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Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

坂井豊貴著:決め方の経済学ー「みんなの意見のまとめ方」を科学する:多数決の限界を知る一冊

多数決は民主的な決め方だ・・・と小さい時から教えられてきたような気がする。一方、最近の価値観が多様化している状況だからか、例えば選挙で投票するとき、この政策はあの人だけど、これについては支持できないとか、複雑な思いをする。そして選挙結果をみて、なんか違うなと違和感を覚える。そんな社会としての意思決定についてのモヤモヤ感が何かを明らかにしてくれるのが本書、決め方の経済学だ。

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この本を読むと多数決の限界、民意を反映する方法はシンプルな多数決ではなく、いろいろ工夫のしようがあることがわかりやすく書いてある。学術書というよりビジネス書だ。今の時代だからこそ、是非読んで、自分たちが従っている多数決というものの限界をしっかり知ることが大切だと思う。

「決め方」の経済学―――「みんなの意見のまとめ方」を科学する

「決め方」の経済学―――「みんなの意見のまとめ方」を科学する

 

本書は4部14章構成となっており、比較的短い章となっており、忙しい人でも短い時間で読めるように簡潔な記述となっている。具体的な章だては以下の通り。

  • 第一部 決め方を変えると結果が変わる
  • 第1章 民意は選挙結果からは分からない
  • 第2章「民主的な」決め方を考えるーボルダルール
  • 第3章 一騎打ちで選択肢を競わせるー総当たり戦
  • 第4章 決め方が変わると歴史が変わる
  • 第二部 三択以上の投票で優れている決め方は何か
  • 第5章 決め方を精査するーペア勝者とペア敗者
  • 第6章 ベストな配点を考えるースコアリングルール
  • 第7章 「絶対評価」で決めるとどうなるかー是認投票
  • 第三部 二択投票で多数決を正しく使いこなす
  • 第8章 多数決で正しい判断ができる確率ー陪審定理
  • 第9章 多数決と暴力は何が違うのか
  • 第10章 国会は多数決を正しく使えているのか?
  • 第11章 法廷の「決め方」を分析する
  • 第四部 多数の意見を尊重すべきでないとき
  • 第12章 費用分担をフェアに決める
  • 第13章 「決闘への満場一致」は尊重すべきか
  • 第14章 個人の自由と満場一致はときに対立する
  • あとがき

決め方をめぐる話題が多岐に述べられており、みんなの意見を何らかの形でまとめるそのまとめ方がいろいろあることが分かる。

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それよりも前に第一部で明らかにされるのは、決め方でいくらでも結果は異なるし、今の多数決が本当に民意というものを反映する決め方なのかという政治不信の底にある原因の一つをえぐり出しているところだ。

そして決め方もいろいろ工夫する余地があるということだ。学術的には社会的選択理論になるのであろうが、本書はその学術上の知見を現実の世界に落とし込み、社会的意思決定での多数決の危うさを多方面で検討した後、それを改善するための工夫もいろいろあることを述べている。

ここで挙げられている改善策を実現するのは、なかなか難しいと思う。それは例えば、現在、議員をしている人たちは現行制度で選ばれた人たちだからだ。自分たちが選ばれた制度を、その支持がどういう影響を受けるか分からなくなるような方向に変える人はいないであろう。

一方、ICTという情報通信技術がこれだけ発達した世の中で民意を最大限反映させるような制度は昔に比べてその実現可能性は高まっているとも言えるのではないか。どのような世の中にすべきか、そのためにどのような決め方が良いのか、考える必要があるのではなかろうか。未来を決めるのは我々なのだ。

「決め方」の経済学―――「みんなの意見のまとめ方」を科学する

「決め方」の経済学―――「みんなの意見のまとめ方」を科学する

 

身近な例で言えば、今の自民党中心の政治状況が本当に民意を反映したものなのか・・・考えてみるきっかけを視点を与えてくれるのが本書だ。今だから是非読みたい一冊だと思う。

今年、5冊目読了しました。