著者の作品で多分多くの人が最近見聞きしているのは以下の応仁の乱を扱った本ではなかろうか。
日本の中世史は妙に複雑で、理解しづらいという印象が強い。なぜそうなのかと考えてみると、例えば中世の終わりの時期の信長や秀吉、信玄などのある意味派手な人物がいないので主人公を中心としたストーリーとして理解しづらい。それと関連して、お家騒動的な出来事が多く、同じ名字や名前の人が絡んでやはり理解しづらいなどが挙げられる。
そのような日本中世史において、まず「応仁の乱」を取り上げその構造と真実をわかりやすく解説したのが著者だ。
その第2弾が今回読んだ、「陰謀の日本中世史」ということになる。著者のあとがきによると、実は応仁の乱と同時に書き始めたとのことだが、応仁の乱が先に出ることになり、かつ、ヒットしたことにより色々忙しくなり、こちらの執筆が遅れたとのこと・・・本書にとっては、結果的にそれもプラスに作用しているように思えるが、どうだろうか。
さて、本書だが、その内容は日本中世史の主要な出来事に焦点をあてたものだ。これまでに数々世の中に出回って来た代表的な解釈を取り上げ、著者の歴史学者として専門家の立場から、歴史学の手法を用いて、その荒唐無稽さや非常識さを一蹴している。
基本は、一次資料に丹念にあたること、それがない場合はなるべく信頼性のある資料を探すこと、そして残った分からない部分について最後、は周囲の状況、歴史上の特徴をしっかり見極め、常識的な推定を加え、その出来事の本来の姿を明らかにするというものだ。
本書の目次は以下の通り。
- まえがき
- 第1章 貴族の陰謀に武力が加わり中世が生まれた(保元の乱、平治の乱)
- 第2章 陰謀を軸に『平家物語』を読みなおす(平家一門と半平氏勢力の抗争、源義経は陰謀の犠牲者か)
- 第3章 鎌倉幕府の歴史は陰謀の連続だった(源氏将軍家断絶、北条得宗家と陰謀)
- 第4章 足利尊氏は陰謀家か(打倒鎌倉幕府の陰謀、観応の擾乱)
- 第5章 日野富子は悪女か(応仁の乱と日野富子、『応仁記』が生んだ富子悪女説)
- 第6章 本能寺の変に黒幕はいたか(単独犯行説の紹介、黒幕説の紹介、黒幕説は陰謀論)
- 第7章 徳川家康は石田三成を嵌めたのか(秀次事件、七将襲撃事件、関ヶ原への道)
- 終 章 陰謀論はなぜ人気があるのか(陰謀論の特徴、人はなぜ陰謀論を信じるのか)
- あとがき
平安時代終盤から武士の時代に突入する鎌倉時代、室町時代、そしてその終焉にまつわる主要な歴史上の出来事を取り上げ、現在考えられうる真実の姿をわかりやすく解説している。
各章は独立に読めるので、自分の興味あるところから読み始めてもいいと思うが、是非全ての章を読みたいところだ。そうすることで日本中世史の理解が格段に進むだろうし、今回取り上げられていないような中世史上の出来事を理解する時にも助けになるのではないだろうか。
本書は、今までなかなか興味を持てなかった人がこれを読み終えることで、日本中世史が身近になること間違いなしの好著だと言えるだろう。
面白い一冊でした。
さて読み終えた今、次はどれを読むかと調べてみると、下克上を扱った著書もその前に出していることが分かり、機会があれば是非読んでみようと思った次第。
戦争の日本中世史: 「下剋上」は本当にあったのか (新潮選書)
- 作者: 呉座勇一
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/01/24
- メディア: 単行本
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