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若林恵「さよなら未来 エディターズ・クロニクル2010-1017」:大部で内容のある一冊

最初、本書を手に取って読み始めたとき、自分は著者が女性だと勘違いして読み進めていた。それは、最初のまえがきというか謝辞が「S君のこと」という一つの振り返りから入っているその入り方や著者の名前(失礼^^;)から勝手にそう思い込んでいただけなのだが・・・そしてどこで著者が男性であると気づいたのかはすでに忘れてしまっているが、それに気づいたとき、本書の印象が大きく変わったのだった。

それからこの本を面白いと思わせたのは、その出版社にもある。岩波書店がその出版社なのだが、本書を手に取ったとき、「岩波もこういう本を出すようになったんだ」というのが自分の感想だった・・・で、岩波が出すこの手の本とはどういう本なのだろうと読み始めると・・・まあ、自分にとって非常に面白かったということです。

Amazonの書評を見るといろいろだけれど、それは読み手の立場でいろいろになるのは当然で僕にとっては面白い、いろいろ考えさせてくれる、問題提起が散りばめられている本だったということになろうか。

しかし、500ページを超える大著を読んだのは久しぶりで、文体は読みやすかったとは言え時間がかかってしまった。短編のエッセイを中心にまとめられているので、どこからでも読み返せるから、自分の気になったところだけ読むのもいいと思うけど、一度は通して読んで見たほうがいいと思う。そうすることで書名の「さよなら未来」の言いたかったことがわかるような気がする。

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通常、自分はブログに本の記事を書くときは章立てを必ず書くのだが、この本は80編の作品が収録されていてそれをいちいち書くのは流石にくたびれるのでやめる。

内容は、音楽のこと、ITのこと、テクノロジーイノベーション、未来と多方面に渡っている。最終的には、書名にある通り、「未来」というものをどう位置付けるか、どう考えるか、「未来」があるということは現在にとってどういうことなのかを考えさせるものになっている。

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一つ一つのエッセイはその時々の事象に対し、著者の考えがシンプルに書かれていて、自分の考えに当てやすく、自分での思索の出発点として大いに役立ったと思う・・・と書いたが、その思索が完結したわけではなく、始まったばかりといったところだ。

自分でも日々感じている、考えていること、例えば、SNSの息苦しさ、IT/ICTはどこに行くのか、これまでの大量生産・大量消費からいかに脱却するか、日本のビジネスや政治の貧困さ、技術と社会の関係、そしてどうしたらもっと楽しく仕事ができるかなどなど多くの課題に対し、考える新たなきっかけを与えてくれたのが本書であった(・・・と過去形で書くのは早すぎる。今、考えている真っ最終といったところか)。

著者は多くの場所を訪れ、多くの人に会い、多くの経験をし、そしてそれらについて多くの思索を試み、文字として、あるいは講演会で自分の思いを語り、読者や聴衆からのフィードバックをさらに思考の糧にして、未来ということを多面的に捉えている。だからこそ、普段自分の独りよがりな考えに拘泥している自分などはこの本を読むことによって違う見方に気づかされ、ハッとさせられることが多かった。そしてそれが自分の思考の錆の一部を剥がしてくれるようで心地よいことでもあったというところだ。

すでに読んでいる人も多いと思うが、読まれていない人は是非まずは立ち読みされることをお勧めする。