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Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

宮川努著「生産性とは何かー日本経済の活力を問いなおすー」:働き方改革は必須です

バブル崩壊以降、20年以上に渡り低成長にあえぐ日本経済(最近はバブルっぽいけど)・・・その日本経済に再成長とそのための活力と取り戻すための一つの見方を提示したのが本書だ。そのキーワードが、「生産性」ということで、生産性を中心に日本経済を多面的に分析している。
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本書の章立ては以下の通り。

  • はじめに
  • 序  章 生産性はなぜ注目されるようになったのか
  • 第1章 生産性の概念と日本経済
  • 第2章 経済学における「生産性」
  • 第3章 生産性を向上させる要因は何か
  • 第4章 企業レベルの生産性向上
  • 第5章 政府は生産性向上のために何ができるのか
  • 第6章 日本経済が長期停滞を脱するにはーアベノミクスを超えて
  • あとがき

「はじめに」も含めて最初から読んでいくのがいいと思う。著者の問題意識が書いてあるが、その最初ページに入る前に、村上春樹の小説から「使えるものは全部使うんだよ。ベストを尽くすんだよ。」という一文が引用されている。そしてはじめにでは、「生産性とは『経済的な活力と工夫の指標』となる。自分が労力を投入する仕事に対して、どれだけの成果が得られるかは、その仕事にどれだけ意欲的に取り組み、うまく成果を出せるように工夫するかに依存するということだ。」と述べている。

この視点から本書は、前半では主にマクロレベルでの生産性の動向を分析し、徐々にミクロレベル、企業の生産性の分析に関心の先が移っていく。

生産性とは何か (ちくま新書)

生産性とは何か (ちくま新書)

 

生産性のマクロレベル、ミクロレベルでの分析を通し、日本経済の問題点が明らかにされていく。まずは供給サイドから日本経済は、長期低迷からなぜ脱出できないのか、長期低迷に陥っている要因は何か、改善されている面はないのかなどなど、生産性というキーワードを通して日本経済を分析している。

そして第5章においては、政府の役割についても述べ、長期低迷を脱出するための政府の役割について考察している。最後、第6章では、低迷している日本経済において、元気のいいところもあるということで例を出している。それがスポーツと観光だ。この二つの分野に何が起きたのか、どういう改革が行われたのかが簡潔に語られている。そして経済政策としてどこから手をつけるべきかという点については、その影響の大きさから労働市場だと述べている。

経済学が教えるところはシンプルだ・・・長期低迷を脱出するために生産性を向上させるには、市場メカニズムを最大限活用して行くことだと(そこでの政府の役割は長期ビジョンの提示ということになる)。そこでは、競争性、合理性、多様性が維持され、政府規制は最小限にすべきであると。ただし、言うは易し行うは難し・・・それを実行するにはいくつもの障壁がある。ある時は業界慣行であり、ある時は政府規制であり、我々の考え方であり、過去からのしがらみであったりする。

本書は、現在の危機的状況(だと思っていないでしょ・・・だからバブルっぽいって)をどう打開していくかを生産性というキーワードを通して分析したものだ。通して読んだ後は、気になる章を再度読むもよし、参考文献欄にある関連文献を読むよし、いろいろなアプローチで何回も読んでみることで著者の考えをより深く理解できるだろう。

イノベーションの研究―生産性向上の本質とは何か

イノベーションの研究―生産性向上の本質とは何か