう一度読みたい本だと思う。是非2回読んでみてほしい。2度目に読む時はまた新しい世界が頭の中に広がっていると思う。

本書の基本的な視点であるテクニウムを理解するには、以下の書籍は必読だ。本書を読んでより深く考えたい人は読んでみることをお勧めする。

これから生成AIの世界が急速に広がり、そして我々の世界に深く浸透していくことになる。少し大袈裟だが、その社会的受容過程で、さまざまな社会問題がなるべく発生しないように、多くの人が本書を読み、生成AIが普及する必然を理解し、社会に普及する上での問題点があることを予期しながら利用を進めるようになればいいと思う。そうすることで検索から生成へというパラダイムシフトを上手く生き抜いていくことになるのだと思う。

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相田 洋・大墻 敦著『新・電子立国[第1巻]ソフトウェア帝国の誕生』:コンピュータ産業の勃興期をビル・ゲイツを中心に描くとこうなる

出版は、1996年・・・小生、入社5年目の若造であった。TV番組として見たかもしれないがその内容はあまり理解できていなかっただろう。だから記憶にも残っていない。

今から思えば、コンピュータ産業はまだ若かったし、当時は、仕事でPCが一人一台になった頃だった*1。コンピュータ産業は、IBMマイクロソフトやアップル、その他日本国内の互換機メーカーも含めて元気が良かった。その後の日本メーカーの敗退、IBMのPC事業からの撤退、アップルやマイクロソフトの浮き沈みなどがあり現在に至る。

そのコンピュータ産業の勃興期をまとめたのが本書だ。今後、この続編を順番に読んでいくことになるが、なぜ今、このシリーズを読むのか。それは日本のデジタル産業の低迷の原因を探りたいと思ったからだ。その問題意識を書いたのが以下の記事になる。

mnoguti.hatenablog.com

本書は、NHKスペシャルの番組を再構成した内容であり、随所に番組で行われたインタビューを入れ込み、当事者に直接語らせるように工夫し、説得力を持たせている。番組を見てから読むと映像では理解できなかった部分が理解できたり、新たな気づきがあったりするところがいい。読んでから再度映像を見るというのもいい。

Why read The New Electronic Nation now?

なぜ今、新・電子立国を読むのか?

主役は、当時の巨人IBMではなく、会社設立から始まるマイクロソフトであり、まだ少年のビル・ゲイツだ。ビル・ゲイツをその幼少期から追うことによって、米国でコンピュータ産業がいかに勃興してきたを描いている。新しい産業が勃興する中での当事者たちの苦労、大型コンピュータを牛耳っていたIBMのPC世界での凋落、その他、コンピュータ産業が勃興する際の主人公になり損ねた人々について現地での取材に基づいてまとめられている。

そこで明らかになるのは、アメリカ社会がビジネスを起こすことに積極的な社会であるということ、積極的な人間にはどこか寛容なところがあること、それをビル・ゲイツを通して描いているとも言えるだろう。彼がマイクロソフトを起こし、それを成長させていく過程で次々と押し寄せるチャンスとピンチに全力で取り組みものにしていく過程はまさしくそこを描いている。ビルは常に自分がやりたいことを実現するために努力し、そのチャンスが来た時にはそれをものにすることに全力を挙げた。同じようなチャンスを目の前にした他の人たちもいたが、その人たちがものにできなかったチャンスをビルはものにしていったのだ。

グリーンフィールドにコンピュータ産業という新しいビジネスを自分たちの力で建てるためにどれだけ努力したか。寝食を忘れて働くなどは当たり前で、既存のビジネスを新しいビジネスに変えていくための旧勢力との交渉、業界としての秩序の形成など場合によっては批判されることもあったが、それに怯むことなく自分の目標の実現に向けて直走った。そのことが本書にはまとめられている。この点については、ビル・ゲイツスティーブ・ジョブズイーロン・マスク・・・みんな似ている。

ちょっと長くなるが、目次を以下に挙げておく。各項目を見るだけでおおよその内容は分かるだろう。一つの産業が勃興し、成長していく様をじっくり読めるのがいい。

  • まえがき
  • プロローグ パソコンソフト産業の覇権をにぎる男、ビル・ゲイツ
  • 第1章 世界最大のソフトウェア企業、マイクロソフト
  • テレビ取材への不信感
  • マイクロソフト・キャンパスの1日
  • 世界最良のソフトウェア開発のための環境づくり
  • 第2章 ビル・ゲイツは、いかにして才能を開花させたか
  • レイクサイドスクールの先進的コンピュータ教育
  • ビル・ゲイツとコンピューターとの出会い
  • ポール・アレンとの熱中コンビ
  • シアトル・コンピューター・カンパニーの「バグ出し」
  • ソフトウェアビジネスへの胎動
  • 最初の会社設立は高校生時代
  • 世界初のパソコン発表への二人の反応
  • パソコン時代への技術開発
  • 世界で初めてのパソコン「アルテア」の開発者
  • 人間語と機械語の対照表
  • プログラムを自由に書くためのプログラム
  • 「アルテア」の機能を代替するプログラム
  • エイケン・コンピューターセンターの天才たち
  • アルバカーキの最初の一日
  • 世界で初めてのパソコン用ソフトが動いた
  • ソフトウェア契約の原型
  • 第3章 マイクロソフト社の草創期
  • 社員三人のマイクロソフト社設立
  • 海賊版の出現に激怒
  • ホーム・ブリュー・コンピュータークラブのコピー談義
  • ソフトウェアは知的所有物だという主張
  • マイクロソフト社とMITS社のぎくしゃくした関係
  • ルバウ夫人の脇を軽やかに通り過ぎた少年
  • ソフトウェアというなの紙を売る少年たち
  • 天才たちの面倒いっさいをみる「ルバウ・ママ」
  • 理解を超えたライセンス料収入
  • アルバカーキを去る日
  • 第4章 パソコン産業の黎明期
  • 予想外に売れたマイクロコンピューターの組立てキット
  • デファクトスタンダード」が死命を制する
  • 無料で開催したマイコンセミナーは大人気
  • 「日本のビル・ゲイツ」は誕生しなかった
  • パソコンを作るために大企業から独立
  • マイクロソフト社の重役になった日本人
  • ハンダゴテ一本を持ってコンピューターづくりに渡米
  • 独学でコンピューターを自作した少年
  • ガレージで生まれた「アップルⅠ」
  • 「アップルⅡ」開発の快挙
  • 製造の資金を得て爆発的なヒット商品に
  • 第5章 IBMパソコンの誕生とMS-DOS開発
  • パソコン開発を決意したIBM
  • 定宿は超高級リゾート・ホテル
  • 内製品はキーボードと箱だけだった
  • OSはコンピューター・システムの鍵
  • 秘密保持契約から始まった交渉
  • 欠けていたのはOS
  • マスコミ泣かせの鬼才はスピードマニア
  • すれ違いに終始したライセンス交渉
  • OSは「ペンキの塗り替え」で
  • 人生はプログラミング三昧で満足
  • 一点の曇りもない説明ぶり
  • MS-DOSの開発は秘密部屋での突貫作業
  • MS-DOSは盗作か
  • ハードとソフトの力関係が逆転した瞬間
  • 第6章 誰でも使えるコンピュータの登場
  • 「ウィンドウズ」とは何か
  • ゼロックス研究所で生まれた「GUI
  • 「アルト」はまさしくGUIパソコンだった
  • GUI環境を商品化した「マッキントッシュ
  • マイクロソフト社も「ウィンドウズ」を発表
  • エピローグ パソコン時代の創造的人間たち
  • 先駆者たちの現在
  • チャレンジャーを育てるアメリカ社会
  • ソフトウェア時代に通用しない日本の教育システム

この前のシリーズである「電子立国日本の自叙伝」では、日本企業が世界市場を舞台に活躍したが、新・電子立国では日本企業や日本人はほとんど出てこない。唯一出てきたのは、アスキーの西さんぐらいとなっている。その違いに日本の電子産業(というか日本経済そのもの)の凋落の原因が隠れていると感じてしまう人はいくらでもいるのではないか。

「電子立国日本の自叙伝」は、あくまでも製造業の話・・・半導体産業は新しかったが、製造業の新たな一部門にすぎない。半導体産業のように既存の分野の中で自分を活かしていくことを考えるのは日本人は得意なのではないか。それが現実になったのが世界レベルでのシェアの獲得であった。それでも絶頂を極めた後はずるずると後退するしかなかったのであるがそれはそれでなぜなのかという疑問につながる。一方、「新・電子立国」で描かれているコンピュータ産業、特にソフトウェアの世界は、製造業とは異なる新しい分野だ。新しい分野を確立するには、これまでの慣習や秩序と戦い、新しいルールを広め、業界を自ら作っていくという起業家精神が必要とされるが、それをもつ日本人がどれほどいるか。本書の中では「日本企業の得意芸とも言える二番手商法が発揮できない世界」と指摘されているが、日本人がソフトウェアの世界で世界と競争するのは今後も無理なのであろうか*2と自問自答する。

コンピュータ(ソフトウェア)産業のような全く新しいビジネスを立ち上げ、業界として成長させていくには、欧米人とは異なる、日本人を特徴づける社会と個人の比重の掛け方の違いが不利に働いたことが一つあると思う。さらにソフトウェアの世界は、ネットワーク効果の働く世界であり、一人勝ちの世界になるため、二番手として日本が追いかける余地はなかったということになろうか。

今の日本を見た時、日本経済を立て直したいのであれば、若い人たちを海外に出すことしかないのではないか。日本以外のビジネスや社会を知ることで若い精神を刺激し、日本にはないビジネスを起こし、一攫千金を目指す人間を育てることだ。

続いて第2巻を読んでみることにする。

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*1:当方の研究所は、PCに関しては比較的先進的に揃えていたと思う。入社当初は、まだワープロの時期で富士通オアシスが一人一台、PC9801がフロアに数台、SASを動かすためにVAXがあった。その後、MacのⅡCiが導入され、PCが個人端末となる段階でMacのカラクラが希望者に導入された。そのカラクラをアップルトークで繋いで、ユードラでメールを始めた時の衝撃は忘れない。

*2:ならば、半導体産業を再度テコ入れするというのはそれはそれで国家戦略としては支持されることになろうか。

電子産業(半導体産業)の再興はありうるのか?・・・まずは簡単に入手できる文献を整理

情報通信産業を研究対象としてきた自分がこれまで間近で見てきて、日々弱体化していくようにしか見えない国内電子産業*1。その電子産業周辺がデジタル化(DX)の推進で盛り上がっている。政府をあげてDXだと音頭を取り、これで電子産業も上向くかと思った矢先にマイナカードでは味噌をつけている。ハードの時代からソフトの時代となってもしっくりこない。いつまで同じことを繰り返すのか。

一方、海外に目を向けると、技術覇権競争の中心となっている台湾企業は、積極的な設備投資で半導体産業の先頭に立つ。何十年か前の日本企業の姿とダブらないか。また(突然)現れた生成AIの可能性やそれがもたらす社会的インパクトは電卓と比較したらどうだろうか。

身の回りのiPhoneなど電子機器を見ればDXのインパクトは誰にでも分かるが、それを活かしきれていない日本企業。どうにかしたいと政府による更なる電子機器、半導体産業へテコ入れ、古くて新しいデジタル化の推進など、日々、電子産業周辺が喧しい。

歴史を数十年遡れば、一時は世界に冠たる産業としてその名を轟かせた日本の電子産業がそこにはある。戦後、トランジスターから始まり、現在に至るまで、日本はどうして現在のように凋落してしまったのか・・・最近、ずっと頭の片隅にあった疑問だ(最近ではなく、ITバブル崩壊後からになるか・・・)。

What will happen to Japan's electronics industry?

日本の電子産業はどうなるのか?

そこで今回、新しい書籍なども出版され過去を振り返り、現在を分析し、将来を見通すにはちょうど良いのではないかと思い、どこまでできるかわからないが、少し過去から振り返ってみることにした。

まずは、1990年代に制作されたNHKの「電子立国 日本の自叙伝」だ。これはハードとしての電子立国の話で、NHKオンディマンドで視聴可能なのでそちらでじっくりみることに。そのほか、DVDでも販売されている。

当然、書籍化もされている*2わけで、そこらあたりをひっくり返しあの時代の日本企業の行動を思い出してみようと思う。過去を振り返る資料としては、他のもやはりNHKの新電子立国がある。これは、ソフトとしての電子立国の話だと想像される(自分は見た記憶がない)。残念ながらNHKオンディマンドにない!なぜかない!ので、書籍での確認になる。さて、どんなことが分かるのか楽しみだ。マイナカードのような状況が出てしまう原因の萌芽みたいなものが描かれているかもしれないと思ったりする。

振り返ってみれば、これまでにも電子産業に関する書籍は何冊か読んでいる。たとえば、下記の関口さんの書籍や、杉本氏の書籍がある。

mnoguti.hatenablog.com

パソコン革命に続く、ネット革命の書籍ということで著者は違うが2冊を一緒に読むと国内の状況が理解できる。

mnoguti.hatenablog.com

さらに電子産業についてもこれまで2冊ほど関連書籍を読んでいる。

mnoguti.hatenablog.com

最近ではこちら。

mnoguti.hatenablog.com

自分で記事を読み返してみると、ちょっと浅いんだよなと思う。今回、もう少し深く考えてみないかなと自分自身に問いかけたよ。そこで再読してみようと思った次第。上記を見終わったら、ちょうどいい本が出ているので下記の本を読んでみようと思う。そこで、見方が変わるのではないか。

どういう味方を自分自身がするようになるのか・・・。

半導体産業は産業時代が新しく、かつダイナミックに変化成長しているので、複雑でわかりづらい面がある。それについてはこちら、「半導体産業のすべて」がよくまとまっているのではないかと思う。

半導体産業はハードの話なので、ソフトウエア産業については別途書籍(あるいは研究論文か?)をこれから探そうと思う。

【加筆】以下、執筆後に目に留まった半導体関連の記事。

journal.meti.go.jp

journal.ntt.co.jp

journal.ntt.co.jp

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*1:もちろん世界シェアをとっている企業もあるが、これまで電子産業を牽引してきた企業の多くは弱体化しているのではないか。

*2:

広大なネットの世界を自由に闊歩したいから、できれば自由がいいが、限界もあることをもう一度考えてみるには・・・

ネットの世界は広大だわ・・・確か、押井守攻殻機動隊の最後に草薙素子がつぶやいた言葉だ。そう、ネットの世界は広大だ。だからその世界を自由に闊歩したいじゃないか。監視社会ではなく、自由なネットの世界で自由に何かやってみたいとは思わないか。

You want to roam freely in the vast world of the Internet, don't you?

広大なネットの世界を自由に闊歩したいじゃないか

そういう思いがある一方、最近のテック企業への規制、サイバー空間での利害の衝突が拡大し、自由なネットの世界がどこかへいってしまうのではないかと思わざるを得ない状況。その状況に加え、自由主義の負の側面としてショック・ドクトリンなるものを意識せざるを得なくなった。

mnoguti.hatenablog.com

ネットの世界でも当然、自由には自由としての規律を求められ、市場メカニズムにも限界があるし、それを無視した時、ネット上でもショック・ドクトリンのような一部権力者と大企業があちこちに立ち現れるようになってしまうだろう(今のビックテックがそうでないと否定できない)。

これからの世界がどのような世界になるのかについて、現状で考えられる、その有り様を示してくれている書籍も出てきている。

この本では持ち寄り経済圏として未来のネット社会がどうなってくるのかを垣間見せてくれている。ネット社会がどういうものになりそうか薄っすら未来が見えてきている今だから、改めて自由について考えてみることが必要だと思う。

そこで、自由思想の基本的書籍をこれから時間を見つけて読んでいこうと思う。その書籍は、J・S・ミルの自由論、ミルトン・フリードマンの資本主義と自由、そしてフリードリヒ・ハイエクの隷従への道の3冊だ。

最初は、J・S・ミルの自由論。古典だ。

タイミングよく、ミルの生涯を解説した書籍も出たところだ。まずはこれから入るのもいいのではないか。

そして2冊目が、シカゴ・ボーイズも学んだでろうフリードマンの資本主義と自由。

資本主義と自由を一般向けに描いた選択の自由を30年ぶりぐらいに読み直すというのもいいと考えている。

そして3冊目がハイエクの隷従への道だ。なかなかの分量だが読んでみたい一冊。

それからこちら「肩をすくめるアトラス」はジョブズやマスク、ベゾス、ゲイツなどもバイブルとして読んだと言われている本だ。アメリカの自由主義を理解するために読むべきだろう。おそらくシカゴ・ボーイズのやったこととこの小説を信奉した人たちがやったことを比較すれば、ショック・ドクトリンにおける自由の限界が分かるのではないか。

同じ思想なのにかたやどさくさに紛れて火事場泥棒のような施策を打つ、かたや自分の理想を追求し、世界を劇的に変えるイノベーションを結実させる。その相違はどこから出てくるのか・・・ここが1番の知りたいところだ。この相違が出てくる背景が少しでも分かると、ショック・ドクトリンに対する対抗策もより取りやすくなるのではないかと今のところ思っている。

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NHK100分de名著「ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』 2023年6月 (NHKテキスト) 」を読む

いやぁ〜、びっくりした・・・最初から経済学が悪者にされているではないか!・・・市場原理主義を利用したショック・ドクトリン。今、世界は、一部の権力者、金持ちによる支配が拡大しているが、その彼らが取る手法がショック・ドクトリンでそれは経済学のシカゴ学派ミルトン・フリードマンの考え方に基づいているとなっている。

シカゴ学派はそもそも市場メカニズムを重視する立場で、中でもミルトン・フリードマンの考え方は強硬派だったのではないか。それに賛同するかは人それぞれだろう。自分は賛同しない方だが、否定することはない。それはケインズ経済学にも長所と限界があるように、当然、市場メカニズムを重視するシカゴの考え方、フリードマンの考え方にも長所と限界があると考えるからだ。

Friedman and his ilk...

フリードマンとその一派って・・・

本書は、ムック本で、NHK100分de名著で取り上げる「ショック・ドクトリン」を理解するための番組用のテキストとして堤未果氏によって書かれたものだ。6月の月曜日に1回25分で4回=100分で解説される。4回は以下の通り。

本書で解説しているショック・ドクトリンに基づいた政策遂行過程については確かにそうだと思い当たる節もあり、肯定的に受けいれられるのだが、シカゴ学派が槍玉に上がっているのはどうも違和感があって、読んでみた。

今後、ナオミ・クラインの「ショック・ドクトリン*1フリードマンの「資本主義と自由」*2を読んで考えないと行けないが、今回は、100de名著のテキストの範囲内で考えてみた。

最近の政策決定過程を見ていると、確かにショック(=「衝撃と恐怖」)が起きた時に、その時ちょうど議論になっている、あるいはなりそうな重要な政策課題がほとんど議論されずに、法案成立となっている場合があるのではないか。災害や事件・事故などのショックに関する記事で誌面は埋め尽くされ、そういう本来我々がチェックすべき重要な課題はベタ記事で載る程度、TVのニュースでの扱いも最小限になる。そういうことが多くないだろうか。

こうなるのは、マスコミが商業主義に行き過ぎているためだと思っていたが、もう一つ、深く掘り下げるとこのショック・ドクトリンに行き当たるということなのだろう。つまり、マスコミが商業主義に走り、その時々の売り上げ最大化を考えれば、地味な重要課題より、大衆の関心が集まるショックに多くの紙面を割くことになっていくがその背景にはショック・ドクトリンという権力者等による大きな支配の構造が働いているということだ。

1980年代以降の民営化を中心とした市場メカニズムを利用した経済政策の推進は、それまでの財政赤字や公的部門の非効率性など大きな政府の反省として実施されたものだ。当時、それは新自由主義としてシカゴ学派だけではなく、多くの経済学者によって支持されていたと思う。市場メカニズムセーフティネットは車の両輪となり、経済を新しい均衡点へ導くはずが、自由市場における大企業の成長、適切なセーフティネットを構築することの難しさ、労働組合*3やマスコミ(ジャーナリズム)などカウンターパワーの弱体化が進み、結果として大企業とそれにつるむ権力者による弱肉強食の世の中を導いてしまったということだ。

このように理解すると、思い出されるのは、下記の記事で取り上げられている経済学者の生き様だ。彼の生き様は、自分の満足を最大化するためのショック・ドクトリンに乗った政策立案そのものだったことが改めて分かる。

mnoguti.hatenablog.com

以上から、現状の社会構造やそれによる社会問題、社会課題は、シカゴ学派の考え方が出発点となった市場メカニズム偏重の経済運営の帰結という整理になる。しかし、シカゴ学派の考え方そのものが悪いのではなく、確かにきっかけは作ったが、こうにまでなったのは企業経営や政策運営の適切性をチェックできなくなってしまった労働組合やマスコミの弱体化、大衆の無関心が大きいのではないか。偏重させてしまったのは、そこをチェックするメカニズムが弱体化されてしまったためで、それはカウンターパワーの弱体化によるものだ。

そこに気づいたのがナオミ・クラインで「ショック・ドクトリン」として世に問うたということになる。また、4回目の放送で紹介されるのであろうが、そこに書いてある、行きすぎた市場メカニズムの反省として、「シカゴ学派ショック・ドクトリンに立ち向かう」方法として、「一旦立ち止まり、目の前のことだけでなく過去に遡って学び、考える」ことの大切さと「市場メカニズムではなく、多様性や自然が持つ循環のメカニズムを大切にし、自らその一部として経済活動を営む暮らし」として紹介されている。それは多様なステークホルダーを経済システム内(市場メカニズムを含む)に維持し、チェック機構として機能させることを志向するものだろう。

We value diversity and nature's cyclical mechanisms...and I believe this is connected to social common capital.

多様性や自然が持つ循環のメカニズムを大切にし・・・それは社会的共通資本に通ずるのか?

ここでまた思い出されるのが以下の記事だ。宇沢弘文氏の追及した経済学ー社会的共通資本というものと重ならないだろうか。実は、宇沢氏は、シカゴ大学フリードマンと一緒だった時期があり、その直後に日本に帰国したという経緯がある。フリードマンの経済学と宇沢氏の社会的共通資本・・・なぜあの時、日本に帰ってきたのか空想は尽きない。

mnoguti.hatenablog.com

ショック・ドクトリン」を知ることにより、我々は市場メカニズムを否定するのではなく、それといかに付き合うべきかを再度考えるところに来ているということだと思う。社会システムの再構築が必要とされているのではなかろうか。

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*1:

*2:

「資本主義と自由」は、日経BPラシックスより新訳が出ている。

そして「資本主義と自由」を一般読者向けに書いたのがこちらの「選択の自由」だ。こちらはすでに絶版となっており、古本でしか入手できない。

*3:確かに当時、労働組合潰しについてもいろいろ言われていたことを思い出す。話は逸れるが、バブル崩壊以降、労働者の給与が伸びなかった要因の一つは労働組合の弱体化にあるのではないかと思っている。